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ソレスの死

「しかし、ご出産時にお子様と金の姫君も第二妃の呪詛で亡くなられたと」


「あの蛇女の息子が黒い悪魔だ。その手から逃れたアーレフ殿はやはり…」


「正妃の息子のオリヴェール皇子は…」


「あれは駄目だ」


「ああ、腰抜けだ」


口々に言い始める男たちの中でアーレフは自分の出生の一端に動揺していたが、リーリアムが微かに笑って遮った。


「ここは、ひとまず僕に任せてください。僕らは『黒い悪魔』を許せない。それは一致しています」


クレタ公は肩を竦めた。


「そうだな。性急になりすぎたか。しかし、黒い悪魔が国王になれば、奴隷は増え、搾取、戦いによる領土拡大。生活は悪化する。だからリーリアム君の提案に乗ったのだ」


「分かっていますよ。みなさん」


リーリアムに促されてアーレフは外に出た。


「リーリアム…お前は俺に何をさせたいんだ」


クレタ島からポリスが見える。


庵から更に高台には見張り塔があり、そこでポロロ…ンと竪琴をリーリアムが弾いた。


ポリスもまた、黒い悪魔の猛襲にあい、腐敗政治とともに崩れ落ちそうになっている。


「そうだねえ…。僕は…君の詩吟バラッドを歌いたんだ。そう…君の生き様を奏でたい。姉を殺されて…拷問を受けて…精神的に苦しみ…ねえ、それだけかい?一人で城にたどり着く、アーレフの機知、行動。胸から光と共に現れり剣、見える死の影、君は僕の詩吟バラッドに相応しい。僕は神々しいアーレフを歌いたい…僕だけが君の生き様を語れる。だから君の次の行動への差し出がましい口出しをしたんだけどね」


リーリアムの本音を初めて聞いた気がする。


故郷が亡くなったリーリアムもまた、何かに縋って生きているのだ。


それがアーレフであったとしても、アーレフはリーリアムを突き放せないでいた。


「お前の馬鹿馬鹿しい理由はよく分かった。が…俺が神ならば…苦しまずにいられたのかもな」




夕方には帰るといったガレーが到着したのは、太陽が傾くほんの少し前だった。


シリウスの元部下がソレスを担ぎ、クレタに運び込み医師が呼ばれてすぐ、アーレフはクレタ公に呼ばれた。


「クレタ公?」


クレタ公はアーレフを促す。


アーレフは床に横たわるソレスを見た。


「どうしてだ…ソレス…!」


引き布が真っ赤に染まり、ゴボゴボと空気の漏れる呼吸音がした。


「アーレフ…すまん…無茶を…した」


アーレフはソレスの血で濡れた身体を抱き上げる。


「血が…止まらない…」


ソレスは、


「人柱にされた…チビが…お前に重なった…」


と吐血を繰り返した。


皆がその場から去っていく…。


手の施しようのないソレスをアーレフが抱きしめ、リーリアムが膝をついて見下ろしている。


「ソレス…ソレス…どうして…」


ソレスは手を伸ばした。


「奴隷は…辛い…なあ…惨め…だ…」


アーレフはソレスの手を取っ

た。

「俺だ、ソレス、駄目だ。俺を置いて往くな…」


アーレフの涙がソレスの頬を濡らす。


「一緒…に…生き…たい…残念だが……」


ゴボゴボと出血を繰り返した。


死の影がソレスの横にいて、じっとソレスを覗いている。


「アー…レフ…俺…は駄目だ…。頼む…」


アーレフはソレスの血まみれの手に頬擦りをして、首を横に振った。


「助け…て…くれ…」


アーレフは


「駄目だ…駄目だ…駄目だ…」


と呟く。


涙が顎を伝い、流れ落ちるのもわからない。


見えない手でソレスはアーレフの髪を引き寄せて、血の口づけをした。


「頼…む。助けて…くれ…ないか。胸が…痛い…んだ…」


引き布から石畳に血が零れる。


「我が剣よ…我が思いに答えよ」


発光と共に白銀の剣が傷だらけになった胸元から現れ、アーレフは涙で震えながらその身剣で、その死にかけた心臓を貫いた。


「はっ…………」


包容力のある親友だったソレスの涙は、優しい目許に伝いゆっくりと目を閉じていく。


「アー…レ…フ…アーレ…フ…」


アーレフの名前を繰り返し呟きつつ死の帳に包まれ、死の影は消えた。





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