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アルカディアの神女(しんめ)

アルカディア王国は、北にガリア、トラキア、ダキアが、東にバビロン、南にエジプト、西にアクロポリスに囲まれ、数々の侵入または進出を繰り返している。


アクロポリスは小さな島と町とが闘い合い、自滅の一途を辿っていたが、バビロンが侵略が熾烈を極め、エジプトがアクロポリスの一部に武器や兵を流し込んでいるという噂も絶えない。


「…必要ない…とは?」


レーダーは山岳神殿のバビロン撃退に湧き宴会につぐ宴会で、やっとオリヴィエールに伝えることが出来た情報に対する答えに愕然とした。


「しかし…」


「兄のほうが王にふさわしい」


オリヴィエールの母…アルカディア王国正妃の兄であるアナトリア王は、諸王と同じくアルカディア国の属都市国家でである。


神殿の献上踊り女であるレェードの母とは格段に身分が違い、正王妃として今も国母たらんとしていた。


「ソレスという弓の名手は、噂は聞いたことがあります。健郎なる大人が引けない大弓をいとも簡単に引き、見事に的に当てる。しかも狙った獲物は逃がさい、まさに神の御技とも言われるそうですよ、皇子」


お付き侍従の言葉に、驚いたような息吐く音がオリヴィエールから起こった。


しかし…。


「アルカディア王国民たるもの同じ我が神たるオリュンポスの眷属。気まぐれな神の力を持つ者がどこかにいてもおかしくはない」


全く興味がないらしいオリヴィエールにレーダーは慌てた。


「もう一人いたのです。神々しい少年が。剣の部の優勝者であり、見た目は外国から来たような神殿奴隷剣士です。花稚児のようななまめかしさと、神のような素早い力を…」


「もういい」


「は…」


レーダーは頭を下げた。


オリヴィエールがふ…と思い起こしたように、政務机に立てかけていた赤い羊用紙の本を手にする。


「奥神殿の神女しんめにお渡ししたいのだが…。よい詩集が手に入ったのだ」


奥神殿とはアルカディア王国が男主神として祀る神殿の奥、女神を祀る神殿であり、女神に仕える神女しんめが住まう場所だ。


アルカディア王国の王とその血族のみが許される通路を通り、奥神殿に入る。


「国王がお通いになっておられますので…許可を賜りませんと」


「任せる。なるべく早めに」


レーダーは再び頭を下げ、政務室を後にした。


奥神殿の神女しんめのアテネーは、黄金の流れるような髪を持ち、癒しの太陽のような温かな金の瞳である。


奥ゆかしくたおやかで美しいアテネーに心を寄せる者は多く、老若男女に手を伸ばし神の告げた癒しの言葉を紡ぐ彼女は、国母以上の聖母であった。


アルカディオン女神殿で評判になったアテネーを奥神殿に召し上げたのは少し前であり、その美しい姿に老齢の国王が通うようになった。


大神殿は国王のためにあるが、奥神殿に召し上げたアテネーは、まさにアルカディ城の神々から権力をいただいた者のためにある。


「金の瞳で金の髪…アテネー様と同郷の者かもしれぬ…ならば…」


レーダーの思いは巡る。


アルカディオンに到着し、他の使いを山岳神殿都市に向かわせたが、レーダーの見た奇跡とも呼べる青年たちは村に立ち寄るとすでにいず、奴隷が脱走したとか死んだとか、大神官からの補充を頼まれただけだった。


「奥神殿への取り次ぎを頼む」


女官に心付の金を渡し、ため息を吐く。


オリヴィエールは物静かで読書を趣とした争いを好まぬ皇子だが、剣技、技量、どれもがレェードを勝るように感じられるのは、欲目ではないはずだ。


「ただ…覇気が…な」


鼻ひげを撫でながら、一人心地レーダーは呟くしかなかった。






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