アーレフとソレス
次に目覚めると空間には誰もいなくて、アーレフはあの子どもたちを探した。
同じく破滅の剣の肉鞘として選ばれた破滅の神の使い子を。
安らぎの泉に入る扉を開けると、黒髪の男が泉に片足を入れて座っていた。
淡い光に包まれて、横笛を吹き、泉の縁に乗っている。
「ソレス…」
俯いていた顔が上がり、ソレスが微笑んだ。
「やっと会えた…アーレフ…俺のの友」
立ち上がりアーレフの黒髪になってしまった、短い巻き毛口づけをする。
ソレスはそのままアーレフを抱きしめ、
「俺の力は剛力、お前の力になれるだろう。お前の共にいることこそ、俺の希望。お前と共に生きたかった」
と呟いた。
「子どもたちは?」
「お前が力を使ったから消滅した。今頃は忘却の川を渡り、蘇るさ」
「ソレス…お前は…」
ソレスは少し困った顔をする。
「破滅の剣に取り込まれた俺は…そのままだ。アーレフ、この剣を良いことに使え。決して憎しみの上に振るってはならない。俺は白銀の浄化によって解放され、子どもたち同様に忘却の川を渡ることができる」
抱き寄せられ抱きしめられて、そのままアーレフの中に消えていくソレスの背を、ひたすら抱きしめていた手を握りしめた。
心の中に甘美な思いが込み上げる。
会いたい…。
声が聞きたい…。
触れたい…。
友として愛している…離れたくない…。
そんな気持ちが一気に巡り、アーレフは胸を押さえて、暗黒の辺に座り込んだ。
「ソレス…」
知った感情に怯える。
会えない不安…。
会いたい焦燥…。
触れたい指先…。
肉の薄い唇の吐息…。
会いたい…。
愛したい…。
愛されたい…。
「ソレス!」
ふわり…と黒絹の柔らかさに抱きしめられる。
大丈夫…また、会おう。
ソレスの声を心中に聞いて、泣きそうになる。
これが…愛おしいという思い。
シリウスの思いという『経験』を吸収し思いを知って、アーレフはその感情を理解したのだ。
「大丈夫だ」
哀しみと苦しみ…ソレスに会えない…気持ち。
「ソレス…お前は…よき友だ」
不意に玻璃が割れるように、黒が砕けた破片となり飛び散り、光り輝く…そう…漆黒の闇の間とは違い、まばゆいばかりの光りの中にアーレフは倒れ込んだ。
「アーレフ、アーレフ!目を開けて!」
そのまま、レティーシアの声がして、体を強く抱き起こされる。
「アーレフ、ねえ、私よ、レティーシアよ。」
レティーシアの両眼から涙が溢れ、アーレフの頬にぱたぱたと落ちて、アーレフはその温かさに目を開いた。
「ああ…アーレフ…」
双眸が開きアーレフと同じ金の瞳に、アーレフが映る。
「ああ…アーレフ会いたかった…」
「レティーシア…姉上…会えた…やっと…会えた…」
お互いに抱き合い、抱きしめ、涙を流し、言葉は出てこない。
抱き合い泣いて瓦礫を背に、互いの腕を絡め座った。
「背が伸びたのね…昔は私のが大きかったのに」
「一応、男だから」
「顔は可愛いままなのに」
レティーシアはクスリと笑う。
「可愛くなんかっ…姉上は綺麗になった…すごく…」
アーレフは眩しそうに、レティーシアを見た。
「ありがとう、アーレフ…髪…黒くなってしまったのね…私はアーレフを守れなかった…父様に言われていたのに…」
レティーシアがアーレフの短くなった柔らかい黒い巻毛に触れ、そして一筋の涙を流す。
「私は…アーレフに破滅の剣を使わせないための楔だったのに…私のために剣は抜かれてしまった…ごめんなさい…」
「姉上!」
アーレフはレティーシアを見つめ、小さい頃のようにレティーシアはアーレフの額に口づけをした。
「アーレフ、今までも愛していたわ。今も愛しているわ」
レティーシアはアーレフの手を取り、立ち上がった。




