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気付いてほしい

作者: 安浦

好きな人には、好きな人がいた。



下校を知らすチャイムが鳴っていたんだ。


「ギリギリ大丈夫かな?」


私は、部活を終えた後、忘れ物を取りに息切れしながら教室に向かった。


ほとんど学校に生徒はいないはずなのに。


しんと静まり返った教室に、コソコソと話し声が聞こえてきた。


こんな時間に誰だろう?


私は気付かれないよう、こっそりと教室を覗いた。


あ…塔野くん?


私の片思いの相手の塔野くんと…。


私は思わず眼を閉じた。


塔野くんがキスしていたんだ。


相手は学年の中でも可愛くて、目立つ子で。


勝ち目がないことは一目瞭然。


そして、悔しいことに、二人のキスシーンが夕陽に照らされて、ドラマみたいに綺麗に見えた。



私の片思いは、それを目撃して一瞬で消えた。



「…彼女…いたのか…」


私は俯いて、精一杯自分でいられるよう歩く。



「…果歩?」


「…え…?」


名前を呼ばれた気がして、私は顔を上げた。


「…あ…涼?」


その主は涼だった。


涼は同じマンションに住む男の子で小さいときからよく知っていた。


これを俗に幼なじみというのかもしれない。


「泣いてる?」

「泣いてない!」


涼に必死に隠そうとしたけれど、きっと涼は気付いてただろう。


「まぁいいや。じゃあ」

「待って!どこ行くの?」

「どこって、教室だよ。宿題あるのに教科書忘れてたから」


今は、教室に行ったら塔野くんたちの邪魔をしてしまう!


私は、無駄に塔野くんたちに気を遣い、涼を教室に行かせないようにした。


「だ、だめだよ!そっち行っちゃ」

「は?何で…」


そんな言い合いをしていたら教室から塔野くんたちが出てきた。


「あれ?涼?何してんの?」


涼は感づいたのか、私を横目でチラッと見た。


「おー。塔野。今帰り?」


さっきの映像がまた、頭の中で再生される。


告白したわけでもなく、私は勝手に失恋した。


苦しくて、辛い。


「枡田さんも、また明日」


「う、うん。また明日」


“枡田さんも、また明日”


今日の私と塔野くんの会話はこれだけ。


私に気付くわけがないじゃない。


「じゃあ、帰る?」


涼は気付いているのだろうか。


「うん…」


帰り道が一緒の私たちは、当たり障りのない会話をしながら帰る。


「涼背伸びたよね?」


私は涼を見上げて言った。


「果歩は小さいときから小さいな」


涼は笑いながら言うけれど…。



私たちは、マンションの前に着いた。


「じゃあまた」


私はそそくさと帰ろうとしたときだ。


「ちょっと待て!」

「え?何?」


涼は少しだけ不機嫌そうに見えた。


「教科書!」

「教科書?」


私は、惚けたオウム返しをして涼の顔をじっと見た。


「…果歩のせいで教科書持って返れなくなったんだけど」


私は、そんなことすっかり忘れていた。


「そっか!ごめんごめん。私貸すよ。何の教科書?」


「…古典」


「古典?宿題出るの珍しいね。先生違うと内容も少し違うのかな‥」


私はガサガサとカバンの中を探し始めた。


「あ!涼ごめん。古典の教科書は家だ!」


「えー。じゃあ取りに行くよ」


そんな流れで、私は涼と一緒に私の家まで行った。


何気に涼がウチに来るのが久しぶりすぎて、少し緊張してしまう。


「…小学校以来じゃね?」

「え…?あぁ…うん」


涼も少し、そう思ってる?




「ただいまー」


私は、家に着き、涼を玄関で待たせていた。


「今取ってくるから待ってて」


私は急いで雑に靴を脱ぎ、家の中に入った。


「…部屋、入れてくれないの?」


「え!?何で?」


涼は私をチラッと見ながら、靴を脱いで入ってきた。


「おじゃまします」


何で涼がウチにいるのか。不思議すぎて訳が分からなくなってくる。


「おばさんは?」


「あ、ママはパートに行ってて、もうすぐ帰って来る…と、思う…」


「あ。そう…」


突然、二人きりだと再確認して急に恥ずかしくなって、私はチラッと涼を見た。


涼も少しだけ気まずそうで、私から視線を外した。


少しだけ開いていた、私の部屋のドアが、風でパタンと閉まって、急に部屋中が静まり返る。


時計の音が良く聞こえている。


何だこの状況は…。


「果歩」


涼に名前を呼ばれ、バカみたいに体がビクついた。


「教科書貸して?」


「う、うん!ちょっと待ってて」


私は机の棚にあった教科書を涼に渡した。


「明日私も授業あるから、明日の昼までに返してね」


「わかった…てかさ」


涼がじっと私を見た。


「な、何?」


「果歩って塔野と付き合ってたの?」

「ま、まさか!!ない!絶対ないよ!」


まさかの涼の勘違いに私は動揺を隠しきれずにいた。


「じゃあ…ふられた…とか?」


涼は遠慮がちに私に聞いてくる。


「ふられたも何も…告白もしないまま勝手に失恋した…みたいな感じ?」


私は、みじめな自分を笑って隠そうとした。


思い出す。

放課後のあのシーン。


「塔野くんってモテるし、私なんか好きになってくれるわけないのわかってたし!」


ずっと塔野くんに気付いてほしくて。


「高望みだったし…」


振り向いてほしくて、夢を見ていた。


「てか、何で涼に恋バナなんかしてんだろ?内緒にしててよね?」


私の失恋が涼に知られたことも恥ずかしくなってくる。


「高望みねぇ…」

「え?」


涼は教科書を持ち替えながら話していて、私はじっとその手を見ていた。


「片思いなんて、みんな高望みだよ」


知らない間に、涼の手は大きくなって、ゴツゴツしていて、私の知ってる涼とは違って見える。


「別に、果歩と塔野のレベルが違うと思わない。てか、こっそり片思いしてた相手が実は自分のこと好きだったなんて確率、相当低くね?」


涼は私を励ましているのだろうか?


「まぁ、だからあれだ」

「あれって?」


涼は口元を手で抑えながら、恥ずかしそうにしていることがすぐにわかった。


「果歩に合う人が他にいるよ。てかさ、気付いてないだけだろ」


私に合う人…?

気付いてないだけ…?


「あぁ!確かにね!」


私は涼の励ましが嬉しくなって。


「まだ出会ってないだけかもしれないね」


私は、その気持ちを笑顔で表して、涼に向けた。


「…出会ってない?」


涼はその時ボソッと何か言ったような気がしたけれど、私にはよく聞こえなかった。


「涼って優しいんだね。ありがとう」


「…どういたしまして」


涼は本当に優しい。


「あ、古典返す。数学貸して」


「え?宿題は?」


涼はニヤリと笑って言った。


「宿題は数学だった」

「は!?」


何だかよくわからないけれど、涼と話して、少しだけ気持ちが晴れたのも事実。


「まぁいいや。まだまだ時間はあるし」


「涼?何か言った?」


「…別に何も」


いつだって、自分に気付いてほしくて心の中で叫んでいるのかもしれない。


「何かあったら相談しろよ」


普段から涼に相談しているわけじゃないのに。


「え?あ、うん。ありがとう…」


涼が少しだけ変わっていってることなんて、今の私にはまだまだ気付かないけれど。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

これはまだ失恋直後なのと、恋愛対象から少し外れてる相手といきなり両思いはないなと思い、微妙な感じで終わりました。

だけど、涼の頑張りをみたいので、二人の距離がぐっと縮まるような話も書いてみたいなぁと思いました!

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