表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/53

シリウスの故郷

奴隷解放軍はアナトリアから山道を降る形で、海沿いの滅びた国エフェリスに向かう。


一方バビロン隊は増援しアルカディアの山を越えながら、聖都イオリアスにひそかに向かっていた。


レーダー軍とは奴隷部隊のみでの対峙となる。


新たに軍に加わった奴隷達に槍を持たせ、ゆっくりと進軍した。


「レーダー隊はエフェリスの布陣を解く様子はありません」


ミゲル隊からの情報に、疲弊も見えた徒歩の奴隷達を気遣い、野営とした。


干し肉を食べ、ワインが振る舞われ、焚火の回りに集まりが出来た。


リーリアムは竪琴を片手に、アナトリアで作った歌を歌わされ、いくつかの焚火を回る。


アーレフはミゲル隊と情報作戦を練り上げ話し込み、さらに各隊の長も新たな戦力になった奴隷達と語らっている。


そのどこにもシリウスがいず、シリウスは隊から離れた、木の遮りの切れた岩場に座っていた。


「シリウス、ワインはどうかな?」


リーリアムは背後からシリウスに近寄った。


「ああ、リーリアムか…」


岩に座っていたシリウスは杯を貰い、ワインを満たして飲み干した。


目下に開けた向こうに、海が見える。


「あの海沿いにエフェリスの城があった。小さな国だったが、俺の親友は王で、俺の妹が妃だったんだ」


今は瓦礫の城にアルカディアの駐留部隊がのさばり、村人はアルカディアに麦とオリーブを送るだけの、農奴となった。


シリウスは杯を煽る。


「アルカディア王軍が陸、海と攻めて来て、海は俺達エフェリス水軍が征した。陸は…全滅したんだ。その時の将軍がレーダー」


シリウスは言葉を切り、杯を重ねる。


「王は弱い男ではなかった。簡単にやられる男ではなかった」


捕まりアルカディアで妃と共に首に縄をかけられ、シリウスはぶら下がる二人をただ惨めに見上げていた。


「妹は…腹に子どもがいたのに…」


木の杯を握り潰さんばかりに、両手で掴む。


「俺は…レーダーに勝てるのか…」


「勝てるでしょ、そりゃあ」


リーリアムがさらりと言った。


「我々には『黄金の獅子』と恐れられるアーレフがいて、戦いのために集まった仲間がいる。あなたの後ろには勇猛な部下が、そして僕らもいる。大丈夫だって」


にこにことリーリアムは笑う。


「おまえ、酔っているのか?」


シリウスはリーリアムに詰め寄る。


「どうだかねえ」


リーリアムも杯を重ねた。


「俺の…家族のために鎮魂歌を願えないか?」


杯の手を止めて、リーリアムを見た。


「いいよ」


リーリアムは自分の唇に指を押し付け、風に流すように竪琴を弾き始める。


悲しい…切ない…曲調は…どこか懐かしく…。


「最初、お前がアーレフと戦わないかと誘ってきた時は、別にどうでもよかったんだ。適当なところで脱走して…と考えていたんだぜ」


何もかも投げ出したくなっていたシリウスは、船に残ったリーリアムから砂金と共に話しを受けた。


「それなのに…今や軍を率いているわけだ」


「それはお互い様。僕だって、竪琴を剣に変えているわけだし…」


歌に酔いしれて、シリウスは立ち上がる。


「勝ちたい…勝ちたい…勝ちたい!」


シリウスは赤茶に焼けた黒髪に手を入れて、がしがしと掻きむしった。


「勝つよ。僕たちには最強の黄金の獅子がいる」


「そうだ、オーロリオン!オーロリオンがいる!うおおおー!」


「うるさいなあ、もう」


シリウスは獅子の真似のような咆哮をし、自らを鼓舞した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ