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肉鞘の剣

アルカディア国の一番東端の山間に位置する山岳神殿都市群は、バビロンの襲撃に度々あっている。


山岳神殿都市を取り巻く小さな村は自警団を組織し、アルカディア軍の出兵までを、自力で守らなくてはならなかった。


「俺達十人足らずで何しろってんだ!」


山肌が競り細い瓜状に広がる村の一番奥で悲鳴が上がる。


木の組み壁が落とされ、バビロンの遊撃兵が、アルカディア人を奴隷とすべく村人を連れていくのだ。


「長老」


村の長老は石切場の奴隷を集めて走って来たソレスを見た。


「おお、ソレス!来てくれたか。お前の弓が頼りだ」


この細い山肌の村こそがソレスの故郷であり、歩いてたった数分の場所でソレスは奴隷として働いていたのだ。


「たかだか、百人の軍勢程度だ。正面は俺たちで、後は村を守ってくれよ」


ソレスの言葉に長老は一瞬ためらい、そしてうなずいた。


石造りの家から炎が上がる。


「長老、早く」


「ああ、みんな頼んだぞ」


ソレスと奴隷だけを広間に残し、一斉に散会した。


取り残されたような状態に、石切場の奴隷たちは不満そうにソレスを無言で見つめる。


「……逃げるなら今だ。故郷に帰れ」


ソレスは笑顔で奴隷たちを見る。


「え?あ、おい!」


ソレスの言葉に奴隷たちが慌てて一瞬見つめあい、背を向けたソレスの背後で足音が乱れそして消えた。


神殿奴隷兵士は神殿を守るのが仕事で、山岳神殿都市に近隣の村などは守りはしない。


「なんだ…お前一人か」


意外な声がしてソレスが振り返ると、そこには黄金の獅子のような少年然とした剣士がいた。


しかも竪琴を背に背負ったなまめかしい優美な美しさの男を連れていた。


「弓矢なんだねえ、彼」


「ふん…だからこそ、好都合だ。鉄のやじりには価値がある。ソレス、合図したら天に向かい次々と矢を放て!」


広間に来た綺麗な二人にバルバロイ軍は、失笑とも嘲笑とも着かない声を上げて集まってくる。


続々と集まり、前面に群がった。


何も持たない美しい金髪の少年が右手を胸に当て、左手の人差し指と中指を唇に押し当て、吐息を指に載せる。


「体内に宿る剣よ、我に力を」


胸から閃光が迸り、柄が浮かび上がる。


パリパリと発光し、


「剣が…現れた…」


とソレスが驚いていると


「ソレス、打て!」


とアーレフの鋭い声が飛び、ソレスは合図と共に、一射、二射…と繰り返し天に向かって打つ。


アーレフは胸元から引き出した発光した剣を、横真一文字に振った。


輝く光は矢の切っ先を捕らえ、まるで編み目のように光がバルバロイ兵を包み、もんどりを打って痙攣し全員がど…っ倒れ込む。


「す…げ…」


ソレスは弓を戻したが、


「大将を狙うぞ、ついて来い」


と言い放つアーレフについて走り出した。


「あ、僕もいくよお。置いていかないでよ」


アーレフとソレスとリーリアムは東端の国境とも言える組み壁に向かう。


向かって来る兵士はアーレフが剣で切り、ソレスが背後から呼応するかのように弓を引く。


「引き弓、真ん中の子ども。肩を狙うんだよ」


戦闘に巻き込まれないようにか木の根元にいるリーリアムに言われて、ソレスは東の囲いから出ようとしていた兵士たちに弓を引き絞った。


真ん中の子供みたいな小年齢の兵士の左肩に矢が食い込み、兵士は完全に足を止める。


兵士達は口々にその子どもに声をかけていた。


アーレフは走り込み右手の剣を自分より若干年下の、鉄兜に亜麻色の髪を押し込んだ子に突き付ける。


『くっ…成人の儀が…』


低い声で唸りを上げるが、


『成人の儀式の最中に申し訳ないが、このゲームは終わりだ。バビロンの剣士。それともバビロンの皇子とでも…?』


とアーレフは静かに告げた。


『言葉が解るのか…』


ソレスはアーレフの横に歩み寄る。


「アーレフ、蛮族の言葉が…?」


「ああ。蛮族ではない。バビロンだ。彼らもまたアルカディアと同じく王制を引き、彼は王の何からの関係者だ」


村人がほうほうの手で現れて、互いの無事を喜び合う。


重傷者はいるが、死者がいない村人と、十人弱しか生き残りのいないバビロン兵。


しかし村人の何人かが行方不明だということになり、村人が殺気立つ。


「待ちなされ。無益な戦いは終わりだ」


長老はアーレフに通訳を願った。


「奴隷として生け捕りにされた我が村人を、無事に返してくれれば、解放しよう、どうだね」


子どもが静かに頷く。


伝令として二人のバビロン兵士を解放し、村の外れの盆地で待つこと、しばらくして村人が兵士に連れられてやってくる。


「奴隷狩り…か」


国単位で奴隷を求める不条理。


再会した家族の元で、バビロンの子どもを解放した。


『なぜ…殺さない。我は皇子なるぞ!』


アーレフよりも若い子どもが、アーレフを見上げた。


『死の影が見えないからだ。死にたくはないだろう?』


アーレフは剣を胸に押し込みしまうと、立ち去った。



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