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010,vs切り株お化け




 いきなり、ポチにフードを引っ張られて草の中にダイブさせられた。


「ポチ! 何すってなんだあれ!?」


 だが、オレが先程までいたところには、土の剣山のようなものが斜めに生えていた。

 ポチが引っ張ってくれなければ今頃、幼女の串刺しが完成していたことだろう。

 ありがとう、ポチ! 怒ってごめん!


 だが、今はまずは状況を確認しなければいけない。

 すでに草の海では、戦闘が開始しており、激しく草が揺れ動き、ところどころでは倒れて、何やら石が突き刺さっているのがみえる。


「これは……相手は土魔法使いか?」


 土の剣山といい、石の弾丸っぽいのといい、なんともそれっぽい。

 戦闘には参加せず、ずっとオレの側で警戒体勢をとっているポチの骨を握りながら戦況を見極める。

 とはいっても、無力なオレには何もできない。

 というわけではなく、ポチの手を煩わせないように避ける準備くらいはできる。


 オレが落とされれば、そこで終了なのだからできることは当然全力でやる。

 それが攻撃じゃなくて、回避準備だとしても、だ。


 だが、最初の一撃以外、オレに向かう攻撃は結局なかった。

 緊張していたからか、戦闘時間は一分とも十分とも感じられるものだったが、実際はどうなのかはわからない。

 それでも、ルトたちは見事に敵を殲滅して戻ってきてくれた。


 ただ、狼が二匹ほど歩くのがやっとなほどのダメージを受けていたが。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これが敵の正体か……なんだっけ、これ」


 ルトたちが回収してきた死骸は、一言で言うと切り株だった。

 いや、切り株に目と鼻と口、手足が生えた――切り株お化けだろうか。

 某国民的竜のクエストに出てくるアレだ。

 ただ、少し違うのが、手には木の棒のようなものを、どの切り株お化けも持っていることだろう。


 切り株お化けの数は三体。

 噛み砕かれたあとが何箇所もあり、大きな骨で殴られてえぐられた部分も多数ある。

 触ってみると、見た目と違って少し柔らかめな切り株のようだ。

 だが、今はそんなことよりも早くこの場を離れるべきだろう。


 鼻の効く狼に対して、毎回奇襲することができていたルトたちが先制攻撃を受けてしまう相手なのだ。

 しかも、魔法と思われるものを使ってくる。

 狼なんかよりもよほど手強い相手だ。


 ルトたちも警戒は解いておらず、狼二匹も負傷している。

 次、この切り株お化けが襲ってきたら、負けはしないまでも苦戦は必至。

 それに、念願の魔法持ちだ。

 大きさもそれほどでもないので、部屋に持ち帰ってから使役したい。

 それに、ちょうどいいタイミングで雨も降り始めてきたからね。


「よし、撤収! ルト、それ持ってきて!」


 すぐさま鍵を空中に差し込み、ドアを開く。

 部屋に入ってすぐに洗面所のドアを開け、ルトが持ってきた切り株お化けの死骸を放り込ませる。

 この際洗面所は多少汚れても仕方ない。


 そして、残念だが負傷した狼はここまでだ。

 切り株お化け相手に奮戦してくれたのは、とても感謝している。

 でも、使役できる限界数もあるしな。

 それに、ちょうど負傷した狼は新参の狼で、こういってはなんだが汚い。

 またルトに洗わせるのは大変だ。


「今日はありがとうな。成仏してくれ」


 少しだけ手慣れた本日何度目になるかわからない使役解除を行い、灰になる二匹の狼。

 自由意思を持たない彼らは、最後まで結局虚ろな瞳のままだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 返り血や戦闘でついた汚れなんかを全部落としたあと、庭に切り株お化けの死骸を運んでもらう。

 三体ある切り株お化けの死骸だが、使役可能な数は残り二体だ。

 魔力の消費具合にもよるが、一度解除して三体すべてに下級下僕使役を行使するつもりだ。

 その結果、使役数増加がLvアップしてくれればまた下僕確保に向かいたい。

 Lvアップしなければ、休憩してから迷宮探索の続きだな。


「ではでは」


 さっそく下級下僕使役を切り株お化けに行使して、下僕を誕生させる。

 黒い魔法陣が消えたあとには、損傷も綺麗になくなった切り株お化けが残っており、キョロキョロと周囲を眺めていた。


 ……あれ? もしかして?


「やあ、おまえは今からオレのげぼ……仲間だ。わかる?」


 キョロキョロしていた切り株お化けだが、オレが声をかけると少し驚いたあと、コクコクと体全体を使ってリアクションを返してくれた。

 これは、たぶん、自由意思があるっぽい?


 ただ、やっぱりしゃべれないみたいなので、まだよくわからない。

 軽く命令もしてみたが、しっかりと聞いてくれたのでとりあえず問題ないだろう。


 消費した魔力は狼よりもずっと多いが、残り二体ならなんとかなる。

 魔力を完全に消費してしまうと気絶してしまうようなので、そこは気をつけなければいけない。

 一番損傷していた死骸を最初に使役したので、あとの二体で魔力を追加徴収されることはないだろう。


 結果として、二体の使役で魔力を使い切ることはなかった。

 そう、二体目に使役した切り株お化けは、一体目と違って使役後も微動だにせず、瞳も虚ろだったのだ。

 まあ、切り株お化けの瞳は飾りのように見えるので、並べて見比べてみないとわからないくらいだったけど。


 三体目の切り株お化けも二体目同様だったので、一体目の切り株お化けは自由意思を持っているとみてよいだろう。

 なのでこの子には名前をつける。


「決めた! おまえの名前はディエゴだ」


 一体目の切り株お化けにディエゴという名前をつけてやると、ルトたち同様に飛び跳ねて喜んでくれた。

 さらに不思議な踊りを踊りだし、それをみたルトたちがこれまた不思議な踊りを踊り始めて、すごくカオスだった。


 何はともあれ、これで三体目の自由意思持ちだ。

 ルトたちの有能さは十分に理解しているし、しかもディエゴは初の攻撃魔法持ちだ。

 否が応でも期待が高まってしまう。

 頼むぞ、土魔法使い!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おー……すごいな、これは」


 さっそく、ディエゴの実力を確認するために、庭で土魔法を使ってもらった。

 結果は、思っていた以上にすごい。


 オレを襲った土の剣山を筆頭に、土を固めて射出する土弾。任意の場所に、土の壁を作り出す土壁。小さく固めた土を散弾のように飛ばす礫。

 どれも使える魔法ばかりだ。

 使用できる回数も、結構多く、少し休めばまた使うことができる。

 オレの魔力回復量よりもずっと多いように思える。

 ただ、実際にこれらの魔法で、どの程度魔力を消費しているのかはわからないので、確実なことはいえないけど。


 しかし、問題もあった。

 ディエゴの使える土魔法は基本的に決まったものだけで、庭にできあがってしまった剣山や壁はどうにもできないということだ。

 仕方なく、ルトに崩してもらったけど。

 実験は庭でやるもんじゃないな。


 魔法の実験が終わった頃には、ちょうどよくお昼になっていた。

 午後には迷宮探索に行くことを伝え、オレはお昼の準備を始める。

 庭では、ディエゴの歓迎のつもりなのか、ルトたちがまた不思議な踊りを踊っている。

 仲良くやってくれるならなんでもいいけど。


 今日のお昼も食材が変わり映えしないので、あまり変わらない。

 ステーキ肉を細かく切って、野菜と炒めて野菜炒めにする程度だ。

 早くも飽き始めているので、新たな食材に手を出してみようか少し迷う。

 ルト用の装備はだいぶ整ってきたが、食材は結構高い。

 しかも、自動補充の対象外なので、一回食べたら終わりだ。

 なのでここは新たな調味料を購入することにしよう。

 味を変えれば、ステーキ肉だってまだまだいけるだろう。


 そろそろ、冷凍しておいたご飯もなくなるので、新たに大量にご飯を炊いて冷凍しておくとしよう。

 米も自動補充されるので、いくら使ってもいいのがありがたい。

 でも、たまにはパンも食べたくなるんだよな。

 こればっかりは調味料の問題でもないから困る。


 お金が貯まったら、たまの贅沢に買うか。


 野菜炒めを食べて、炊いたお米を小分けにして冷凍しておく。

 冷凍してあるお米が入っているので、少し冷ましてからだけどね。

 冷凍庫に何もなかったら、そのまま突っ込んじゃうんだけど。


 食休みも終わったので、そろそろ迷宮探索の準備をする。

 とはいっても、ローブとゴミ袋とタブレットを用意するだけだから簡単だ。

 あとはみんなに声をかけるだけ。


 今日は三階層の続きだ。

 ディエゴともう一体の切り株お化けがいるので、戦闘に関して不安はない。

 元々、ルトたちだけでも十分だったしね。


 さあ、目指すは四階層。


 そういえば、ネズミの王国は何階層まであるんだろう?




某国民的RPGは、きりかぶおばけ。

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