義理兄と義理弟
昼夜を問わず走り倒し、そしてアナトリアの入口、第一城壁にて先陣を切っていたレェードが止まった。
城壁前で仁王立ちに立つ黄金の髪の少年に、レェードが気付いたからだ。
「君は…北山岳都市の…」
驚き馬から飛び降りて走り出そうとするレーダーを、
「待て」
とレェードは止める。
「レェード国王陛下…?」
レーダーは戸惑った。
なぜ…レェード国王陛下が、あの黄金の少年を知っているのか。
なぜ…あの少年は、怒りに満ち満ちた顔をしているのか。
「うまく逃れたようだな、我が義弟よ。私こそがアルカディア王国国王レェード…貴様の姉と、育ての父を殺し、間接的には貴様の母の死の要因にもなった憎き仇よ…」
レーダーは動揺して馬の手綱を持ったまま、立ち尽くした。
「義弟…義理の…義理…?まさかっ!陛下!」
騎馬から降りて歩み寄るレェードは、厳しい目で立ちはだかるアーレフに、戦慄を覚え立ち止まった。
「貴様…アルカディアの王になったらしいな」
「おかげさまで…な」
アーレフは鋭い目で、レェードを睨んでいる。
「偽王が…戯れ事を」
アーレフは胸に手を当て剣を抜いた。
「ほう…王に刃を向けるのか、レーダー!剣を!」
「は……はっ!」
アーレフが剣を抜きながら、走り込んでくる。
左に切り替えしレェードは渡された剣を左手に掴み、アーレフの脇腹を撃つ。
「ぐっ…」
レェードは寸手に引き下がり、間合いを取る。
「貴様が…この国を…この世界を…!歪めた」
間合いを狭め、レェードは剣を繰り返し打ち入れた。
「私を認めない国など認めない!どうだ…今は私が王だ!」
レェードは吐き捨て、剣を横に掠う。
青銅の剣から火花が散った。
騎馬から降りた兵士達は、ただ呆然と成り行きを見ていた。
「貴様のつまらない矜持に、レティーシアを巻き込み…姉上は…貴様のため供物となった」
激しい光球が繰り出されるアーレフの回りで、青白い火花が放出される。
「ふははは…。お前達は産まれ落ちた瞬間から忌子だったのだ。だからこそ、国の人柱として役立ててやろうと思ったのたが…貴様の姉は私の国王の座に役だった。貴様にも…役立ってもらおう!」
「はっ…戯言を!」
「お前たち、何をしている!攻撃しろ!」
防戦に回ったレェードが叫ぶが、しかしアーレフの気迫に圧されて、動くことも出来ず、レェードは舌打ちをする。
『黒い悪魔』とも呼ばれたレェードを圧倒する剣技を、『黄金の獅子』と戯言されるアーレフが持っていたことに驚きを隠せないでいた。
アーレフの剣が放つ発光の雷がレェードの大振りな聖剣を弾き飛ばし、レェードは地に臥した。
肩で息をするアーレフは、
「皆、そこで見ていろ!」
と叫んだ!
やっとたどりついたシリウスとリーリアムは息を切らせながらアーレフの声を聞く。
アーレフの剣が青白く発光した。
「姿すらも残さず、消え失せろ!レェードッ!」
「俺を殺しても、世界は変わらんぞ、金の小僧……っ…!」
発光した剣はレェードを胸を刺し地面に縫い留め、高温の焔を放ち、レェードだったものは、黒い塊となり、槍の下に転がった。
「……見事……」
レーダーは膝をつき礼をとり、それから王を失い動揺したした兵士に指示を与えてた。
「アナトリア武官は騎馬二十と共に急ぎ帰城。レェード元国王の私室資料を調査せよ。及び側近を尋問せよ」
一旦、言葉を切り、
「その消し炭も持っていくといい。…みせしめになる」
「はっ」
武官は早足の馬を持つ、何人かに声をかけていく。
「貴方は…オリヴェール皇子の新国王の下には付かぬか?」
カストルが頭を下げた。
「俺は…俺は…お前たちを…この国を許せない…」
「そうか…」
残念だが…レェード国王が言う王族という彼は、もう相容れないところにいるようだ。
果たして本当なのか、調べ尽くさねばならぬ。
知り得るのは伏せる第一王妃のみ…。
レーダーは語気を強め、金の少年とその周りにいる男たちに叫んだ。
「奴隷解放軍よ!半日のち応戦する!足早にアナトリアから立ち去るがいい!」
黄金の獅子が踵を返す。
アーレフはかつてレェードだったものを一瞥して、乗って来た馬に跨がった。
「シリウス、今一度、先に向かう。アナトリアを脱出し、陣をまとめ進軍する」
アーレフは静かに、しかし王全たる物言いで、シリウスは頭を下げた。




