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ソレスの村

「あの…青年達は…あの少年は…」


一部始終を見ていた男がいた。


レーダーである。


レーダーはオリヴィエールの命を受けて、山岳神殿都市に来ていた。


アルカディア国軍は出せないから、神殿奴隷を持って対処に当たれと告げにきた矢先だった。


「それにしても見事な…」


レーダーは口ひげを撫でた。


動揺する大神官を諌め静め、帰路するところで東端の村からの騒動に駆け付けようと、崖建つ神殿を降り始めた所…。


まだ子どものような少年然とした金髪の武人が指揮をし、短時間で決着をつけた。


「しかも…なんだ、あれは…神々の落とし子か?」


胸元から発光する光を取り出した金髪の輝ける少年と、複射引き弓の青年。


この二人をオリヴィエール皇子の片腕に欲しい。


お側付きの若い士官だけでなく、軍の礎になる若い将を。


オリヴィエールに知らせなくてはと、城に馬の轡を返し走っていく。


小さい頃からオリヴィエールに付き従い剣術の指南をしてきたレーダーが感じるのは、オリヴィエールには覇気がない。


知的で書を嗜み争いを厭うオリヴィエールの性質は、様々な国との侵略や攻防に明け暮れるアルカディアの次期国王には物足りないと思われている。


だからこそあの若者たちのような凛気りんきが欲しいのだ。


市民ならば願い出て、奴隷ならば金で引き取ればいい。


はやる気持ちを抑えきれず、レーダーは馬を走らせた。





村では宴会もたけなわになっていた。


建前上、多くの石切場奴隷が失われ、今回奴隷として捕らえられた者と、前回の襲撃で捕らえられた家族までもが、帰ってきていた。


神殿奴隷は村の防御柵の組み直しに駆り出され、その中にうまく紛れ込んだアーレフとリーリアムは村からの振る舞い酒を飲んでいる。


山岳神殿都市では大神官がバビロンを蹴散らしたこの村に褒美の葡萄酒樽を寄越し、その中でソレスが酒を次々に注がれ、次々に飲み干していた。


「兄ちゃん、あんた外国人だろ。アルカディアになんか用事かい」


それすの仲間らしい市民石工いしくも大概に酔っており、アーレフは絡まれ助けを求めたが、リーリアムは今回の出来事を声高らかに叙事歌としていて、ソレスも酔い潰れそうになっている。


「俺はアルカディア人だ。しばらく外にいたが。姉を探しているんだ」


樽葡萄酒を立て続けに飲まされ、アーレフも顔を真っ赤にしていた。


どうやら酒に弱いたちらしく、杯はそれほど重ねてはいない。


「山岳神殿都市の奥神殿に女神官が配置されたと聞いてきたのだが…空振りだった」


ソレスは女の子たちに囲まれて、葡萄酒を注がれていたが、気もそぞろだった。


「あ〜、にーちゃんのお姉さんならめちゃくちゃ綺麗なんだろうさ〜。あんたもさ〜、大概に可愛いしな〜」


ぎゃっはっは〜と笑われて、アーレフは苦笑いをしながら立ち上がる。


「お…と…と…」


立ち上がったアーレフはたたらを踏んで、慌てて手を出したソレスにもたれ掛かった。


「アーレフ…お前、酒弱っ」


「うん?ソレスか」


アーレフが酔っ払い特有の飛び切りの笑顔で抱き着くと、オリオンの腕の中ですうすうと瞬殺で眠りにつく。


「あ〜あ…兄ちゃん、寝ちゃったよ…」


酒を注いでいた石工は、大笑いした。


「ソレス、両親の家に連れていけ。今日は奴隷も無礼講だろう」


石切場奴隷管理をする長は山岳のこの村の人間で、ソレスをよく知っている。


その男から言われて、ソレスは頭を下げた。


奴隷の数人は逃げ果せたはずだが、故郷に帰り付けただろうか。


「ねえ、ねえ、僕も行っていいかなあ」


「兄ちゃんはまだ歌えや」


「ええ〜」


アーレフと同じく神殿に仕える奴隷のリーリアムは、村長に気に入られたらしい。


吟遊詩人などの娯楽は、こんな山岳地帯には珍しく高嶺の花だ。


リーリアムを見つめる女たちの目の色も違う。


焚火の焚かれた広間から、小柄なアーレフをひょいと抱き上げてあまりの軽さに驚いた。




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