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017,使役



 隠れ蓑と化していた森から追い出された巨大梟は、ポチのすさまじい威力の噛み付きで無事仕留めることができた。


 しかし、ファイナルアタックはポチだが、MVPはディエゴだろう。

 地上十メートルの高さまでポチが単独で跳躍するなんて不可能だ。

 それを可能としたのは、ドミノのように配置された石壁の階段。

 進むごとに高くなるように、いつの間にか配置されたそれはディエゴたちの仕事だ。

 石弾の弾幕を張りながら、タイミングを合わせてポチが駆け上がるための階段を、仕留めたあとの分まで考えて設置しているのだから頭が下がる。


 ちなみに、どうやら相手はこの巨大梟一羽だけだったようだ。

 ポチが仕留めた時点で、ルトたちは森から出てきていた。

 こと戦闘においてルトには絶大な信頼をおいている。

 まだほかにもいるようなら、あんなに無警戒に出てきたりはしないだろう。


 それにしても、単独であれほどの魔法を連射してくるのだから、やはり恐ろしい。

 これまでに出会った魔物の中でもダントツの強さだ。

 まあ、迷宮で出会った魔物は雑魚ばかりなので比較にならないんだけどね。

 だがこれで、一応の目標は達成だろう。

 死骸が手に入ったのだからあとは使役するだけ。


 ついでに、少年達の死体もゲットだぜ。


 それはそうと、空に打ち上げられた狼ズの一匹は内臓破裂の上に落下の衝撃で色んな骨が砕けてしまったようで戦闘不能になってしまった。

 だが、こんな状態になっても、まだ活動できる。

 元々死んでいるのだから、脳みそを破壊されない限りは問題ないのだ。

 痛みだって感じないし、食事も睡眠も必要ない。

 ただ、破裂した内臓や砕けてしまった骨を治すにはかなり時間がかかる。

 修復するためのエネルギーと効率をあげるのために、食事と睡眠が必要になるし、ぶっちゃけ狼ズは消耗前提で運用しているので、これほどのダメージを受けてしまっては解除一択になる。


「ありがとう、助かったよ。ごめんね、成仏してね」


 しかし、彼がいなかったら森から梟を叩き出せず、苦しい戦いになったかもしれない。

 そんな彼の功績は、それなりに大きい。


 ルトが運んできてくれた彼に、感謝と謝罪の言葉を伝えてから手を合わせて使役を解除する。

 一瞬で灰になった彼は、結局最後まで虚ろな瞳のままだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 部屋の庭まですべての死骸を運び込み、やっと一息いれることができた。

 魔法で生み出した石弾や石壁は、そのうち崩れてしまうのでそのままでも問題ないし、戦闘跡地なんて元に戻す必要性もない。

 石弾の弾幕でなぎ倒された森の木々も、広大な森の一部分でしかないし、自然破壊だなんだと騒ぐ人間もいないだろう。

 つまりは、後始末なんて考えなくてもいいのだ。


 それよりも、楽しい楽しい新しい下僕の使役のお時間だ。


 狼ズの一匹を解除したので、使役可能数は残り一枠。

 巨大梟は戦力として期待大なので確定としても、少年達が問題になる。


 現在使役しているのは、ルト、ポチ、ディエゴ、狼、切り株お化け三体。

 解除するなら切り株お化けだが、この少年達がどこまで使えるかにもよる。

 自由意思の有無も問題だが、戦闘能力についても疑問だ。

 最低でも、外の世界の情報が引き出せればいいが、ルトたちと同じように喋れなければそれも難しいだろう。

 まあ、とにかく使役してみればわかる話だ。


 まずは、巨大梟の魔法攻撃を盾で捌いていた赤髪の少年からいこう。

 石壁を数発で砕く威力を捌けるのなら、それなりに使えるはず。

 ただ、その盾は砕けてしまったので回収をしていないから別途用意する必要があるけど。


「下級下僕使役」


 手足が曲がらない方向に曲がっていたり、あちこち打撲や切り傷擦り傷だらけだったために追加で魔力を徴収されたが、無事使役は完了した。

 ただ――


「めー虚ろだなー。名前は?」


 残念ながら、自由意思をもたない下僕たちの特徴である虚ろな目をしていた。

 名前を聞いても反応はなく、ほかにも色々と質問をしてみたが、その全てに明確な答えは返ってこなかった。

 最後に戦闘能力を測るためにルトに相手をしてもらったが、一瞬で倒されてしまった。

 もちろん赤髪の少年が、だ。

 通販アプリで買える安い丸盾を持たせてみたのだが、本当に一瞬でルトに倒されていたので、戦闘能力は期待できないと結論づけた。


 もはや迷うことなく、使役を解除して灰にしたが、彼の着ていた使い古した革鎧やいつ洗ったのかわからない服や下着なんかはそのまま残った。

 どうやら灰になるのは肉体だけのようだ。

 ひとつ勉強になったが、これでは残りも期待できない。

 それでも、使役するだけでもSkillのLv上げになるので、ぱぱっと済ませることにした。


 だが、次に使役した青髪の少年は違っていた。

 使役が成功したと同時に、彼は飛び起きて片膝を地面につけ、頭を垂れる――所謂臣下の礼をとってきたのだ。

 これにはさすがに驚いたが、使役できている以上オレに対して危害を加えることはできないので危険は感じていない。


 赤髪の少年は、使役が成功したあとも命令で立ち上がるまでは一切行動をしていなかった。

 狼ズや切り株お化けたちだってそうだ。


 つまり――


「主様。我が忠誠をお受け取りください」

「ちゅうせい」

「はい!」


 赤髪の少年は一切喋ることがなかったが、この青髪の少年は実に流暢に喋っている。

 彼が喋っている言語は外の世界の言葉だろうが、自動翻訳のおかげでオレには綺麗な日本語にしか聞こえない。

 命令されずに行動しているし、オレがオウム返しにした言葉にキラキラした瞳を向けてもきた。

 自由意思があるのは確定。

 だが、なんというか……忠誠とか言われてもなぁ。


「まあ、忠誠を誓ってくれるならそれはそれでいいのかな?」

「ありがとうございます!」


 こういう忠誠の義みたいなのって剣の腹で、相手の肩をポンポンってやったりするんだろうけど、生憎剣はない。

 赤髪の少年が使っていた剣は、折れていたので放置してきたし、ルトがもっているのはトンファーだ。

 刃物はせいぜい包丁くらいしかないんじゃないかな。

 まあ、ないものはないんだから仕方がない。


「ところで君の名前は?」

「はっ! リウルと申します!」

「じゃあ、リウル。森の中に入っていたんだから、戦えるよね? どのくらい強いのかちょっとルトと模擬戦してみて。ルト!」

「は、はい!」


 青髪の少年の名前は、リウル。

 ルトたちははっきりいってかなり強いと思うけど、巨大梟に殺された彼らの強さはよくわからない。

 最低でも、外の世界の情報を仕入れられればいいのであまり期待はしていないが、それでも強いならそれに越したことはない。


 リウルが持っていた槍も折れていたので回収をしていない。

 そこで一番安い槍を通販アプリで購入して与えてみた。

 もちろん、リウルに獲物は何かを聞いた上で、だ。


「じゃあ、両者ともに本気でやるように。でも殺しちゃだめだよ。あくまでも模擬戦だからね。始め!」


 ルトはいつもの防具はなしで、魔式トンファー雷を持ち、リウルは与えた槍を腰を落として構えている。

 構えだけみれば、かなり堂に入っており、熟練者の雰囲気を醸し出しているように思える。

 実際、彼が構えた瞬間に空気が変わったことがはっきりわかったくらいだ。


 ……だが、勝負はあっさりとついてしまった。

 オレの「始め」の言葉が終わった瞬間にはふたりとも動き出しており、リウルは空気を切り裂く音とともに、鋭い突きをくり出す。

 しかし、ルトはあっさりとそれをかわして、カウンターをリウルに叩き込んでいた。

 魔式トンファー雷をこめかみに打ち込まれたリウルは、その一撃であっさりと膝をつき、勝負が決まった。


「ま、参りました……さすがはルト先輩です。あの突きにこうもあっさりカウンターを合わせられるとは……」


 頭を振って立ち上がったリウルだが、ルトの一撃がまだ効いているようで足元がふらついている。


 使役している下僕は、基本的に死体だ。

 なので、痛みなどは感じないし、脳などの重要部分を破壊されない限りは活動も可能。

 ただ、肉体、特に脳みそが機能していると思われるリウルは脳を揺さぶられると、生きているときと同様に三半規管などに支障を来たすのだろう。

 ルトたちのように骨だけの場合は、そういうのはないんだろうけど、これも一長一短かな?

 リウルはルトと違って喋れるからね。

 まあ、逆にいえばそれだけしかメリットがないとも言えるけど。


「ルト、手を合わせてみてどうだった? 迷宮に連れていける?」


 さて、赤髪の少年同様、あっさりと倒されたわけだけど、問題は迷宮に連れて行って足手まといになるかどうかだ。

 自由意思もあるし、使役を解除するのは少し勿体無い。

 できれば戦闘でも役に立ってくれればいいのだが、どうなのかね、ルト先輩さん。


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