絶え間ない黒の拷問
昼夜を問わず、拷問はレェードによって繰り返され、アーレフは力無く座り込んでいた。
全身の穴という穴を調べ上げられ、医師に手術用の鉗子で広げられた尻の穴は、レェードに腕を押し込まれ裂けて出血をし、腹から垂れた衣をべっとりと赤黒く染め上げ、拭うことも出来ず、固まった血がこびりついていた。
肉体の内部を鬼畜に荒らす取り調べは身体の表面に移り、アーレフに怒りと屈辱をもたらし、唇を噛み締める程に血と悲鳴をこびりつかせていく。
「あ…あ…あっ…あああーー!」
「痛いのならば、剣を出すのだな」
低い笑いと同時に、兵士にジュウ…と胸元を焼けた鉄棒を押し付けられ、新しい血と膿のようなものが混じるが体液が腿を伝って床に滴り落ちた。
背中にも複数の烙印が押され、痛々しいそこはじくじくと倦むように腫れて、全身から激痛が走る。
傷口をこじ開ける焼けた鉄の痛みにも、手荒くえぐられる痛みにも、もはや乾いた悲鳴しか上げられず、しかしアーレフは睨み反していた。
「内面から焼き切ればその白銀の剣は出てこないと見えるな」
レェードが立ち上がり、焼けた鉄の棒を手にして、アーレフは金の髪を掴まれ顔を上げさせられた。
「口からこの棒を押し込み、お前の身体を割り裂いて、神剣を探してやろう。嫌なら…早く出すがいい」
「…どちらも…ごめんだ…」
アーレフ乾いた口で言い放つ。
「それは…重畳…」
そのまま、アーレフの鎖を束に持ち衣を持ち上げ、胸の爛れている傷口に、焼けた鉄棒をぎりぎりと押し当て、肉の焼けるいやな煙と臭いが充満した。
「…ぐ……っああああーー!」
焼ける肉の痛みと、石畳に落ちる鮮血に目が眩みそうだった。
そのままぐるりと傷を掻き回し、鉄棒に付いた血をアーレフの目の前にほたぽたと垂らした。
「生き恥よ…。父を、姉を殺した男に拷問され、生きながらえる惨めさ」
痛みに荒い息をしていたアーレフは、顔を上げた。
「な…んだ…と?」
レェードは犬歯を剥き出して、暗く壮絶に笑った。
「山の中、ひっそり住んでいた庵…」
アーレフは顔を上げた。
「おまえ達は幸せに暮らしていたなあ…のうのうと」
思い出す…光景…悲劇…。
「ただいま」
とノームに借りた家に入ると、男たちと父が剣を交えていて…。
姉と逃げ捕まった二人は、奴隷市場に続く坂道を馬車の乗せられ、振り向いた家の前、動かない父…。
あの時の低い声…珍しい…黒い髪…。
「き…さま…貴様がっ…!」
手首の荒革の手錠がギシリと鳴り、手首からも新たな出血が垂れた。
「そうだ、私だ。お前の父を奪ったのは、私であり、このアルカディアなのだ」
そして、背後からアーレフの下肢に冷めてはいない鉄棒を押し込んだ。
「貴様…殺してやる…ぐ…っ…っあ…」
内壁に亀裂が再度生まれ、鮮血は下肢を伝い血溜まりを作った。
「敵に引き裂かれ、はらわたをちぎられ、敵である私に神剣を与えよ!オリヴェールを選んだアルカディアの神剣などもういらぬ!この金髪の小僧の体内から取り出したる神剣こそが我がアルカディアの聖剣となるのだ!」
怒りと痛みに見開く金の瞳にほくそ笑む。
「弱い、弱い、弱いな、貴様は。私はもうじき国王になる。即位式に貴様を我が神に捧げ、腹を切り開き聖剣を取り出すとしよう。アルカディアの破滅の子どもよ」
レェードの暗い憎しみ混じりの言葉と、尻から差し込まれた鉄の棒が内臓深く無理矢理突き破るような感覚がして、アーレフは目の前が真っ赤に染まり、崩れ落ちるように気を失った。
少し前…。
アルカディ城では、長い間臥せっていた国王が第二妃に付き添われ、王座に現れた。
騒然とする中で、オリヴェールは母王が座るはずの席に、第二妃が座り、王の横にレェードが立っているのを見る。
レオンティウスは段下の石段に座り、黙っていた。
父王に第二妃が耳伝えする。
震えながら微かに頷くと、レェードに王が持っていた羊用紙を渡した。
レェードは巻いてある紙を広げ、そして文官に渡した。
文官は高らかに読み上げる。
「国王陛下からの、勅命であります。数々の武勲と偉業を讃え、レェード皇子を次期アルカディア王とする」
ざわめきの中をレェードが制した。
「大神官および神女様の御神託でもあるこの決定に異論のある者は、今ここで」
一同がオリヴェールを見たが、オリヴェールは首を横に振る。
「異議はなさそうだな、オリヴェールよ。これは…御神託だ」
「は…」




