015,下級下僕使役Lv2
庭で盛大に遊ぶ、愉快な下僕たちの汚れを落とすために、庭に立水栓を設置することにした。
購入が決まればあとは早い。
通販アプリでささっと購入し、ゲームのようなレイアウト設定画面で立水栓を置く場所を決めるだけだ。
場所を決めて、支払いを済ませると、立水栓はすぐに指定された場所に出現してくれた。
本当に便利なものだ。
全体的にレンガ調でまとめられた立水栓には、受け皿もしっかりとついており、蛇口をひねればすぐに水が出てくるようだ。
工事も一瞬で、完璧。
受け皿の排水もしっかりと機能しているようだが、この水はどこにいくのだろうか。
考えても仕方がないことだが、少し気になる。
まあ、それをいったら部屋の電気や水道も同じことなのだが。
立水栓の蛇口は、吐水口が一応動くようだが、複数種類の水流を切り替えられるアクアガン付きのホースリール付きホースも買っておいた。
こういうのがあったほうが、洗浄するのに楽だしね。
ただ、お湯はでないので、迷宮帰りに洗浄するのにはちょっと向かないかもしれない。
でもブラシとか用意すればいけないこともないか?
これで十分なら屋外シャワー室は買わないで済むので、別のことにお金を使える。
……いやいやまてまて。庭の土汚れを落とすのと、魔物の返り血を落とすのとでは訳が違うだろう。
第一、洗い落とした血を庭に垂れ流すのは正直勘弁してほしい。
オレ自身は庭で遊ぶなんてことはないだろうが、これからもルトたちは庭でめいいっぱい遊ぶだろう。
魔物の返り血が垂れ流された庭で遊ばせるのは、かなり抵抗がある。
やはり、屋外シャワー室は必要だな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
汚れも落とし終わり、タオルでささっと拭けばやっと部屋を通れるようになった。
うーむ。やはり、いちいち部屋を通過しなければいけないのは面倒だな。
早いところ庭にドアを移設したい。
夕暮れの花園で、たっぷりと稼がなければ。
予定通りに、狼ズを先行させたところ、特に奇襲などされることもなく外の世界は平和だった。
ただ、それでも魔法による奇襲は、この草の海では厄介極まりないのは変わりない。
ルトたちも一度経験しているとはいえ、普段以上に警戒して進んでいくのは当然だろう。
しばしの間、張り詰めるような緊張感が続いたが、それな時間もディエゴが持っていた棒を掲げたことで終わりを告げた。
事前に決めていた魔法反応の合図だ。
そして、やはりオレの足元から土の剣山が突き出る。
しかし、剣山はディエゴが行使した土の壁によって、オレまで届かずに砕かれた。
オレは横に厚く、高さがあまりない土の壁の上に乗っている状態になり、一段高くなった視点だが、元々幼女なので高くなってもルトよりも低いのであまり意味はない。
だが、この上にいる限りは土の剣山で直接オレを攻撃することはできない。
土弾などの遠距離攻撃の的になりそうだが、ディエゴが残って魔法攻撃の対処をしてくれるので問題ない。
ポチはその他の奇襲対策要員だ。
あまり活躍の機会がないポチだが、オレの護衛なのだからそんなものだ。
むしろ護衛が活躍する場面なんて、かなり危ないのだからポチが活躍するようなことにならないほうがよい。
殴打音と木を噛み砕く音が続き、ルトたちはすぐに切り株お化けの死骸を持って戻ってきた。
今回は特に被害らしい被害はないようなのでよかった。
ここで、狼ズに被害がでていると、前衛組が減ってしまうからな。
まあ、それでも戦力面から見れば魔法のほうが強そうだけど。
ただ、やはりバランスは大事だろう。
ルトだけが前衛というのも大変そうだしね。
さっそく、切り株お化けの死骸を使役する。
いちいち部屋に戻るのも面倒なので、ルトたちに警戒させつつも急いで下級下僕使役を行使する。
まあ、急いでも使役するための時間は変わらないんだけど。精神的にってやつだ。
死霊術師のLvが3にあがったことで、魔力量も増えたのか、ディエゴたちを使役したときよりも、相対的に魔力量の消費は下がっている気がする。
無事持ち帰ってきた切り株お化けの死骸三体を使役と解除を駆使して、使役し終えた。
自由意思持ちはいなかったので、解除も躊躇うことなく、さっくり行えた。
そして三体目を使役し終わったときに、なにかルトたちにオレから魔力が流れたような変な感じがした。
もしかして、とタブレットのステータスを確認してみたところ――
===
Name:ソラ
Class:死霊術師Lv3
Skill:下級下僕使役Lv2 使役数増加Lv1
===
やはり、下級下僕使役がLv2になっていた。
どうやら、下級下僕使役のLvが上がると、使役できる下僕の種類が増えるだけではなく、使役している下僕の能力の底上げもしてくれるらしい。
ルトたちが静かに喜んでいるのが伝わってくる。
これが安全地帯となる部屋の庭だったら、不思議な踊りを踊りまくっていたのだろうな。
仮にもここは、魔物が潜む危険地帯だからね。
それにしても、ルトたちの感情というか思考というか、簡単にだが伝わってくるようになったのがありがたい。
これも下級下僕使役がLv2になったおかげだろう。
もっとLvが上がれば、意思疎通すらも可能になるのかもしれない。
ガイドブックに記載されていたSkillの簡易説明には、本当に簡単にしか書かれていなかったので、実際にSkillのLvが上がってみないことにはどんなことができるようになるのかわからない部分がある。
ただ、基本的に書かれていない部分に関しては副産物的なものなのだろう。
効果もそれほど強いものではないようだし。
まあ、今回の下僕の感情がわかるようになる効果は、副産物でも非常にありがたい。
でも、自由意思を持たない下僕に関しては一切効果がないようだけど。
だからこそ、副産物なのだろうね。
一先ず予定通りに、二体の切り株お化けを使役することができた。
だが、本当にほしいのは土魔法とは別の属性魔法を扱える魔物だ。
次に行くのは、夕暮れの花園という迷宮だから、火属性の魔法なんかが弱点っぽい感じがする。
でも、魔物が燃え上がったらルトたちまで巻き込みそうで、ちょっと心配だな。
ゲームではないのだから、魔法による二次的被害も計算しておかないとね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらくの間草原を進むと、小高い丘を超えた先に大きな森が広がっているのが見えてきた。
そこまでつくまでにも、狼やら切り株お化けやらからそれなりの頻度で襲撃を受けている。
だが、ディエゴのおかげで魔法攻撃は完璧に防げているし、追加した切り株お化けがいるので、交代で魔法を使えば魔力の節約もあまり気にしないでいいようだ。
さらに、下級下僕使役がLv2になった恩恵なのか、ディエゴたちが新しい魔法を使えるようになったのが大きい。
結果として、戦闘時間はさらに短縮されて、使役と解除のほうが時間がかかる始末だ。
魔力の関係上、使役もある程度行ったらやめたけど。
丘を超えると、森に近づくにつれ草の丈も低くなっていく。
これなら、背が低い切り株お化けでも隠れるのは難しいだろう。
魔法による奇襲がなくなるだけでも、だいぶ緊張しないで済むのでありがたい。
たが、森の中は結構暗そうだ。
下草は草原ほどではないが、ところどころに藪などもあり、木々も結構密集しているため、奥を見通せない。
下僕だけでも七体もいるので、こういった障害物の多い場所はあまり行きたくない。
ルトや狼ズは問題ないかもしれないが、ディエゴたちは魔法攻撃がメインなので、障害物が多いと射線の確保など大変そうだ。
まあ、見えていれば剣山で下から穿けるし、木の上なんかは土弾などの遠距離攻撃でいけるか。
何より、ディエゴ本木に聞いてみたところ、問題なさそうに頷いていたので大丈夫だろう。
だが、一先ずは森の外周に沿って移動してみることにする。
いきなり森に入っていくほど、オレも無警戒ではないからね。
森はどうやら、思った以上に広いのか、行けども行けども途切れることがなかった。
いつの間にか草原からもだいぶ離れてしまっているし、何やら踏み固められたような街道らしきものすら見えてきているではないか。
外の世界で初の人間との接触ができそうなものの発見に少し胸が高鳴るが、ルトたちを思い出して、それもどうなんだろうと思い悩む。
どう見てもルトはスケルトンだし、ポチはスケルトンドッグだ。
ディエゴも切り株お化けだし、狼ズならぎりぎり手懐けたといえば通るかもしれないが、ほかは無理すぎる。
外の世界で死霊術師がどんな扱いなのかはわからないが、あまりいいものではないだろう。
死骸を元に下僕を使役する術なのだから、どう考えてもまっとうとはいい難い。
でも、外の世界にどんな魔物がいて、どこに棲息しているのかを知ることができれば、今後の下僕使役にも有益だ。
こればかりは、外の世界を生き抜いている人間たちの持つ情報が頼りだ。
闇雲に探している現状で、これだけ頼りになる下僕たちを得ることができたのは、偏に運が良かっただけなのだ。
森に入る前に、街道に沿って移動して街や村で情報を集めたほうがいいだろうか。
ルトは、フードを被って仮面でもつければスケルトンとはばれなさそうだし、街や村に入るだけなら、ふたりだけでも大丈夫だろう。
外の世界のお金は持っていないが、魔石があるのでそれを換金すればいい。
今のところ、森からは何も出て来る気配はないが、できる限り街道近くではなく森に近い場所を歩いて行く。
さらに進むと、街道が森から離れるように伸びていく。
さて、本格的に街に行くか、森に入るか決めなくてはいけなくなってきたな。