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アナトリアの勝利

アルカディア王国、東の最果て山岳神殿都市アナトリアでは混乱をきたしていた。


アナトリアの東端から進軍して来た、赤の布を肩から腰紐で留めた、奴隷開放軍に城壁を乗り越えられたのだ。


王軍の半分をイオリアスに向かわせた結果、城の中を固めるだけで、王族を守る篭城になりつつあった。


奴隷軍と対峙していたアナトリア軍は、背後から回り込んで来たバビロン軍に、裏城壁を越えられ、侵入を許したのだ。


「王軍は必ず殲滅しろ。城門を破る!」


アーレフは馬から降りて、剣を抜いた。


引き抜きのかかる上に、裏から兵士が押す門の前に立ち、息吹を指先に乗せ、刃をなぞる。


黒い放電を放つ剣を門に振り抜き、さらに雷鳴で城門を破壊する。


「シリウス隊、突撃−−っ」


起動力に富んだシリウス隊は、一気に王軍を殲滅に掛かる。


「リーリアム隊は王族を索敵。ミゲル隊はペルシャザル国王に伝令」


「はっ」


そのまま一気に城内に走っていく。


王軍は人数が少なく、徹底的に訓練された奴隷軍に圧倒されていた。


そして先頭を走る黄金の奴隷解放軍将軍に、恐れ戦いて動けずにいる。


全てが一撃で切り捨てられ、金の瞳で睨まれると、死を感じて身がすくんだ。


黒剣が振り上げられるたびに、血肉が飛び散り、屍が折り重なる。


「オーロリオン将軍、王と王妃を捕らえました!」


髪についた返り血を、頭を振って払い、シリウス隊に残りいくばくも無い王軍の、完全なる殲滅を言い放つ。


「生き残りはアルカディオンの戦力になる。必ず殺せ!」


シリウスは非情とも言える言葉に、


「はっ」


と、従う。


ミゲル隊の伝令と共に、アーレフが城内の階段を上がると、バビロン隊とリーリアム隊が廊下で、王と王妃を取り囲んでいた。


「オーロリオン将軍」


リーリアムが片膝をついて礼をとる。


「いや、いい」


リーリアムを立たせる。


「ペルシャザル国王、裏城壁からの侵入、お見事だ」


ペルシャザルはバビロンの鎧に王族の鮮やかなマントを羽織っている。


「前線の陽動のお陰だ。大神官は殺したが、この王と王妃はどうする?」


エレフは無気力に座る王族を蔑むように見た。


「バビロン風には?」


ペルシャザルは首に手を当てて、


「余の国では、罪人は首を落とし、晒すのだ」


と肩を竦めた。


アーレフは


「では、そうしよう。墜ちたアナトリア城は、バビロンの物。処刑もバビロンに」


バビロン隊が王と王妃を立たせ槍で串刺しにし、その首を一気に撥ねた。


この日、アナトリアは落城。


たった一日。


わずかばかりの奴隷軍と、バビロン王国軍に。


アナトリア軍は一人残らず、殲滅。


晒し首はイオリアスに向かっている小さな王子以外の、王族全てにわたる。


完全な勝利で終わった。


奴隷たちは開放され、強制労働は廃止された。


穀物蔵を開放し配り、当面の生活に充てさせる。


城にバビロンの旗と、奴隷軍の赤色の旗が、並んではためいていた。


「さてさて、我らがオーロリオンは、バビロン国王と懇ろにおなりか?」


シリウスは城の見晴台から旗を見る。


階下には、アナトリア軍の死体と、城壁の外には首晒し台に人垣が出来ていた。


「さあ…ペルシャザルちゃんが一方的にアーレフに惚れてるみたいだけどねえ」


「ほお…?」


リーリアムは片手に竪琴を持っている。


リーリアムの滅びた国、家に伝わる竪琴だ。


「久しぶりに、剣から解放されたよ」


「お前、竪琴…ひけるのか?」


リーリアムは懐かしそうに竪琴を撫でた。


「もう、数日も触ってないよ。指が鈍っちゃった」


指でつまびくと、美しい音色が空気を包む。


「なんか、歌えよ」


明け方の空に、リーリアムは即興で歌を作る。


アーレフの生きた証を…。


竪琴が止まると、見晴台に上がって来た大勢が、拍手をしてきた。


「わあ…何なの?」


アーレフは拍手をしながら、前に進み出る。


「血生臭い戦場に、竪琴が聞こえて来たからな」


リーリアムは


「ちゃんと歌えていたかなあ」


と頭をかく。


「もう一曲といいたいところだが、アルカディアきっての名将レーダー率いる部隊が、エフェリスに駐留した」


エフェリスと聞いて、シリウスがいきり立つ。


「シリウス、地の利はお前にある。殲滅にいくぞ」


シリウスはにやりと笑った。


「勿論ですとも、オーロリオン将軍」




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