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奇人島殺人事件  作者: 東堂柳
第三章 カッシーナの戦い
16/42

5

 何人かで冴沼の手伝いをして、昼食の片付けがすっかり終わると、再び俺たちは遊戯室に集まった。

 背の低いテーブルを囲むようにして、各々椅子やソファに腰掛けると、武刀が切り出した。


「状況を整理するためにも、全員の行動を今一度振り返ってみたほうがよさそうだな」


「一番最初に起きたのは、冴沼さんでしょう。何時頃に起きましたか?」


 沖が冴沼に尋ねる。彼女は自分の行動を思い出すように、宙を少し見上げてから答えた。


「午前五時半には起きて厨房にいました。それから七時まで、朝食の準備をしておりました」


 彼女の次に起きたのは恐らく俺だろう。

 俺は彼女の後に続いた。


「俺は六時半に起きて、四十五分には食堂に来たよ」


 それを受けて、沖がさらに繋げる。


「僕と御行さん、夜宵さん、そして甲塚さんは七時少し前に食堂に来ましたね。冴沼さんが七時に呼びに来たとき、武刀さん、女納尾さんは部屋にいたんですか?」


 その問いに、二人ともしっかりと頷いた。


「ああ、ずっとぐっすり寝ていたよ」


「私も武刀さんと同じくですね。呼ばれたことも気づきませんでした」


 沖は彼らに成程と頷き返して続けた。


「この時、冷山さんと九剣さんの部屋は既にもぬけの殻。その後、最初に席を外したのが甲塚さんだったはずです。彼女が戻ってきてから少しして、御行さんが食堂を出ました。そして帰ってきた彼と入れ替わりに夜宵さんが出ていきましたね」


 第二の殺人に関して、重要な時間帯の全員の行動を、ざっと説明している。


「俺と沖くんはずっと食堂にいたっけか」


 俺の言葉を沖が肯定して続ける。


「そうですね。それから、暫くした後に食事を終えた甲塚さんが化粧直しにトイレに行ったんでしたね。そして一度に十分以上席を外した人は居ません。全員が部屋に戻ってきたとき、ガラスの割れる音がしました。それで僕と甲塚さんが館内を見て回りました」


「その時、冴沼さんが食器を洗いに一人で厨房に行ったはずです」


 御行が思い出したように言った。冴沼は小さく「はい」とそれを認める。


「僕と甲塚さんが、倒れている冷山さんを見つけて三階から戻って来た後、冴沼さんも食堂に戻ってきましたね。そして、僕と末田さんと御行さんの三人で、外に出て彼の様子を見に行きました。死亡を確認して館内に引き返したとき、武刀さんと女納尾さんが起きてきました」


 間違いないというように、全員が沖の言葉に頷いている。


「それから先、九剣さんの死体を発見するまでは、絶対に集団で行動していますね」


 そのセリフに関しても、皆口々に認めていた。


「うむ、それは確かだ」


「私たちも、常に一緒に行動していました」


「二件の事件を両方とも他殺だと考えると、現時点で両方の犯行が可能なのは、武刀さんと女納尾さんになりますね」


 二人の顔色を窺いつつも、沖ははっきりとそう言った。当然のごとく、二人は即座に否定する。


「まあ、確かにそういう事になるが、無論、私はやっていないよ」


「それを言うなら、私もやっていません。第一、私は冷山さんとも九剣さんともは初対面ですし、動機がありません」


 女納尾の言葉に、武刀が膝を打った。得意そうに顔が明るくなった。


「そうだそれだ。動機がない。やはり犯人は私達の中にはないということじゃないのかね」


「さあ、それはわかりませんよ。どんな動機で人を殺しているのかなど、犯人にしかわかりませんから」


 俺は頭を振った。

 そうだ。

 誰がどんな理由で殺人を行っているかなど、つい昨日知り合ったばかりの人間に、わかるわけなどない。動機の線から犯人を絞っていくのは、どだい無理な話と言うものだ。


「ところで、その、ガラスの割れる音なんですけど……」


 おずおずと御行が小さく手を挙げる。

 沖がそれに気付いた。


「どうかしたんですか、御行さん」


「いや、三階の部屋に、レコードプレーヤーがありましたよね? それを使えば、冷山さんが落下した時刻を、誤認させることができるんじゃないかと思うんです」


「レコードプレーヤー? 僕と甲塚さんが見に行った時には気づかなかったなあ」


 沖は鼻の横を掻きながら首を傾げた。覚えていないようだ。

 しかし、俺は三階を調べに行ったときに、確かにそれをこの目で見ている。


「いや、ありましたよ。俺も確認しています」


「私も、あの部屋に調べに行ったときに見ましたよ」


 夜宵が俺の後に続く。


「あの時は部屋が暗かったから、そのせいかもしれないですね」


 と、沖は一人納得したように言った。

 プレーヤーがあったことが確認でき、御行が先を話し始めた。

 

「兎に角、あらかじめレコードにガラスの割れる音を録音しておいたとしたらどうでしょう。実際に窓から彼を突き落し、ガラスを割ったのは全員が寝静まっている頃。食堂にみんなが集まった頃合いを見計らって、遠隔操作かタイマーでレコードを再生させたとは、考えられませんか?」


「確かに、それならできそうな気がしますね」


 他の人は成程と納得したような顔をしているのだが、俺はどうも腑に落ちなかった。

 少し考えてから、俺は難しい顔をした。


「いやあ、それは無理があるんじゃないでしょうか?」


「どこが?」


「まず、アナログレコードだとそれを処分するのに目につく可能性がありますよね。ガラスの割れる音がしてから、あの部屋に行ったのは甲塚さん、沖さん、御行さん、夜宵さんと俺です。俺が見たときには、プレーヤーにレコードはありませんでしたから、その前にどうにかしたんでしょうけど、二人以上で行動しているはずですから、それはできないと思います。それに、そもそもあのプレーヤーは、埃だらけで最近使った形跡すらありませんでしたよ」


 そう指摘されると、途端に自信を喪失した御行は、俯き始めてしまった。


「ああ、そうなると、やはり違うのかな……」


「まあ、レコードでないにしろ、何かの録音機器を使っていたとしたら、あの時、食堂にいた人間にも冷山さんを殺害することは可能になりますね。とは言っても、何も証拠がないから、想像の範疇を出ませんが」


「そうですよねえ……」


 御行が頭をぐしゃぐしゃ掻きまわして俯いた。

 その時、女納尾が思い出したように尋ねた。


「そういえば、あの時悲鳴が聞こえてきて目が覚めたのですけれど、あの悲鳴は誰が?」


 彼女に武刀が続いた。


「私もそれでやっと目が覚めましたよ。かなり騒いでいたようでしたね」


 俺はそんな悲鳴なんて聞いていない。

 二人が一体何のことを言っているのかよくわからず、ぽかんとしている俺や御行たちを差し置いて、沖が答えた。


「ああ、甲塚さんですよ。倒れている冷山さんを見つけて、大騒ぎでした」


 ああそうだったんですか、と納得している三人に割って入って、俺は訊いてみた。


「え、ちょっと待ってください。甲塚さんが悲鳴を上げていたんですか?」


「ええ。あれ、聞こえてなかったんですか?」


 怪訝そうな顔の沖。一階にいた俺たちにも、当然その騒ぎが伝わっていると勝手に思っていたのだろう。


「俺は気付きませんでした」


「僕もです」


「私も」


 あの時食堂にいた者たちが、口を揃えて悲鳴を聞いていないというので、沖は困り顔で首を捻った。


「ううん、これは一体どういう……」


 ガラスの音。聞こえなかった悲鳴。御行の言っていた録音機材を使ったトリック。

 その時、頭の中で何かが閃いた。途切れ途切れの糸が、一本に繋がった。

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