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漆黒のソレス

話し込んで徹夜をし、真っ赤に腫らした目を伏せて、アーレフは明け方の部屋の外に出た。


ペルシャザルが眠ってしまったのだ。


部屋に戻ると、アーレフの衣が洗われて乾いた状態でおいてあり、侍女が湯浴みをしろと案内をしようとする。


『湯は待ってくれ。城庭に泉はあるか?』


アーレフは案内された場所に行くと人払いをし、羽織りを開け紗を外し全裸になり、やや冷たい水に入った。


香りきつい油を水を浸した布で流していく。


小さな泉には、崩れた神殿があり、忘れ去られし神を奉っていたようだ。


泉の清らかな水が心地よかった。


「アーレフは…神様みたいだ…」


昨晩はうとうととペルシャザルが呟いていて、笑ってしまった。


「凄く…綺麗…で…少し…哀しい」


夜半…バビロンの優しき少女は小さくうずくまって眠ってしまった。


アーレフは泉から上がろうとして、不意に足を取られる。


「え…?」


腰までしかない浅い泉に、黒い影が過ぎり人の姿を作り出す。


その全てが…黒。


そして二つの黒い手が動けないアーレフの首に回され、トプン…とアーレフを泉に沈める。


息苦しくはなく、ただ驚きに叫んだりする間もなく、黒衣の影に抱きしめられる。


「ソレス…」


意識を失う記憶の隅に、名前が残った。





「綺麗…」


「金の髪が綺麗…」


「宝石の瞳が綺麗…」


「涙が…綺麗」


「綺麗…だね…」


「綺麗…ね…」


「染まってしまうの?」


「黒に…染めてしまうの?」


「金が…綺麗なのに…」


…なんのことだ…?


ささやかなひそやかな子どもたちの声が聞こえる。


アーレフがは目眩のする頭を押さえた。


逃げ回る馬に振り落とされたみたいだ…。


「まだ…動けはしないだろうよ…我が友…破滅の剣…」


気付けば黒の裳を褥に、アーレフは横たわっていた。


ほのかに青白い明かりが灯る、薄暗闇。


床も天も黒曜で、傍らに座る黒衣の人が、主とわかる風格を醸し出していた。


「ここは…」


体を起こすが…重い。


「破滅の剣の中だ。子どもたちはそう呼んでる」


…破滅の…剣?


「…お前は…」


影が苦笑いした。


「忘れたか…まあ、仕方ない。俺はソレス。破滅の剣の中にいる唯一の大人であり…いてて!」


アーレフはソレスの真っ黒になった長い髪を掴んだ。


「ソレス…だ…」


たっぷりとした布を使ったローブに、相変わらずの大きな体躯。


灰褐色の髪は長い黒になり、瞳すら黒くなっているのに、たじろいた。


体は起こしたが、立ち上がることは出来なかった。


アーレフは座り込んで、


「俺を…お前を殺したことを恨んでいるか…ソレスよ」


と、呟いた。


「いや…アーレフは死の苦しみから俺を救ってくれたんだぜ。だけどちびたちは破滅の剣を身に宿したが故、殺されたらしい。恨んでいるのは…あいつらだろうよ」


黒曜の床が水を打つように揺らぎ、幼き黒い子どもたちの凄惨な死の風景がが映った。


寝台に眠りまどろむ子を、呪われた子として刺す父親。


焼けた火に投げ込まれた子ども。


「ひどい…」


水鏡のように揺らぐ映像で、子どもは泣き叫び動かなくなり、光りの中で剣に吸い込まれていく。


「お前も…子どもたちも、ずっとここにいるのか…」


アーレフの問いにソレスは答えず、


「破滅の剣を身に宿すアーレフ、お前は破滅の神そのもの。お前が闇に堕ちれば、俺たちもまた闇の中のままだ」


ソレスは言葉を切る。


「復讐を止めろ。怒りを持って身の剣を使ってはならない」


映像が歪み、凄惨な子どもたちの死に様が消えた。


「この子たちもまた、アーレフと同じ肉の鞘だった」


アーレフは涙を流し、その涙が黒曜の床を輝かせる。


「…レティーシアを…姉上を失った…それを…忘れろと言うのか!俺はアルカディア王国を壊す力が…欲しい!」


ソレスが溜息し、手を差し延べる。


「俺の手を取れよ…」


あの時…ソレスの首を…胸に刺した剣…その中にソレスはいた。


あんなに安心できて、心許すソレスの手を…取る。


ソレスは、今や剣そのものだ。


それは、破滅であり、滅びそのもの。





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