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伝説のはじまり

二人でソレスに黙礼をすると、ソレスの葬儀を全て任せてしまったクレタ公を探した。


クレタ公の館は騒然としていた。


二人の男が海水で濡れた体で、クレタ公の座する椅子の壇下で、土下座をしていたのだ。


「お願いでございますっ。隊長をお助け下さいっ」


クレタ公はアーレフを見つけると立ち上がり、アーレフの前に行き、頭を下げる。


アーレフは首を横に振る。


「俺も公も大切な者を失った。黒い悪魔が元凶だ。奴のために命が消えていく」


クレタ公は言葉を失った。


昨晩、取り乱し泣いていたアーレフが、静かに微笑んでいた。


姉の…友の…死を受け入れ、受け止めた『凪』がある。


「何かあったの?」


「シリウス隊長をお助け下さい!」


男は顔を上げた。


「シリウス…隊長?シリウスは、どこかの国の…」


薄汚れた男達は平伏する。


「我々は元々エフェリス水軍の者です。シリウス隊長は水軍大将でした。国がアルカディア軍に敗北したため、軍属は奴隷としてイオリアスに」


「エフェリスは軍行により、アルカディアの属都市となったというか?」


アーレフの問いに、男達は顔を合わせた。


「はい。現在のアルカディア王国のエフェリス、ミレトス、サルディスは元々独立しておりましたが、黒い悪魔レェード皇子の侵攻により属都市に、小さいポリスは壊滅しております。唯一、イオリアスのみが、対等都市と聞いております」


アーレフは唇を噛み締める。


「黒い悪魔…レェードというのか…」


「シリウス隊長を含め、昨日の人柱への抵抗者は全て、首吊り晒しの刑罰を受けることになりました。正午に吊し刑罰が…お助け下さいっ」


アーレフはクレタ公に向き直った。


「俺に…ガレーを貸してくれないか」


「助けにいくつもりか?」


アーレフは静かに頷く。


「黒い悪魔を倒すには、力が必要だ。その力は……『人』」


クレタ公はしばらく考えて、部屋の奥に引き上げると、アーレフを別室に呼び革袋を渡す。


「これは?」


「皆から預かった金貨だ」


アーレフに渡すと、エレフの手を力強く握り込む。


「人を『集める』にはある程度の金がいる。ましてや奴隷開放軍として『力』を付けていくにはな…。わしは…クレタとポリス一帯は全面的に君を支援する」


クレタ公はアーレフにひざまずいた。


「わしは…この瞬間を待っていたのかもしれない…。息子を殺した黒い悪魔に、立ち向かうことを…」


男達が待つ部屋に戻ると、身支度を整えたアーレフを、リーリアムが待ち構えていた。


「さあ…伝説を作りに行こう」


リーリアムの言葉に、アーレフは頷いた。


「イオリアスに行くぞ」


アーレフは青いマントを翻した。






シリウスが後ろ手に縛られて、檻に胡座をかいていると、また一人殴られながら、奴隷が放り込まれた。


ソレスを見送った後、『ちび』がどうなったか気になって、剣の手を緩めた瞬間、漁の網を幾重にも掛けられ、無様にもそのまま捕まった。


見せしめとして、首吊り晒しの刑罰らしい。


「よう、大丈夫か?」

茶髪の男は後ろ手に縛られたまま、転がっている。


幼い子どもたちを『人柱』として埋めた第一城壁の広間に、吊し台が設置され、兵士達は忙しい振りをしている。


「あんたも難儀だよ。あの子はあんたの子かなにか?」


「いや…」


シリウスは茶髪の男に肩を貸して、座らせてやる。


「ありがとうございます…あの…」


茶髪の男は、腫れ上がった顔を下げる。


「シリウスだ。あんたは?」


「ミゲルです」


「レムノス島の島主の息子…か?」


土で汚れた茶髪をシリウスに向けた。


「ち…父を知っているのですか?」


「レムノス島にはくれ島同様、よく立ち寄った。そうか…あの人の…」


黒い悪魔レェードに、一夜にして焼き尽くされたレムノス…その賢王と言われた王。


親交のあったエフェリス国は、弔い合戦に勇んだが、圧倒的な力で負けたのだ。


水軍は無傷だったが、国王の命と引き換えに、武装放棄し、奴隷となった。


…結局…我が国王含め親族全て惨めな首吊り晒しだったな…。


その首吊り台にもうじきぶら下がるのかと思うと、苦笑しか出てこない。





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