二人の血路
クレタ隊の情報ではアルカディア王軍は、トラキア国境にて、マケドニア軍と膠着状態であった。
その機を逃す手はなく、最大の奴隷都市イオリアス攻略の手を打つ。
奴隷の数が膨れ上がった部隊は手に鉄武具をもち、軍の再編制をした。
「シリウス隊、海洋に進軍」
ガレーが一斉に出た。
「リーリアム隊、進軍」
弓矢隊を中心とした隊がが歩き始める。
「ミロス隊、進軍」
情報隊と補給の馬車が騎馬の中を進んだ。
「オーロリオン隊、進軍」
槍をもつ歩兵中心の隊が、進軍する。
全てが聖都と呼ばれるイオリアスへ、そしてその上のアルカディア首都アルカディオンへと。
アルカディア王軍はマケドニアの執拗な攻撃に、休息も取れずにいた。
進軍により地を荒らされたトラキアは、元々小さなポリスの集まりで、トラキア自体を守りつつ戦う羽目になり、アルカディア王軍のいくばくかを、トラキアのために割かなくてはならなかった。
「マケドニアの騎兵隊を崩せ」
「歩兵は何をしている」
国境の軍城でオリヴェールは、膠着した戦いに立ち上がった。
「皇子、お待ちください」
カロルが慌てる。
「騎馬を停めてみよう。目くらましだ。兵を左右に分け、マケドニア兵を城に引き付けてくれ」
城の目前に迫るマケドニア騎兵を前に、オリヴェールは剣を取り出した。
「聖剣アルカディアよ。頼むよ」
「危のうございます!」
そのまま剣を振りあげると、流星のようにマケドニア騎兵の頭の上を薙ぎ払い、騎馬は混乱した。
大将の首を切り落とすと、刃こぼれもしない長刀は血曇りもなく次の獲物を狙う。
「お見事でございます、皇子」
カロルが頭を下げた。
この息一つ乱さない冷静な戦士が、本来のオリヴェールの姿だったのだ。
「うん、これで撤退してくれればよいのだが…」
馬が総崩れしたマケドニア軍を、城に駐留していたアルカディア軍が攻撃をかけ、武官が勇猛にも前線指揮を取り、率いる歩兵隊が討ち漏らした兵を蹴散らしていく。
「勝機見えましたな」
カロルは城内に戻るように促した。
「これでしばらくは、均衡を保つでしょう」
「トラキアからの要望は、最大限呑むように伝えろ」
「かしこまりました」
マケドニア軍の進軍後退を確認し、城内はやっと安穏な空気となった。
砦にて一ヶ月。
休み無しの攻防戦に、幕屋の陣営は飲み食いに、休息にと、ざわめいている。
城内もささやかな祝いが設けられ、互いの息災と武勲に語り合っていた。
そこに文官が緊張した面持ちでやってくる。
「殿下、イオリアスが墜ちました」
城内が静まった。
文官は立礼のまま、先ほど来た伝令からの言葉を繋ぐ。
「イオリアスが陥落。オーロリオン率いる奴隷解放軍の仕業のようです。さらに、レーダー様も討たれ、現在、第一城壁にて攻防中。また、向背より、バビロンの大本軍進軍の由、急ぎお戻りをとのことです」
文官が言葉を切ると、城内は一気にざわめき出す。
「オーロリオンとは何者か?」
「奴隷将軍…だとしか…」
「奴隷?名勇レーダーを倒した程の者が?」
「なんとも…」
「城は大丈夫なのか」
「第一城壁までです…としか…」
「ええい、頼りないっ」
文官に詰め寄り騒ぎ立てる貴族達を、オリヴェールは剣鞘で床を打ち鳴らすことで鎮めた。
「各々方、聞いての通りだ。出撃は近い。各隊の休息と補給をし、速やかなる陣形を期待する」
オリヴェールは広間から出た。
政務室に向かう中、強烈な不安感と安堵感に襲われる。
オーロリオン…黄金の獅子…。
「アテネー…」
私は…これを口実に、アルカディ城に…アテネーの元に帰りたいのだ。
オリヴェールは自嘲した。




