黒い悪魔の真実
政務室で書類をぱらぱらとめくっていたレェードは、レーダーの報告に呻いた。
「奴隷の暴動…だと?」
レーダーは
「第一城壁にてレェード皇子に矢を放った男の、仲間だと思われます」
と、頭を下げた。
奴隷の反乱はしばしば起こる。
そのたびに首謀者を断罪してきた。
それが…失敗した…ということだ。
「ガレーで港を出港、エフェリス手前で乗り捨て目下、アナトリアに向かっているようです」
「小賢しい…新たなる国王として自ら出向くとするか…」
レェードの言葉に頭を下げる。
「馬を用意せよ。奴隷どもは歩きだ。ほどなく捕捉するだろう。五十騎程用意させよ」
「はっ」
レーダーは部屋を足早に出ていく。
レェードは牢に繋いだ、神へのさらなる供物がいなくなっていることに、 歯ぎしりをしていた。
金の神を彷彿とさせる体から剣を取り出す儀式には、精神的価値が高かったのだが…。
しかし運命に呼応するかのように、奴隷風情に矢をかけられ父国王が呆気なく死んだ。
「うまくいくものだ…」
レェードはほくそ笑み、部屋を出る。
失意のオリヴェールは部屋からあまり出てこない。
重臣からは毒殺を示唆されたが、禁止した。
今、城内でオリヴェールが死んでは、血塗られた玉座となってしまう。
オリヴェール派は完全に失墜し部下のほとんどがレェードの下に着き、オリヴェールにはどこぞの戦場で散ってもらわなければならぬ、それが重畳と考えていた。
「レェード皇子、国王になった暁には、オリヴェール皇子の廃嫡をお考え下さい」
側近が城の私室で、甲冑を用意する。
「そうだな…父の喪が明ければすぐに、即位式だ。お前には苦労をかける」
「いえ、喜ばしことでございます。出立前にお母上様にご挨拶を」
胴当の紐を調整し、黒いマントを羽織ると、国母となる第二妃の元へ歩んだ。
「む…何事だ」
母の部屋から嬌声と、酒の匂いが立ち込めている。
「おお、我がレェード」
もろ肌になり酩酊な風の第二妃は、同じく酒に酔う大神官の膝を椅子にして杯を挙げた。
大神官は神ゼウスへ祈りを捧げ、政治、軍事の神託を国王に授ける役目を担い、無垢なる聖人が神の言葉を降ろしている。
何よりも清らかであれという大神官が深酒をあおり、レェードは母を見下ろした。
「母上…大神官殿、これは…」
第二妃は妖艶に微笑む。
「他人行儀な呼び方はやめい。お父上と呼びなされ」
レェードは目を見開いた。
「な…んだと…」
酩酊した第二妃はレェードの表情の変化に気付かない。
「何が神の国アルカディア、気取った国よ。レェード、唯人であるお前が治め、国を人に帰依させようぞ」
禿げ上がった大神官が、高らかに笑った。
「私は…神の血脈では…ないと?」
大神官は酔いが回り、杯を手から落とす。
「聖剣がおぬしを選ばなかった時点で、なにも思わなんだか?第二妃様もお人が悪い…とと」
第二妃を膝から退かせて、よろめき杯を取ったが、その太った体躯は音もなく崩れ落ちた。
レェードが無言で剣を振るったのだ。
大神官の首は床に落ち、叫ぶ間もなく酩酊の母の首も落とす。
数秒たち、血を吹き出す二人に振り向かず、レェードは部屋を立ち去った。
「レェード様…物音…ひっ…」
「騒ぐな!第二妃と大神官は国王の後を追って亡くなった!冥府へのとも連れを選ばれたのだ」




