アルカディオンの攻防
アーレフは剣を持つと、アルカディア兵を薙ぎ倒した。
「シリウス、兵を頼むぞ」
馬から勢い飛び降りてたたらを踏むと、そして大木を押し付ける壁に向かって、剣を向ける。
「貴様、何をっ!」
「いくぞ、ソレス」
黒発光を刃に乗せ、壁に振り切った。
壁に亀裂が入り、それに向かって、一気に大木を押し込む。
激しい音がして、大木は壁を突き抜け、城壁は崩落した。
「オーロリオン将軍が我々に勝利をくれたぞ!」
叫んだシリウスが、アーレフを自分の馬に引きずり上げた。
「さ、何か喋れよ」
シリウスの言葉に、エレフは叫ぶ。
「俺は、全ての奴隷を解放する!全てだ!」
怒号のような歓声が起こり、第一城壁から奴隷部隊が一気に入り込んだ。
第一城壁内は市民権を持つ国民が、ひっそりと家に引きこもり、自分達の財産を守っている姿が滑稽だった。
市民を守るはずのアルカディア兵は、第二城壁に向かい、ぴたりと扉を閉めている。
第一城壁を放棄し、攻撃の兆しは見えなかった。
「アーレフ、暗くなってきたよ。休息しようよ?兵士を休ませて、隊の再編成しないとねえ」
リーリアムに言われて、アーレフは
「そうだな」
と渋々頷いた。
夜の帳の中でも、昼のように見えるアーレフは、暗闇での戦いに違和感がなく、連戦の疲労感もなかった。
「オーロリオン将軍、スープとパンです」
第一城壁の穴を広げた壁に、もたれていたアーレフにも、食事が配られる。
開放された子どもの奴隷が、与えられた食事を食べ終わり、お代わりをしていいのかと、皿を持って立とうした。
その子どもの皿に、アーレフはスープを流し、パンを与える。
「足りないだろう。食べろ」
汚れた子どもは、必死で慌てて食べ始めた。
アーレフは空になった皿を、リーリアムとシリウスのところに持っていく。
「口に合ったかな?」
リーリアムが言うと、
「…ああ」
とアーレフは曖昧に笑う。
「戦局はどうだね?」
炊き出しをしていたクレタ公が、アーレフに気付いて近付いてくる。
「公、残念ながらアルカディア王軍が城に入りました」
ミゲルが手製の眼鏡を引き上げ、鳩からの情報をまとめた。
「王軍は三つに分散し、こちらの狙い通りになりました」
エレフは頷いた。
「バビロン王軍はうまく時間をかけながら進軍してくれている。このまま引き付けてくれれば…」
クレタ公がアーレフに囁いた。
「勝てるかい?」
クレタ公は今まで奴隷解放軍に金をつぎ込み、海の小国の代表として勝利はあるのか…と危惧したのだ。
「無論。アルカディア王国は、姉を殺した悪そのものだ」
アーレフは微笑んだ。
「だから、討つのだ」
と。
明け方になり、奴隷解放軍は第二城壁に縄梯子をかけたり、城壁の兵士に弓をかけたりしていた。
「オーロリオン将軍、鳩が」
クレタ公は疲れた眼のをしかめながら、鳩を見つめる。
バビロン王国軍が、右背後のアルカディア連峰を越えてやって来たのだ。
「オーロリオン将軍!余を見直したか?」
騎馬で山を一気にかけぬける。
山の防御はないと見た、アーレフが取った奇策だった。
正面と海から奴隷解放軍が、山越えをして側面からバビロン王国隊が攻撃する。
第二城壁になだれ込み入り込んだバビロン軍は、アルカディア兵と戦いながら、城壁扉の閂に取り付き、木の扉を引き開けた。
「全軍、突入−−−−っ」
「オーロリオン将軍に続け−−−っ!」
奴隷軍は勢いつつも、統制をとり、アルカディア城壁を取り囲むように、ぐるりと回る貴族都市の道を、右翼左翼と別れてアルカディア軍を殲滅していった。
「女、子どもは捨て置け!我等の敵はアルカディア軍と王家だ」
クレタ公が前線の指揮を取り、ペルシャザル達バビロン軍はアーレフの元に走った。
「アーレフ、アルカディア兵が少ない。城で待ち構える布陣だな」
アーレフは頷く。
「城門をやぶると、敵に囲まれるな。先に兵力を潰さないと…ペルシャザル、鉄槍はどれくらいある?」
「ざっと二百」




