黄金の獅子の遣い手達
山岳都市の破壊された神殿に陣を敷き、干し肉と固焼きパンにワインの夕食を取り、各々が寛いでいる。
リーリアムは何をするわけでもなく、神殿の崩れた石段に座るアーレフを見た。
シリウスが歩み寄ってなにか話している。
頷くアーレフと横に座ったミゲルがなにやらアーレフに聞いていた。
各地で集まった奴隷達の多くは、元々軍属だったから、シリウスがきっちりと司令塔として、作り替えたのだ。
命令の統制と、各グループにおける長の管理。
シリウスとシリウスの部下の二つの奴隷大隊と、アーレフの単体、そして、クレタ島からの定期的な物資情報隊は、瞬く間に組織となり、
『奴隷解放軍』
と、まことしやかに命名された。
旗頭のアーレフは、さらに山深いアナトリアへ向かう旨だけを伝え、そこから何をどうするのか、明かしてはいない。
…そのあとは、どうするつもりかな…。
「リーリアムいいか?」
考え込んでいたリーリアムの前に、シリウスが前に立ち、崩れた神殿の最奥の泉へ誘う。
「みんなに聞かれたくない話し?随分離れたんだけど…」
リーリアムが立ち止まるシリウスに向き直ると、シリウスの顔が近付き、思わず身構えると剣を投げて寄越された。
「えーと…なに?」
「手合わせを頼むよ」
シリウスが歯を剥き出して笑った。
「動揺してるんだけど…楽師に剣なんて…何なの?」
「ミゲルがアーレフを診てる間暇だろ?」
「………本気?」
リーリアムは苦笑した。
「そういうことは、自分の部下に…」
シリウスが言葉を遮る。
「誰でも良いってわけじゃあないさ。そうじゃないんだ、判るだろう」
第二大隊の部下の裁量に考えあぐねていることは知っていたが、リーリアムはそんな重責を負う気はさらさらなかったし、第一アーレフの側から離れるつもりはないのだが、この男にとって、至極真面目な考えだったということで、リーリアムは
「楽師から楽器を取り上げたら、ただの人だよ」
と答え剣を構えた。
「僕は本当にこういったことは…不得手で…」
「まあまあ」
と、シリウスが突進して来る。
「怪我をしない程度に手合わせをしよう。そこら辺りは俺に任せて貰おうか」
リーリアムの剣が鈍い音を立てて、シリウスの攻撃を止めた。
「はあ…そんな適当な」
「色気のない言い方を言いなさんな」
あっという間に、間合いを取られ懐に入られた時、リーリアムははじめて動揺する。
リーリアムは身を縮め、横飛びに飛んで低い姿勢をとった。
「やるじゃないか」
「嫌いなんだよね、こういうの」
親に命令され興味はない意味はないと、適当に学んだ剣技だったが、今の自分の有様が信じられなかった。
切っ先を避けた瞬間、剣を持った腕が伸びシリウスに反撃をし、斜め下から振り上げられそうになり、足で刃を蹴り上げる。
「あっ…ちょっ…と…待って!」
「いいや、待てない」
そのままバランスを崩すと、シリウスの剣が正面から振って来た。
「あっ!」
シリウスの厳しい息遣いを耳にして、リーリアムは体をよじる。
草が身体にこびりつき、別の角度から剣がやってきて、息を詰めながら飛び起きた。
「死んじゃうよ…これ!」
「お前、死んでないし」
激しく刃を煌めかされ、歯を食いしばるほどの緊張感の中、
「……くあっ!」
と悲鳴のような息を漏らし、シリウスの剣を叩き落とし、シリウスの
「おっ…!」
という感嘆の声に、息を吐き出す。
「やっぱり、左翼はお前だな、リーリアム。お前、相当出来る」
揶愉するシリウスの言葉に、リーリアムは消え入りそうに真っ赤になり、
「いや…こーゆーのは好きじゃくて…」
と、剣を捨てると、草むらに置いた竪琴を手にする。
「奴じゃあ、役不足だ。なあ、リーリアム、お前、アーレフを動かしてなにを考えている?」
リーリアムはシリウスに笑いかけた。
「さあ…僕はアーレフを黄金の獅子の伝説を歌いたいだけだよ。それにね…」
もしかしたら…アルカディア王国の血筋のアーレフが継いでいるかもしれない。
「アルカディア王国は、うちの大将により崩されるかもしれないな」
シリウスは続けた。
「我々は、神が決めた理を縦糸に、人の生き様を横糸に、世を織り成す。そして不条理というスパイスで、痛みを与えられている、糞食らえだ。うちの大将は、そんな神々に闘いを挑んでいるのかも知れない。ま、俺の邪心ではあるが…。結果は神のみぞ、知る…ってやつだ」




