014,ダンジョンコア
ボス部屋の出口の扉を潜り、六階層へ行くために突き進む。
出口の先は少しカーブした通路が続いており、階段の様子は見えない。
だが、少し進んだところで階段ではなく、小さな部屋にたどり着いた。
「あれ? 行き止まりっていうか……ここって」
小さな部屋には階段はなく、ほかに続いている通路もない。
そして何より、部屋の中央には小さな祭壇と、宙に浮く大きめの宝石。
迷宮には、必ず存在するものがある。
それは最下層にあり、そして迷宮のすべてをコントロールし、エネルギーの供給源となるもの――ダンジョンコアだ。
迷宮の大きさに応じてダンジョンコアの大きさも変わる。
目の前にある宝石は五階層しかない迷宮のコアとしてはちょうどよい大きさだ。
というか、これ以上進めないのだから、あれがダンジョンコアで間違いないだろう。
「最低ランクだし、こんなものか」
ルトにダンジョンコアをとってきてもらい、魔石同様にタブレットに押し付ける。
すると、タブレットの画面が報酬画面に切り替わり、そこには合計報酬金額1,020,162円の文字が新たに出現していた。
なんとも中途半端な金額だが、ダンジョンコアの大きさによって金額が変動するらしいので仕方がない。
というか、最低ランクの迷宮で本当に百万円超えの報酬なんだな。
このように、迷宮の駆除とはダンジョンコアを、タブレットに吸収させることによって完了する。
そして、ダンジョンコアがなくなった迷宮はその機能を停止し、魔物を生み出すこともなくなり、ゆっくりと最下層から消えていくそうだ。
ただ、消えるのは本当にゆっくりなので、急いで脱出する必要はない。
停止前から迷宮内にいた魔物に関しては、迷宮によるコントロールが解かれるので、外の世界にでたときと同じ扱いになるそうだ。
なので、迷宮が消えていくのに押し出されるようにして外の世界へ出ていくことになる。
イタチの最後っ屁のように、魔物が溢れ出てくるのだが、それくらいは仕方ないだろう。
もう、この迷宮から魔物が溢れることはないのだから。
無責任かもしれないが、オレのやるべきことは魔物退治ではなく、迷宮駆除だ。
それに、大量にいた魔物はほとんど蹴散らしてきたので、外に出る魔物の数も大したことはないだろう。
あとは、外の世界の住人たちがなんとかすべきことなのだ。
いつまでもこの場所に留まっていても意味はないので、部屋に帰るとしよう。
まだ処理していない魔石とかもあるし、お昼の用意もしないとね。
「これでこの迷宮は駆除完了だな。みんなお疲れ様でした! さあ、帰ろう!」
みんなを労ってから、鍵を空中に差し込みドアを開く。
こうして、オレの初の迷宮駆除は終わったのだった。
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とはいえ、最低ランクの迷宮ひとつを駆除しただけで地球に戻ろうとは思わない。
当然これからも迷宮の駆除は続ける。
ルトたちがいれば、もっと難易度の高い迷宮だって駆除できるはずだ。
そのためにも、お金を貯めてもっといい装備を買ってサポートしなきゃね。
部屋に戻ってきてお昼を済ませて、食休みのついでに魔石をタブレットに押し付ける。
ルトたちはすでに洗浄を済ませて庭で元気に走り回っている。
今日はどうやら、狼ズと自由意思のない切り株お化けを障害物に見立てた競争をしているらしい。
庭は狭くはないが、それほど広いわけでもない。
それでも結構白熱しているようだ。
驚きなのが、ディエゴが意外と足が早いことだろうか。
狼ズのお腹の下を潜り抜けるのも早い。
ルトはその辺で少々手こずっていたが、直線で一気に距離が縮まっていたので、早いといってもやはり見た目より少し早い程度のようだ。
……おっと、ついつい見入ってしまって手が止まっていた。
さっさとやらないと終わらないぞ。
そうそう、ダンジョンコアの報酬なのだが、どうやら地球へ帰った時の報酬だけではなく、通販アプリで使えるお金も入っていたようだ。
その額、なんと約五万円。
地球の報酬からするとかなり少ないが、それでも今現在この額は嬉しい。
おかげで、魔式トンファー雷が買える。
カートリッジもそれなりに買えそうだし、ますますルトの攻撃力が上がりそうだ。
結局、すべての魔石を処分した総額は、ダンジョンコアの分を含めて約十万円にもなった。
昨日の残りを合わせて、120,390円。
魔式トンファー雷とカートリッジを二箱購入しても、まだまだ余裕がある。
なので、ルトたちにご褒美として庭で遊べる玩具をいくつか買ってあげよう。
まずは、定番のフリスビーにソフトボールやサッカーボールといったボール関連といったところだろうか。
余った骨で、いつまでも遊ばせておくのはしのびない。
さっそく、購入して渡してやれば、自由意思組全員で不思議な踊りを踊って喜びを表現していた。
ディエゴから伝播したその踊り、君らほんと好きだよね。
あ、でも、部屋の窓にはぶつけないように。割れるからね。
まあ、今までも骨をぶつけたりしてないから、大丈夫だとは思うけど。
一応予備もいくつか購入しておき、それも渡しておく。
不思議な踊りを踊り終わると、ボールを持ってさっそく庭で遊び始める。
こうしてみていると微笑ましいものがあるが、オレは慣れてしまったからそう感じるだけだろう。
スケルトンとスケルトンドッグ、切り株お化けがボール遊びだ。
どう考えても微笑ましくなかったわ。
とりあえず、残りは庭にドアを移設するのと、屋外シャワー室用に貯めておこう。
ただ、屋外シャワー室は拘らなければ、安いものもあることがわかった。
まあ、テントタイプの簡易的なものなので、毎日使うことを考えたらもっとちゃんとしたものを購入するべきだろうけどね。
通販アプリを眺めるのをやめて、次はステータスをチェックする。
昨日の倍は魔物を倒しているので、ClassがLvアップしているのではないかと思ったのだが、本当に上がっているのだから驚いた。
この間Lv2になったばかりなのに、もうLv3だ。
これで、さらに使役できる下僕の数が、二体増える。
魔法が強力な攻撃手段になることはもうわかっているので、次も狙うなら魔法持ちだろう。
ただ、すでにディエゴたちが土魔法を使える。
できれば別の属性の魔法を使える下僕がほしいが、どこにいるのかは相変わらずわからない。
一先ずは切り株お化けを二体追加して、違う属性の魔法が使える魔物が見つかったら交換する方向でいこう。
次に向かう迷宮も決めておかなければいけない。
とはいっても、無理そうならほかの迷宮へ行けばいい。
あまり選択肢はないが、それでも選べないほどではないから問題ない。
今現在選べる迷宮は、最低ランクの迷宮が二箇所。その次のランク2の迷宮が二箇所だ。
ランク3の迷宮はランク2の迷宮をひとつでも駆除しないと、選択肢すらでないのだろう。
ランク2の迷宮もネズミの王国を駆除したら、選択できるようになっていたし。
用心して最低ランクの迷宮にまた行ってもいいけど、現状でも火力過多気味だ。
使役できる数がさらに増えているので、当然ながら迷宮探索は新たに下僕を使役したあとになる。
そうなると、どう考えても戦闘時間がさらに短くなるだろう。
……魔石の処理でまた面倒なことになるので、それだったらランク2のほうに行ってみたい。
だめそうだったらランク1に戻ればいいしね。
というわけで、次に攻略する迷宮はランク2にすることにした。
ふたつあるので、とりあえず名前の響きで気に入った、「夕暮れの花園」を探索しよう。
迷宮の名前は、そのまま迷宮の特徴を表している。
きっと夕日に照らされた花々はさぞかし綺麗なことだろう、なんて。
今は幼女なので、メルヘンチックなことを思ってみたり。
それはともかく、たぶんでてくる魔物は植物系になるんだろうな。
植物系といえば、蔦なんかに巻きつかれて……。
いやいや、ああいうのは見る分には楽しいが、自分がそうなったらやばいだろう。
ただでさえ、戦闘力皆無なのだし。
まあ、オレにまで攻撃が届くような状況はかなり危険な状態を示しているので、そうならないことを祈っていよう。
ルトたちがいれば、ランク2の迷宮だって楽勝だろうけど。
迷宮探索は明日にして、まずは新たな下僕の調達だ。
とはいっても、迷宮内では死骸が残らないので、また外の世界に向かうことになる。
ディエゴたちをゲットしたところに出ることになるので、出てすぐに魔法で奇襲されたらかなり面倒くさいことになる。
なので、今回も安全面を考慮して狼ズ二匹による先行調査を実施することにした。
庭でボール遊びに夢中になっていた、愉快な下僕たちを呼び寄せて今回の主旨を説明する。
優先すべきは土魔法以外を使える魔物の死骸。
あとはまあ、魔力の持つ限り使役と解除を繰り返してSkillのLv上げくらいだろうか。
説明が終われば、準備の時間だ。
なにせ、この愉快な下僕たちは庭で元気に遊んでいたのだ。
それなりに土だらけとなっているのは仕方ない。
ルトが前もって雑巾を数枚用意しているので今までは問題はなかったが、今回は、ボールという新しい玩具のせいで、雑巾では間に合わないくらい汚れが酷いし。
……庭にも水道が欲しいな。
確か立水栓が一万円くらいで買えたはずだ。
お金にはまだ余裕もあるし、買ってしまえ!
……きっと、こうやって無駄遣いしまくっていってしまうんだろうな。
でも、今後もきっと使うことが多いはずだから、これくらいはいいだろう。うん、必要経費必要経費。