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黄金の少年アーレフ

見下ろすソレスは頭をかいた。


「あー…お前に見惚れていたんだ。お前は黄金の獅子みたいだから。物凄く綺麗だ」


アーレフがソレスを見上げて、みるみる顔を真っ赤にし足を踏み鳴らし怒る姿は、なんだか可愛くてしかたない。


「それは女にいう言葉だ」


「そんでもって、美しい」


アーレフはソレスを見上げた。


「姉上は…俺の姉は美しく綺麗だ」


アーレフは目をけぶらせた。


「姉?お前の姉なら…」


「探しているんだ…双子の姉がこの山岳神殿に連れてこられたという噂を聞いた。大神官のお世話役の奥神殿女神官にょしんかんとして」


「名目だな。神官のために体を開くただの神殿の花奴隷だ。探すの…手を貸そうか?」


アーレフはソレスの手をはねのける。


「迷惑だ」


「はいはい。気をつけろ、ここの大神官は、女より若い男を好むって噂だぜ」


おちゃらけ半分のソレスの言葉に、アーレフは言葉を詰まらせ…


「神官はさぞ暇らしいな」


と、冷たく笑う。


その姿を見て、ソレスも自嘲気味に唇を歪めた。


「…だろうな。お前は目を付けられる。だってさ綺麗すぎる」


「…黙れ、殺すぞ」


けんもほろろだ。


目当ての金をいただいたことだしと、コロセオから歩み去ろうとした時、馴染みの石工が慌てて追いかけて来た。


「ソレスと、その若いの」


『その若いの』呼ばれたアーレフは振り向いて、


「なにか?」


と尋ねる。


「ああ、あんただ、若いの。あんた市民権を譲ったんだって?」


「俺には必要ないからな」


「二位だったのは、うちの石工奴隷でな。涙を流して喜んでいたよ。ザルバックだ。ほれ、こないだお内儀ないぎさんが子を産んだ」


「え、あいつ、剣使えたのか…。しかも、俺に黙ってコロセオに参加しやがって」


同じ石工奴隷の仲間が、市民権を得て独立していく寂しさが、ソレスのため息を誘う。


「腕を剣が掠めてしまった詫びだ。悪くはない腕だった。ではな」


そう呟いたアーレフもやることがないと見えて、神殿奴隷の宿舎へ向かっていく。


馴染みの石工はソレスの肩を叩き、


「明日な」


と、会う人に次々と『美談』を話していく。


「やれやれ…どうしたもんかな。人探しで、神殿奴隷ねえ」


ソレスは頭をかいた。





アルカディア王国聖都アルカディオンその神々の末裔とも称される王が住まうアルカディ城は、凱旋したレェード皇子の迎えに華やいでいた。


「オリヴィエール様、ラコニア軍を国境にて撤退させましたレェード皇子にお言葉を」


長い茶金髪が海風にふわりと揺れた。


「父王は?」


「奥神殿に迎えられた神官女のところかと…」


オリヴィエールの側近であるレーダーは、頭を下げた。


「いや、そうならいい。宴の準備はそそうないか?母王には同席していただこう」


オリヴィエールは執務していた羊用紙を丸めた。


「すっかり王きどりですな」


「言うな。レェード義兄上は、俺よりも年長者だ」


花奴隷上がりの庶子であるレェードは王位第二位のはずだった。


しかし正妃から生まれたオリヴィエールよりも五つほど年上で、戦さを好み派手やかな凱旋を繰り返し、アルカディアに戦神あり次王たれとして崇められていたのだ。


故に本来の後継順位が変化した。


広間に行く道すがら、黒髪のレェードに出会う。


金の甲冑には、赤黒い染みが点在し、オリヴィエールは目を反らした。


「これはこれは…オリヴィエール皇子」


レェードが片膝をつき、義兄に礼を尽くす。


「ラコニア軍を水際にての撃破。おめでとうございます、義兄上あにうえ


レェードがオリヴィエールの上言を鼻で笑った。


「アルカディアは無事で上々だ…守られた城での居心地はよかっただろうなあ、オリヴィエールよ」


前線駆り出されるのは、庶子傍系の皇子で、全てがレェードの快挙。


オリヴィエールは歯噛みした。


戦神のアルカディア。


戦火を望むアルカディア。


アルカディアの今の代名詞だ。


大神官上がりの元老院バルバロイと揶揄する、ガリア、ラコニア、バビロンなどと戦い、ポリスとの攻防…アルカディアはすでに綻びかけていたが、神々の血脈であると言われる父王にはそれを導く力は失せていた。


父には三人の妻がいる…いや、いた。


正妃であり裕福なアテネーの姫であったオリヴィエールの母。


花奴隷上がりのレェードの義母。


そして、遥か外国から連れてこられたという亡き美姫。


幼い頃…正妃母に連れられ、外国からの姫に挨拶をした、照れ臭さ。


神託を得て月無しの夜に産まれた双子は、美姫と共に亡くなった。


もし…顔も忘れてしまったあの姫が生きていたら。


もし…剣が、オリヴェールを選ばなければ…。


もし…


「いや…もう考えまい」


オリヴィエールは戦いの凱歌に酔うレェードに心ない謝辞を紡ぐため、広間に立った。




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