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016,ポチ



 街道を行くか、森に入るか迷っていると、少し離れた森側が騒がしくなってきた。

 ルトたちも一斉に警戒体勢に入り、オレも警戒しつつ音がする方向へと目を向ける。


 森から転げるように出てきたのは、見てわかるほどの瀕死の重症を負った少年少女三人組だった。

 短槍を背負った青髪の少年が、ぐったりしている金髪の少女に肩を貸し、その後ろから円盾と剣を持ち必死に何かからの攻撃を時折捌いている赤髪の少年が続く。

 攻撃は明らかに魔法攻撃のようだ。なにせ、攻撃が見えない。

 だが、赤髪の少年が円盾を構えると、円盾に何かがぶつかる衝撃と音が、それなりに離れているこちらにも伝わってくるほどだ。

 攻撃を受けた赤髪の少年は、地面を少しだけ削って後退しているし、衝撃と音から判断しても相当な強さの魔法攻撃だと思われる。


 しかし、彼らの観察もここまでだった。

 なぜなら、青髪の少年がこちらを見つけた瞬間、持っていたはずのタブレットが突然オレの目の前に出現して警告画面を見せつけたからだ。


 青髪の少年が助けを求める声が一瞬だが聞こえた気がするが、何度かの衝撃と音がそれをかき消した。

 持っていたはずのタブレットが目の前に現れたのも、空中に何も支えがないのに滞空しているのも驚いたが、それ以上に画面に表示されている文章が問題だった。


「ルト、ちょっと引くよ」


 空中に浮かぶタブレットを手に取り、静かになったその場から移動を開始する。

 ここじゃ、じっくり読んでる暇がない。

 あの見えない魔法攻撃はかなり強力だし、こちらが狙われたら面倒だ。

 ちらっと確認した状態では、少年少女はピクリとも動いていなかったので、あれはもうだめだろう。

 冷蔵庫にある青汁、もといポーションっぽいものを試すチャンスかもしれないが、結局部屋に戻らないといけないし、彼らに近づけば攻撃される恐れがある。

 ならば、少し時間をおいたほうがいいだろう。


 部屋に戻ると、ちょっと狭いがルトたちは玄関で待機。

 だが、ぶっちゃけ狭すぎてスパイクブーツを脱いだルトや足を雑巾で拭いたポチなんかは、玄関からお風呂場近くまで移動してきていたけど。

 オレはキッチンの前で、タブレットに表示された文章をしっかりと読むことにした。

 先程、さらっと読んだが、内容が内容だけにもっとしっかりと確認するべきものなのだ。


 内容を要約すると――

 外の世界の人間に遭遇した場合、妹神が施した幻術魔法と自動翻訳が起動する。

 妹神が施した魔法なので、外の世界の如何なるものでも解除することはできない。

 幻術魔法は、迷宮駆除契約を結んだ本人と使役対象者全てに効果がある。

 自動翻訳は、文字と言葉を理解できるものに自動的に翻訳する。

 外の世界の人間に対して、通販アプリ及び拠点内の物品を意図的に譲渡した場合、ペナルティが発生する。

 意図しない譲渡に関しては、一週間の奪還期間が設けられる。

 その際、タブレットに奪還対象の詳細位置が表示される。

 奪還期間内に取り戻せなかった場合もペナルティが発生する。

 知識の譲渡は、禁忌に抵触するもの以外ならば制限はない。

 禁忌に抵触する知識は、自動翻訳対象外となる。

 禁忌は、どこぞのオンラインゲームの規約かと思わんばかりの分量があったので少しずつ読み進めていこう。


 要するに、物品チートは難しい。

 知識チートはある程度ならいいよってことらしい。

 ペナルティに関しては、段階が設定されており、一番軽くて数十日の外の世界への外出禁止。

 一番重いものは外の世界へ永遠に出れなくなるようだ。

 これは迷宮の入り口から外の世界へ出る場合も含まれる。


 だが、通販アプリで買ったものを外の世界に持ち出せないなんて制限があったら、オレはかなり辛かっただろう。

 それを考えれば、外の世界の人間に譲渡しなければいいだけなのだから制限はあってないようなものだ。

 ただ、意図しない譲渡、つまりは窃盗や落とし物に関してはかなり気をつけないといけない。

 一週間の猶予期間があるとはいえ、取り戻せなければ面倒だ。

 できるだけ外の世界の街や村に行く場合は、外の世界で購入したものだけを持ち込むべきだろう。


 幻術魔法に関しては、実際にどういう風に外の世界の人間にみえているのかを確認する手段もあった。

 そこで初めてわかった事実なのだが、なんとルトは女性だったのだ。

 いや、実際の性別がそのまま反映されているのかはわからないが、とにかくルトの幻術魔法での見た目は女性だった。

 元気で活発そうな見た目は、庭でポチたちと遊び倒している感じそのままだった。

 まだまだ幼さの残る顔立ちと、凹凸の少ないスタイルのおかげでどうみても中学生だ。

 ポチはふっさふさの大型の白い犬――サモエドだったし、ディエゴや切り株お化けたちは小さな老人だった。

 狼ズは、狼というよりは少し犬っぽい見た目になっている……気がする。威圧的な風貌も優しげなものになっているし、これなら街にいっても大丈夫な気がする。


 禁忌を全部読むのは骨が折れるだろうが、それ以外は理解した。

 あとは実際に街なり村なりに行ってみるしかない。

 まあ、それもあの少年少女を使役できれば必要ないかもしれないけど。


 そのためには、少年少女を襲っていたあの強力な魔法を使う魔物をどうにかしないといけない。

 というか、少年少女よりもあの魔法のほうが欲しい。

 元々、ディエゴたちとは違った属性の魔法を使える魔物を探していたのだ。

 どうみても土魔法ではないし、強力な魔法だ。是非とも欲しい。

 問題は、こちらの全員であたって倒せるのかどうか。


「ルト、あの魔法を使って襲いかかってたやつ、倒せる?」


 オレの質問に、ルトは迷う素振りもなく頷いてくれる。

 幻術魔法での見た目はタブレットを操作して数秒間だけ見えるものなので、今は完全に骨だ。

 だが、中学生にしかみえない姿よりは頼もしい。

 まあ、中学生にしかみえなくてもルトはルトだし、幻術だから関係ないけどね。


「よし。じゃあ、ルト、みんな、期待してるよ!」


 さあ、出撃だ。

 ……まだいるといいけど。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 玄関ドアを抜けると、ルトとポチと狼ズが素早く森に向かって駆け出していく。

 ディエゴ率いる切り株お化け隊は、オレの護衛をしながら魔法攻撃担当だ。

 だが、オレたちはあの強力な魔法攻撃を避けながら移動するのは難しい。

 そこで、防御用の壁を築き、そこに隠れながら魔法攻撃を展開する。

 ディエゴたちは、オレのSkill――下級下僕使役Lv2で行使できる魔法が増えている。

 壁も土壁から、石壁にパワーアップしており、魔法攻撃一発では砕けることはない強度だ。

 ただ、あちらは連射できるのを確認しているので、石壁は切り株お化けたちと同時に行使し、何枚も重ねて築いている。

 石壁の後ろから、こちらもパワーアップした土弾――石弾を弾幕のように連射していく。

 魔力の残量なんて今回は気にしない。

 確実にあの魔物を殺りにいくのだ。


 石弾の弾幕が森の木々を次々破壊していくが、相手の魔法攻撃は止まらない。

 相手が何体いるのかすら不明だが、連射間隔からしてこちらよりは多くない……はず。

 だが、もし一体であれだけの魔法攻撃を続けられるとしたら、とんでもない魔力量と強さだろう。

 石弾の弾幕は、相手の魔法の軌道を計算して、斜め上に向けて射出し続けている。

 水平撃ちではルトたちに当たってしまう可能性もあるからね。


 石弾の弾幕のおかげで、森に突撃したルトたちへの迎撃までは手が回らないようだ。

 ルトたちが森に入っても石弾の弾幕はしばらく続く。

 その間にルトたちが目標を捜索し、できれば打ち取るのだ。

 打ち取るのが無理でも、森から追い出せればディエゴたちの魔法攻撃の的になる。


 森の一部が石弾の弾幕によって次々消滅していき、ついにその瞬間は訪れた。

 合図は単純。

 ルトの装備している魔式トンファー雷の魔法攻撃――スタンによって発生する光だ。

 バチン、という音とともに、暗い森が一瞬だけ明るくなる。

 そして、石弾の弾幕が停止すると狼ズが仕掛け――


「あ」


 反撃を受けて、狼ズの一匹が森の木々よりも高く打ち上がった。

 だが、残りの一匹は攻撃に成功したようで、森から黒い何かが弾き飛ばされる。

 しかし、地面に落ちる前に大きな翼を広げたそれは、大地が揺れるほどの大きな衝撃とともに空へと逃れてしまった。

 今まで攻撃に使用していた魔法攻撃を地面に向けて射出し、その反動を利用して飛んだのだろう。使い方がうまい。


 ただ、うちのディエゴたちも負けていない。

 空へ逃れた黒い魔物――巨大な梟を撃ち落とすべく石弾の弾幕をこれでもかと放っている。

 さすがの巨大梟も、狼ズの一匹の攻撃と咄嗟の地面への魔法攻撃での緊急回避のせいで、ダメージがあるのか、石弾の弾幕をすべてかわすことができない。

 だが、避けられない石弾はすべて魔法攻撃で相殺するという器用さ見せつけてくる。

 石弾の弾幕を、空で完璧に対処する巨大梟。


 しかし忘れてはいけない。

 こちらの手駒はディエゴたちだけではないのだ。


 石弾の弾幕の隙間を縫って飛来するのは、魔式トンファー雷。

 しかも、残ったもう一個のスタンカートリッジの入っているほうだ。紫電を撒き散らしながら迫る魔式トンファー雷を、驚いたように緊急回避する巨大梟。

 石弾の弾幕よりも、魔式トンファー雷のほうが脅威度が高いと判断したのか、石弾を数発受けても、魔式トンファー雷を回避する軌道をとっている。

 その判断は正しい。

 だが、失敗だ。


 無理な体勢での緊急回避のせいで、石弾が数発直撃し、これ以上の回避行動がとれなくなったところへ、ポチが襲いかかった。

 巨大梟はまだ地上十メートル以上の高さだったので、油断したのだろう。

 石弾数発程度のダメージならば、地面に落ちるずっと前に体勢を立て直せる、と。


 骨が砕ける音と、小さな鳥の悲鳴。

 ポチの一撃は、巨大梟の命を確実に奪い去る凄まじいものだった。


 普段オレの護衛に徹していて、ほとんど戦闘らしい戦闘をしていないポチだが、その戦闘力はオレが思っていた以上にすごかったようだ。

 翼を広げれば三メートルくらいはありそうな巨大な梟を、噛み付きの一撃で粉砕してしまったのだから。



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