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29歳の日常(休日編)

   29歳の日常(休日編)


『彰はゆっくり寝てて』


 そんなの無理。だって、もうベッドにひとりじゃん。



「・・・・・・」

 朝、起きたら結衣ちゃんがいない。まあ、これはよくあることだ。俺が普通出勤でない限り、結衣ちゃんは起こしてくれない。まあ、昔よりは起きられるようになったから、そこまで結衣ちゃんに苦労を掛けるつもりもない。


「ありがと、彰」

 夜勤明けの休みだったから、結衣ちゃんを会社まで車で送る。1秒でも長く一緒にいるためには手段を選んでいられない。

「早く帰ってきてね。帰りもお迎えに来るから」

「じゃあ、駅までね」

 結衣ちゃんは会社まで迎えに来させてくれない。いつも連絡が来るのは“今電車に乗ったから、駅までお願い”って言う、若干寂しいメールだけ。


「・・・・・・」

 家に帰ると、何をしていいのかわからない。洗濯は結衣ちゃんが出かける前に干しちゃったし、掃除機かけるには早くて近所迷惑だよな。昼飯にはまだ早いし・・・ん?昼飯⁈

「よし!」

 冷蔵庫からあれこれ取り出してiPhoneレシピに助けられたりしながら料理を開始。結衣ちゃんと暮らし始めてからよく料理をするようになった。結衣ちゃんだっていうほど苦手じゃないみたいだし、めったにないけど休日が合えばふたりで料理をするのが最高に楽しい。

「・・・あ、弁当箱がないね」

 最終的に詰める段階になって弁当箱がないことに気づいた。

「・・・・・・」

 食器棚を漁っていると、結衣ちゃんが実家から持ってきたらしき可愛いサイズの重箱を発見した。可愛いサイズとはいえ、弁当にはどうなの?って感じだけど、今日はとりあえずこれで。

「完成」

 寄らないようにぎっしり詰めた弁当を包んで俺は結衣ちゃんの会社に向けて出発した。


「あの・・・」

 結衣ちゃんの会社は大きなビル。1Fの受付で結衣ちゃんを呼んでもらうべく声をかける。時刻は12時ジャスト。昼休みは12時から1時間で固定だと聞いたから、ちょうどいいはず。

「いらっしゃいませ」

「藤堂と申しますが、山口ゆいはこちらで・・・」

「企画課の山口ですか?」

 受付の女の子に話していると、横からがたいのいい男の人に声をかけられた。

「あ、はい」

「案内します。俺の後輩なんで」

「あ、藤崎さんですか?」

 結衣ちゃんがよく話している先輩だと直感して訊けば、嬉しそうに笑って、結衣ちゃんが働く5Fのオフィスまで案内してくれた。


 親切な藤崎さんの計らいで結衣ちゃんとゆっくりランチをした後、俺はスーパーで買い物をして家に帰った。このところ、暑くて結衣ちゃんは食欲がない。早くも夏バテ気味だ。でも、しっかり食べてもらわないと。

 忙しく夕食の支度をしていると、電話が鳴る。

「はーい」

『あんた、今日休み?今年は夏休みいつ?お盆に帰ってこれるの?結衣ちゃんと仲良くしてる?結衣ちゃん元気?』

 仕事だったら電話でないよ。夏休みは未定。お盆には帰れません。言われなくても仲良いよ。ちょっと夏バテ気味。って言うか、息子が元気かは確認しないんだ?

 とか、いろいろ思うけど、取り敢えず・・・

「母さん元気そうだね」

『今年は結衣ちゃん連れて家に泊りにでも来なさいよ』

「この距離で何も泊まんなくてもいいんじゃない?」

 実家は東京、ここは神奈川。

『あんたは帰っていいわよ』

「あ、結衣ちゃん目当てなんだ」

『あんた目当てなわけないでしょ』

 結衣ちゃんは俺の母親にいたく気に入られている。俺は兄とふたり兄弟。ふたりとも独身。母は、娘がほしかったのだと思う。

「お墓参りにはいくからさ、それで勘弁してよ。結衣ちゃんと実家に一泊するくらいならふたりっきりで旅行でも行きたいよ」

『あんたは来なくてもいいって言ってるでしょ』

 はいはい。マシンガントークな母にはどうやっても勝てっこないから。ひととおり聞き流して、そろそろ結衣ちゃんからお迎えコールが来るはずだからという理由で電話は強制終了。


「ってなわけで、1日だけ日帰り里帰りに付き合ってくれない?」

 食欲のない結衣ちゃんのために作った茄子と豚しゃぶに大根おろしをぶっかけた夕食を食べながら夏休みの相談をする。

「もちろんいいけど、うちも顔出せってお父さん言ってたな」

「もちろん行くよ。じゃあ、先に山口家に行こう」

「え?うちは後でいいよ」

「それは俺の心が許さないからだめ。取り敢えず、次の休みは山口家ね」




 二日でいいから休みがほしい。そしたらきっと、俺の願い事って叶えられると思うから。








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