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アルカディアの黒い悪魔

「俺は弟だ。アテネーは…レティーシア姉上はどこに」


別の場所からも悲鳴が聞こえて来て、震える手で奥を指差した女に頷いて、走り出す。


道々に倒れている女達は、気絶しているのか動いてはいない。


アルカディ城に入るには、イオリアスの自由を守るための第一の城壁、上級市民のための第二の城壁、山の上に聳えるアルカディ城と、大神殿を取り巻く第三の城壁。


アーレフは夜陰に乗じて、裏から第三の城壁すらも越えていた。


身が軽いのは地の精霊と呼ばれるノームのお陰だ。


各地を巡り、各領主の地の鉱脈を探り、また、各国から追われる。


「知りすぎるというのは、追われることにもなるのだ…」


膨大な知識と地形を把握しているノームは、アーレフにも様々な知恵を授けてくれた。


また、様々な危機を回避する術も、剣術すらも教えられたのだ。


「あれは…誰だ…」


ソレスを待つまでもなく深夜の奥神殿の帳の中、アーレフは石廊下をから出てくる人物に目を凝らした。


邪魔にならないようまとめた黒髪。


大柄な体躯。


大きな剣を持つ、黒い悪魔が暗い階下に下がると、見失い改めて探したが、月明かりに小さな泉が見えて、立ち止まった。


抜き身に赤い滴りがある剣。


アーレフはおもわず走り出した。


「………何者だ」


振り下ろされた長剣を、アーレフは胸から出したの剣で止めた。


ギ…ィンと火花が放ち、剣が鈍い音がする。


「ほ…う。面白い手品だな」


男がにやりと笑う気配がした。


雲に月が隠れ、暗闇となった中で男が立て続けに剣を振るう。


全てを受け流し、アーレフは木の下に身を隠す。


「…いい太刀筋だ…だが、荒い」


低い男の声は過去に聞いた気がした。


横から別の男が走り出して、剣で受け流し、前から来る男の剣を下から掬い上げる。


「やるな…」


その隙を見て、剣を抜いた。


そのまま、息を詰めて、刃を横に滑らせ、斜め脇腹から心臓に突き入れようとする。


剣は、刃を光らせ、男の脇を掠めた。


「…焦りがでたな」


蔑笑とも取れる声尻に、自分の剣が黒髪の剣の刃に阻止されているのを知り、足で蹴り上げ払いのけようとした。


「遅いっ」


蹴りが腹に入った。


体を折り曲げ地に付き、その反動で下から剣を突き立てようとするが、軽くいなされる。


「若い、若い。頭に血が上り、蹴りも甘い」


低い声の男はこの地方では珍しい黒い髪の毛で、見たことのあるような…鷲鼻と光る琥珀色の瞳と暗い目もとが思い出せないでいた。


「皇子、ご首尾は?」


別の男が、アーレフに背中から切り掛かり、黒髪の男に囁いた。


「我が本懐は遂げた。上等の金の供物だった」


アーレフは二人の男の剣を火花と共に弾き飛ばす。


「では、長居は無用」


「なんのことだ…まさか…姉上を…レティーシア」


後ろから聞こえる騒ぎに気を向けた瞬間、アーレフは男の剣の柄で跳ね飛ばされ、暗闇と転がった。


「貴様…あの女の弟か…そうか…」


さらに剣の柄が後ろからアーレフの首に落ちる。


アーレフは石段を転げ、気を失った。


「お前も我が人柱となるがいい」







ひやりとした空気に、アーレフは目を醒ました。


石造りの狭い部屋に、壁から繋がれた鎖で両手を固定されている。


吊されているわけではなく、座り込んだ状態でアーレフは顔を上げた。


「目が醒めたか…」


低い声がアーレフを刺す。


「我が名は…レェード。アルカディア次期国王」


アーレフは歯ぎしりをする。


「貴様…姉上に…レティーシアに何をした!」


牢の中の椅子に座していたレェードが、


「贄の神女の名か…よい名だ」


と、低く笑った。


そしてレェードの視線がアーレフの体を這う。


「よく似ている…双子か…お前あの手品はなんだ。剣をどこから出した。そしてどこへ消した」


やにわに立ち上がり、アーレフキトンの肩口をを剥いだ。


「くっ…」


体の力が戻らないエレフの蹴りは空を舞い、その足を強い力で掴まれた。


「抗うか…また、一興」


そのまま、足を掴まれたままみぞおちに拳を突き入れられ、アーレフは声にならない悲鳴を上げた。


「ぐ…うっ…っ」


足を投げ出され、両拳で何度も抉り強く突き入れられ、信じられないほどの激痛と吐き気が脳天まで貫く。


「がはっ…き…さま…。殺して…やるっ…殺して…げほっ…やるっ…!」


手を封じられ、その手を強く握りしめた。


「胃から吐き出したのでは…ないか」


痛みに意識が朦朧とし胃液を吐き散らし、しかし気を失う事を自己に許さなかった。


「強情もまた一興だ。徹底的に調べ上げるとしよう。貴様の手品は興味深い」


殴り終えたレェードは、打ち捨てるようにアーレフの手鎖を揺する。


「その強がりがいつまで続くか楽しみだ」


レェードが出ていき鉄格子が閉められと、食いしばった歯列を解き、アーレフは痛みに気を失った。






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