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奇人島殺人事件  作者: 東堂柳
第三章 カッシーナの戦い
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1

 沖と女納尾は九剣の捜索のため、螺旋階段を下りて地下に向かった。

 一段降りるにしたがって、空気が淀んでいくのがわかる。この天気で地下に湿気が溜まっているのだろう。空調が効いていないのか、肌にまとわりつくような感覚は全く改善される気配がない。

 階段を下りきって扉を開けると、地下一階の廊下に出た。

 一階と同じ造りで同じ装飾の廊下。外からの光がないせいか、一階よりもさらに薄暗く感じる。窓がないということで、さらに閉塞感が増している。まるで、監獄の中にでもいるかのような、息の詰まる感覚。綺麗に掃除されてはいるものの、どことなく埃っぽいように感じるのだ。

 あまり地下に長居したくない沖は女納尾を連れて、全部で四部屋ある地下室のそれぞれを一つ一つ見て回った。

 最初の部屋は、先ほどレインコートを発見した倉庫だった。

 部屋の照明をつけると、その惨状が明らかになった。先程来た時でさえも乱雑に置かれていた備品は、沖たちが荒らしたせいで、さらにめちゃくちゃになってしまっていた。

 積み重なっていたはずの段ボールがあっちにこっちに散乱しているし、棚の上はぐちゃぐちゃに引っ掻き回されて、コードはこんがらがり、並べられてあった洗剤は倒れて、中身の粉が零れているという有様だ。


「これ、酷いわね。一体誰がやったのかしら。まさか、本当に奇人が潜んでいて、彼がやったとか……?」


 女納尾が至極真面目な口調で溜息を吐いた。それで面目なさげに沖が鼻の横を掻く。


「いや、僕たちがやってしまったんですよ。雨具を取りに来て、慌てていたもので……」


「なんだ、そうだったの」


 女納尾は途端につまらなさそうに、部屋を見回している。

 確かに散らかってはいるが、この部屋に大の大人が隠れられる場所は殆どない。せいぜい壁に並んだロッカーぐらいなものだ。二人はそれらを開けてみたが、中に入っているのは掃除用具ばかり。

 とりたてて異常がないことを確かめると、電気を消して倉庫を出た。

 倉庫の左隣の部屋は、食料貯蔵庫になっていた。と言っても、冷蔵庫や冷凍庫のようにキンキンに冷えているわけではなく、あくまで大きくて厨房の冷蔵庫に入りきらない野菜や飲料水、調味料などを一時的に保管しておくところのようだ。

 食料はかなりたくさん用意されているようで、部屋中に野菜やミネラルウォーターの詰まった段ボール箱が整列されていた。


「これだけの食料があれば、三日と言わず一週間は飢え死にしなくて済みそうね」


「ふ、不吉なこと言わないでくださいよ……。一週間なんて待たなくても、きっと直ぐに天候は良くなりますよ」


 沖は苦笑した。しかし、女納尾は相変わらず真剣な顔で言う。


「でも連絡手段もないし、少なくともこの天気が続く間、ここに閉じ込められるのは明白でしょ? 一応心配くらいはしておいたほうがいいんじゃなくて?」


「それはそうですけど……」


 部屋中探したが、ここにも九剣の姿はない。

 さらに左隣の部屋には、洗濯機や乾燥機、リネンカートが並んでいた。ランドリーだ。洗濯機も乾燥機も大型のものなので、余裕で中に隠れることはできるだろうが、無駄足だった。人っ子一人見つかりはしなかったのだ。


「そういえば女納尾さん。さっき、思い詰めている人が自殺するわけじゃないとか、言ってましたよね。凄く説得力があったんですが、もしかして、過去に何か……その、あったとか?」


 ランドリーの左隣の発電機室で、九剣を探している時、沖はふと思い出して尋ねてみた。話題が話題だけに、相手に不快感を与えない様に、顔色を窺うようにして訊いてみたのだが、女納尾は鋭い視線を彼に返した。その威圧感に彼は思わずたじろいだ。


「あ、いや、僕の思い違いならいいんです」


「もうずいぶん昔の話よ。担当してた生徒が自殺したの。生きていれば、甲塚さんくらいの歳になってたはずの子よ。でも、ここで詳しく話すようなことじゃないわ。面白くもないしね」


 彼女は遠くを見るような目で、過去に遡っているようだった。


「……すみません」


 結局地下では九剣を見つけ出すことができず、二人はなんの収穫も得られないまま、一階に戻ってきた。

 一階の部屋も全て確認していったのだが、やはりどこにも九剣はいなかった。

 沖の頭の中に、この屋敷の中で突然消息を絶った奇人のことが思い浮かんだ。

 まるで奇術の様に、孤島から姿をくらました奇人。そして、今まさに同じようにこの島で行方不明になった九剣。


 もしかしたら、本当に隠し通路や隠し部屋があって、彼はそこに……?

 だとすると、奇人がどこかで生き延びているという、御行の説もあながち間違いではないようにも思える。


 しかし今の沖には、どこにそんなからくりがあるのかの見当さえもまったくついていない。

 仕方なく遊戯室で待機している甲塚たちの元へと、踵を返したのであった。

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