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背中の傷痕と黒い影

リーリアムは眩しさで目を覚ます。


「早起きだなあ…」


横で寝ていたはずのアーレフがいないのに、ぼんやりと気付いた。


アーレフは家の外の共同井戸前で、まるで死の影を振り払うかのように剣を持って動くことを想定し空を切る。


明らかに剣士としての型があるその剣術は、美しい演舞のようで、見惚れていた。


汗をかいたのか諸肌になったアーレフが、井戸に釣瓶を降ろし、水を頭から被る。


背中…。


遠目でもくっきりとした赤い線が見て取れた。


神官に鞭打たれた跡だ。


アーレフの黄金の髪は奴隷たちの中でも悪目立ちし、際立った容貌は、好色な神官達の噂にもなっていた。


伽を強要した神官に唾を吐き、血まみれになるほど背中を鞭打たれ、挙げ句の果てに殺されそうになっていたのをリーリアムはただ見ているしかなかった。


その時アーレフが必死で抵抗した証と、初めて見た発光する剣。


熱が出て死にうなされ、生を呪うほどの怒りから、アーレフを寝ずに看病していた時、アーレフはただ憎しみの言葉を吐いていて、リーリアムはぞくりと震えた。


竪琴リラをつま弾けることがお気に召したのか楽師として神官に連れていかれたリーリアムは石運びから解放されたが、抵抗を続けるアーレフは何度も抵抗し鞭打たれ数人がかりで押さえつけられ、新しくきた奴隷たちの代わりに従順になるべく打ち込ちこまれ、悲鳴の代わりに歯を食いしばり、


「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してや…」


と意識を失うまでひたすら呪いの言葉のように繰り返していたのだ。


「従えばいいのに…」


生きるために争うのは正直疲れる…流され流されて生きればいいのに…。


リーリアムはそんな数年前の思い出に浸っていると、アーレフが黒い影に包まれているような気がして思わず


「アーレフ」


と寝台から飛び起き叫んだ。


アーレフは被った水滴を振り払うように、くるりと振り返る。


「ああ、リーリアム、起きたのか」


そのまま剣と服を掴んで歩み寄るその笑顔は、まだ子どものようで、汚れず輝き続ける黄金が自分だけに向けらている。


あれから別れたアーレフを探して探して、この山岳神殿にたどり着いたのだと話したら、気持ち悪いと避けられるだろうか…それも面白いかもしれない。


その優越感にリーリアムは心踊った。


「布で拭いたら?」


部屋の中でふわりとした金髪から、滴を撒き散らしているアーレフに、布を寄越す。


「ああ」


わしわしを髪を拭き、適度に乾いたところで腰からたらした服を羽織り、革紐で縛り直していた。


「痕…残ったたねぇ」


鞭打ちの痕は近くで見ると、引き攣れ蚯蚓みみず腫れのようになっている。


「大したことはない」


アーレフの言葉に、


「あの時と同じ台詞だよ」


とリーリアムは苦笑し、返し言葉を言われてアーレフはムッとした顔をした。


「そうかな?」


「そうだよ。アーレフったら子どもらしくなくってさあ」


ひとしきりアーレフの昔を語って嫌な顔をされた後、朝食を取り神殿警護に向かうついでに、リーリアムを神殿へ放り込む…放り込まれる話しをした時だった。


「バビロンが来たっ」


泡を吹きながら神殿兵士はそういうと、血を流して路上にばったりと倒れる。


アルカディアの1番東、バビロンの侵略に怯える山岳都市の男達は、王城の修復など石切や石積みにかり出されることが多かったから、山岳都市は故に侵略されやすく、もろい都市であった。


「アルカディア軍はっ」


城ではまだ軍備が整わないのか、変化がない。


騒ぎ立てる奴隷たちの中で、ざわざわと広場に男たちが集まって来た。


1番奥の家から悲鳴が上がり、バビロン遊軍の華やかな甲冑が見える。


「アーレフ、契機なんじゃない?奥神殿に忍び込む」


遠くにソレスが弓と矢筒をとり駆け出す姿が見て取れた。


「……そうだ。姉上を迎えにいく」


アーレフは静かに群衆から逃れると、リーリアムと共に山の階に作られた神殿に向かった。



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