クレタ島の会議
ソレスはマントに覆われ背中に隠して来た弓を取り、瞬時矢をつがえた。
そのまま、奴隷の隙間を一瞬、矢を放つ。
黒い悪魔に向かって。
「ソレス!」
シリウスは慌て止めようとするが矢は空を切り、黒い悪魔は国王を楯に出した。
鏃が違うことなく国王の喉元に当たり、出血が天に向かい華開き奴隷と兵士は動揺する。
大量の出血の中、老国王は目を見開き天を仰いだ。
「役に立ってくれてありがとう…国王…」
黒い悪魔は唇ににやりと笑みを見せ、
「国王を弑虐した者を捕らえよ」
と叫ぶと、ソレスの前がざっと開く。
「ほう…お前か…」
兵士が唸り声を上げながら剣を断続的にソレスに振るって来た。
「ソレスッ」
シリウスは兵士の一人を蹴り倒して剣を奪うと、兵士の剣を受ける。
「逃げろっ」
シリウスのかつての部下が応戦を始め、港大混乱に陥った。
「城壁から弓を撃て。回りに当たっても構わん」
城壁の上の沢山の兵士が、一斉にソレスに向かい弓を構えた。
「いけっ、ソレスッ」
散り散りに逃げ惑う人々の中で、ソレスの背中に矢が降る。
それをマントでかわし、城壁の出入り口の人混みに紛れようとした瞬間、
「せいっ」
と、ソレスの背中にレェードの投げた大槍が当たった。
「ぐっ…」
肺を突き刺し、背中から刃が突き刺さり、肺を貫き胸元から白い切っ先が飛び出る。
「が…はっ…」
喉から上がって来た血を吐き出して、ソレスは二度三度たたらを踏む。
「ソレスッ」
シリウスが槍を引き抜いて、ソレスを担ぎ港に走り込む。
奴隷達は右往左往して埋め尽くされ、
「隊長!こちらのガレーに!」
とガレーに待機していた部下が叫ぶ。
「ソレスを頼む!クレタ島のアーレフに渡してやってくれ!俺は時間を稼ぐ!」
シリウスはソレスをガレー船に押し込むとむきなおり、元部下と一斉に兵士と対峙した。
「シリウスにはちゃんとソレスを守るように言ったよ。でもね、君には君の仕事をしてよ」
「なんのことだ?おい、リーリアム」
アーレフはリーリアムに連れていかれた屋敷で、クレタ公からいただいた草色のマント羽織り、革のベルトをした。
「これはよく似合う」
クレタ公はアーレフの肩を叩く。
「は…あ」
アーレフは面映ゆく頭を掻いた。
絹の着衣は初めてでなんとも頼りないような気がしたからだ。
「我が子が生きていれば…そなた位になっただろう。…貰ってくれ」
驚くアーレフにクレタ公は、首を縦に振る。
「黒い悪魔を憎んでいるのは、そなただけではない…と、いうことだ…来たまえ」
リーリアムとアーレフは、屋敷を出て裏庭を渡り、オリーブ園の中の小さな庵に連れ出された。
木陰からは周囲が見渡せ、監視にもなる、よい場所だ。
「クレタ公…ここは…この人数は…」
人の多さに驚きに、アーレフは驚く。
庵には人々が集まり、首を寄せ集めていた。
「彼が…黒い悪魔の手から逃げおおせた者かね?」
「ああ、女神神殿の金の神女様の双子の弟君にあらせられる」
男たちは感嘆混じりに、机へ金貨の入った皮袋を次々に置いていく。
一瞬、理解できなかったアーレフの顔に、殺気が走った。
「俺に…何をさせたいのだ。クレタ公」
クレタ公は苦々しく頷く。
「決起を…黒い悪魔を討ってくれ」
「失礼だが…リーリアム君はポリスの貴族の出だと聞いているが、君は違うのか?神女様もそうだったが、高貴な血を感じるのはわしの欲目か?」
若い二人は庵の客に見つめられ、アーレフはその一人にに尋ねられた。
「なぜだ?」
「わしはな、若い頃の王を知っている。アルカディ城に招かれたことがあるのだ。その時に第三妃様を拝顔した。確か…ガリアから人質同然に興し入りした金の姫君だ…神女様も君もよく似ている」




