表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄期間 ~地獄に咲くは向日葵~  作者: 安藤ナツ
【四月二十三日】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/35

後日談 ③

「ぼくは、用事があるから後は一人でどうぞ」


 周囲のコンクリートに反発するような木で造られた店舗を前に、一は踵を返す。前回と同じく、あくまでも彼は物語の運び手や語り手であるようだ。ここまで送ってくれたことに改めて頭を下げると、一はやはり笑って返してくれた。


 空間をうまく使ったのか、それとも無理矢理押し込んだのか、曲がることもせずに真っ直ぐに進むと、そこには確かにカフェが合った。《ふらんしーぬ》と描かれた看板を掲げ、なんだか西部劇に出てくる寂れた酒場のような外見が好奇心を刺激する。


 その好奇心のままに店内に入ると、二つの木製の丸テーブルとカウンター席が三つ。カフェと言うよりはバーみたいだ。当然、向日葵はバーなんて行ったことはないのだが。


「いらっしゃいませ。向日葵ちゃん。お待ちしていたわよー」

「おっ、来たか。やっぱり一兄さんは時間に正確だな。ってか、すすさん。客だぞ」

「客って言っても世界君の友達でしょ? じゃあ私の友達よ。年も同じぐらいじゃない?」

「干支が二周違うぞ」


 昨日とは違った意味で非日常な空間に眼を輝かせている向日葵を出迎えたのは、この店の店主と思わしい黒い襟付きのシャツを着た女性と、いつもの制服の上に女性もののエプロンをつけた世界だった。すすと呼ばれた彼女は丸テーブルの椅子を四つ並べて横になり、この店名の元ネタと思わしきコミックスを読んでいて、仕事をする気は微塵もなさそうだった。その代わりではないだろうが、世界はテーブルの間に置いた業務用と思わしき巨大な鉄板に、お好み焼きの生地を三つ落とす。何故カフェでお好み焼き?


「広島風ですか」

「広島風じゃあないな。これがお好み焼きなんだ」

「そうだよ、向日葵ちゃん。世界君が作るコレが正真正銘のお好み焼きなんだよ」


 なんだか、どうでもいいこだわりがあるようだった。


「後三十分ぐらいで月姉さんの退院祝いのパーティーが始まるからな。手短に質問をしよう」


 私はおまけなの? とか、退院祝い? とか、やる気がなさそうな所とか、なんでお好み焼き? とか突っ込みどころが多い一言だったが、最後の台詞が最も意外なものだった。


「私に、質問があるのですか?」

「その通りだ」


 一は解決編と言っていたので、てっきり自分が訊ねる側だと思い込んでいたのだが、違うようだった。間違いなく、世界の方が今回の事情には詳しいと思うのだが。


「簡単なことだ。昨日の……蛇について知っていることを話せ」


 少しだけ『蛇』をどう表現しようか悩んだ末に、向日葵の瞳をしっかりと見つめる。その声は、どんな戯言も許さない鋭さを帯びていた。


「後、やる気のない店主も席を外してもらえるか?」

「えー!」


 苦情の声を上げるすすだったが、世界の蹴りの前に、漫画のオマケコーナーで笑ったすすはあえなく撤退していく。


「ほれ、適当にその椅子を使え」


 先程まで簡易ベッドだった椅子の一つを持って、テーブルを挟んだ世界の正面に座りながら、

昨夜のことを思い返す。傷ついた世界。赤く光る四つの眼。圧倒的暴力。そして、最後の一言。


 恐らく一生忘れられない光景を思い返してわかることはたった一つ。


「紛れもなく、あれはお父さんでした」

「それは、確証があるのか?」

「いいえ。ないです。でも……」


 父親が蛇になった理由なんて知る由もないし、幽霊や悪霊なんて見たことすら初めてで、超能力を眼で認識したことも初めてだった。


「それでも、あれはお父さん以外ありえないと思います」


 だから。


「私は昨日のことを聴きにきました」


 確かな意思を持って世界の赤い瞳を見返す。


「ああ、いいぞ」


 世界はあっさりと向日葵の台詞に答える。鉄板上に広がった生地の上にキャベツとテンカスを乗せて、塩コショウを振る。


「訊く権利ってのがあるだろうからな」


 既にお好み焼きのほうが重要な用件なのか、世界は豚肉を生地の上にどう置くべきかに頭を悩ませている。安そうな豚肉を三切れ乗せて、本人だけにしか意味がわからないであろう微調整をすると、お好み焼きを蒸すべく、それぞれに蓋をする。向日葵には興味がないのではと思える素振りで世界は焼きソバ用の麺の袋を開けていく。


「何から話せばいいんだろうな? まあ、あれだ、わかりやすく時系列順に話を進めるか」


 世界は焼きソバを炒めながら、ゆっくりと語り始める。


「まず、親七功兵。あいつの時点で超能力者の仕業ってことはわかってた。能力者は能力者を呼ぶからな」


 能力。昨日、どれほどの攻撃を受けても立ち上がり続けた超能力。


「《地獄期間》でしたっけ?」


 記憶が正しければ、世界はかなり高いテンションでそう告白していた。その光景を思い出そうとすると、


「言っとくが、その名は俺が考えたわけじゃあないからな」


 早口な世界の言葉がそれを邪魔した。その表情はどこか恥ずかしそうで新鮮だ。


「一応政府が管理しているらしいけど、詳しいことはしらん。なんでもレベルとか能力別にグループとかが存在していて、俺は《地獄期間》って便宜上呼ばれているって話だ」


 政府とは大仰な言い方の気もするが、確かに不死身の人間やそれに順ずる存在を国が知らないのもおかしな気がするので、納得しておこう。


「あっ、《蛇腹》もその一つですか?」


 功兵と聴いて思い出した記憶の中に、そんな単語が合ったことを思い出す。功兵に絡まれる前に現れた忍がそう言っていた。文章の中でその一言が際立っていて、よく覚えていた。


「そうなんだが、そいつは今回関係ない上に、放すと長くなるから訊くな」


 簡潔に言えば、先月の初めに高校生が一人殺された事件の着物が似合う犯人だ。世界は一度だけ追い詰め殺り合ったのだが、取り逃がしたうえ、全く関係のない殺人事件の犯人と《蛇腹》を勘違いして追いかけ、東京までマシンを走らせ、空回り全快だった。忍はなんだかよくわからないが、手伝ってくれている。超能力者でもないのに物好きな奴だった。


「とにかく、あのグラサン先輩の件と、お前が神知教から来たって聴いて俺は慌てたんだよ」

「私が神知教から来たら不味いのですか?」

「世の中には結構超能力者の団体ってのはあるんだが、神知教はその中でも強大な組織だからな。もしかしたら、お前が超能力者の刺客かも知れないと慌てたんだ」


 それが、早退の理由。二階の窓から飛び降りなければならないほど超能力者の戦闘は情報が大切なのだろう。


「でも、言いづらいですけど世界君なら寝込み襲われも、銃を持った敵に囲まれても平気な気がするんですけど」


 何せよ、『不死で不老で不滅の男』なのだ、殺しても死なない人間に奇襲の効果は薄い気がする。もしかしたら、誰か人質に取られた時の対策とかだろうか?


「敵じゃあねーよ。やすやすと神知教に遅れを取ったって知れたら、嵐に何されるかわからないんだよ」


 ぶつぶつと麺とソースを絡ませながら、世界は嵐に対する恨みを呪詛のように搾り出す。


「敵が百人いるより、あいつが後ろにいる方が恐ろしいぞ」


 そう言いながらもその顔は笑顔で、何故だか自信や誇りといった感情に埋め尽くされていて、「はあ」としか向日葵は答えようがない。


「って、また脱線だ」


 自分の表情と発言の矛盾に気が付かない青年は、中々進まない話に苦笑する。


「土日に情報収集して、月曜日に弁当を餌にお前と話をして、最終確認だったな」


 そういえば、月曜日は隠さずに『何故転校してきた?』と質問された。それとあれ以降、喋り方がややフランクにもなった気がする。


「金曜日に鬼頭のやつが事故ったってのも聴いていたから、早退して事故現場を検証してきた。忍には一応、お前を見といてくれって頼んだんだけどな」


 結局、その日は見つからず、向日葵とトラブルを起こした雪根が襲われるという、思いもしない展開に頭を抱えた。しかし、その時に怪我人が出たと思われる時間帯だけ、ここ最近――向日葵に出会ってから――感じていた身体のダルさが消えることに気がついた。


「で、翌日。忍に頼んで学校裏サイトを利用して、お前を一日休ませて様子を見る」

「忍くんに頼んで?」

「ああ、なんかあいつ剣道を辞めてから、そういうパソコンとかを一兄さんに習い始めたらしい。俺はそう言うの嫌いだからな、良くわからないが《蛇腹》の情報もそうやって集めたらしい」


苦手ではなく嫌い。そういう事にしておこうと向日葵は頷いて話を促す。


「忍が悪口書きまくったらどうなるかを見たかったんだよ。お前が犯人だったら忍を何らかの方法で襲うはずだからな。しかし、俺もあそこまでボロクソやれとは言ってなかったんだがな」

「あの誹謗中傷は全部忍君のものなのですか……」

 

いくら捜査や世界の頼みだからと言っても、あそこまで散々な事を書いた忍とは、暫く顔を合わせて会話できそうにない。


 結局、またしても作戦は空振りに終わった。


 自宅で一人考えた作戦は、向日葵と距離を取ることだった。特に深い意味はなく、ちょっと距離を置いた方が岡目八目ではないが状況が良く見えると思ったのだ。多分、世間ではその作戦の事を作戦とは呼ばない。


 そして、作戦決行一日目から、不運なアクシデントが発生してしまった。弱小チームのしょぼい練習を怨みつつも、これ以上の被害はまずいと、頼りたくはなかったが、数段上の領域にいる一と黒天に協力を要請したのだ。その二人も結局間に合わなかったのは、きっと世界の頼るタイミングが悪かったのだろう。


 新たな犠牲者を出してしまった事で、最早後をなくした世界が取った行動が、


「私に悪意を向けることですか」


 その通り、と世界は鉄板の上の蓋を取り、お好み焼きの生地の状態を確認して満足そうに唇を吊り上げる。それを器用にクルリと裏返し、鉄板に押し付ける。ジュウジュウと生地が焼ける音と臭いが食欲を誘う。


「あれはやり過ぎだと思うくらいにやった。悪かったな」


 両手に持った金属性のへらを手から離し、世界はようやく申し訳なさそうに向日葵を見て頭を深々と下げた。冗談や格好だけのものではない、誠意のこもったそれに、向日葵は慌てて椅子から立ち上がる。まさか世界が他人に頭を下げるなんて微塵も思ってなかったため対処が思いつかず、あたふたと両手を動かして、とにかく頭を上げるように頼む。ここで反応しなかったら世界が鉄板の上で土下座をする心配すらあった。


 向日葵の説得が功を成したのか、暫くすると世界はゆっくりと頭をあげて、再度謝罪を口にすると、申し訳なさそうな表情で焼ソバの上に生地を載せていく。


「後は、大体お前の知っての通りだよ。墓地で親父さんと戦って、勝てると踏んだら兄さん達に頼んでお前を連れてきてもらって、お前の反応を見たんだよ。どうにも関係なさそうだからそのまま倒した」


 鉄板に卵を四つ墜ちる。片手で二個の卵を割る動作は曲芸染みていて、思わず声を漏らす。


「凄いですね」

「……なんとも思わないのか?」向日葵の感嘆を無視して世界は独り言のように言葉を続ける。「俺は、お前の父親を殺したんだぞ?」


 先程とは違い、明確な意思を込めて『殺した』と言い切る世界に、向日葵は腕を組んで少しの時間だけ昨日の出来事について考える。


「俺は今日、お前にどんな表情で会うべきかわからなくて学校はサボった。直接会いに行くこともできずに、一兄さんに迎えに行ってもらって、挙句の果てにはお好み焼き作りながらしかお前と話せていないんだ」


 世界も世界なりに悩んでいたらしく、お好み焼きを作る手を再び休める。


「これに関しては謝るつもりはないが、俺はお前の親父さんを粉々にしちまったんだ」


 あの時はああするのが一番だと思ったし、今でもその意見は変わらない。それに、謝るということは、怪我を負わされた連中を蔑ろにする行為に他ならない。なのに、胸にあるのは罪悪感ばかり。初めてのこの感情に世界は戸惑っていた。


「もし、お前が昨日のことで俺を怨んでいるなら、気の済むまで好きにしてくれればいい。好きなだけ殺してくれていい」


 物騒な台詞ではあったが、世界は真剣だった。あの泣き顔をみてからというもの、世界は向日葵には殺されても仕方ないと考えていた。


 世界には到底理解できないが、父親の死を見て泣く娘と、娘を思って死ぬ父親はそれほどまでに衝撃だった。


「世界君を怨むわけがないですよ」


 椅子から立ち上がり、下を向く世界の横まで向日葵は移動して、微笑んだ。


「あの時は、泣いてしまいましたけど。アレは嬉し涙ですよ。もう一回お父さんの声が聞けるなんて思ってなかったですもの」


 意外な台詞と意外な表情に、世界の顔が固まり、その様子に向日葵の笑みはさらに広がる。


「そんな驚かないでくださいよ。私が世界君を電気椅子にかけて喜ぶと思いますか?」


 ワザとらしく頬を膨らまして「心外です」と付け加える。


 その表情に、世界は「くっくっく」と笑いを殺す。


 なんとなく、最初に会ったことを世界は思い出したのだ。あの時は、向日葵を慰めていたはずなのに、その立場が逆転していることがおかしかった。見た目にも幼い彼女が、自分の予想を超えて大きいことが何故だか嬉しくもある。


 笑顔一つで悩みが消えるとは、《地獄期間》も安くなったものだと呆れながら。世界は金属製のヘラを手に取り、半熟に焼けてきた卵の上にお好み焼きを乗せる。もう、完成は間近だ。


「それは悪かった」


 いつも通りのそっけない言い方で、世界もぎこちなく微笑みを返す。控えめに言っても愛嬌は欠片もないものだったが、不思議と安心感だけはあった。


「俺の話はそこで終わりだな」


 許してくれたことを嬉しく思いながらも、それはおくびにも出さずに世界は「質問あるか?」とお好み焼きの焼具合を確かめていく。


「一番重要なことを教えてもらってないのですけど?」

「なに? 俺の謝罪より重要なことがあるのか?」


 向日葵の呆れたような物言いに、大袈裟に世界は声をあげる。ちゃんと順番を追って説明できるように一晩考えたし、最後に謝罪を持ってくるのも忘れなかった。鉄板に張り付いた焼ソバのカスを取りながら不貞腐れている。


「何故お父さんはあんな姿になってしまったのでしょうか? ですよ」


 世界はあっさりと父親との下りを喋ってはいたが、あそこが一番意味不明なのだ。まだ、自分の熱狂的なストーカーが、今回の騒ぎを起こしたと言う方がわかりやすい。熱狂的なストーカーなんているわけもないのだがら、そんなことを言われても同じくらい混乱するが。


「『幽霊』ってのは、本来この世にはいない。それはわかるな?」


 暫く世界は無言で鉄板と睨めっこをした後、お好み焼きを一つ皿の上に取る。どうやら完成したようで、鰹節と刻み葱を振りかけていく。


「……神知教では一応、科学的に証明したみたいですけど」


 ゆらゆらと生き物のように動く鰹節を目で追いながら、反論する。


「だから、あくまで証明されたから、この世に存在しているんだろ?」


 それは、そうとも言えるかもしれない。コロンブスが新大陸を発見したからこそ、アメリカ大陸は今現在世界中に認知され、様々な実験から多重人格症もようやく病気と認識された。


 この世界では証明することで、初めて存在を認められるのだ。


「でも、それは人間本位の考えじゃあいですか。人間が認めなくてもアメリカ大陸は存在し続けていますし、まだ見つかっていない物理法則も私たちの生活の中にあるのじゃあないですか?」


 向日葵の意見も、真実だろう。人間がいなくても地球は悲しみも喜びもなく回り続ける。


「お前の台詞も最もだ」世界はあっさりとその言葉を認める。「が、超能力ってのは、そう言う自分勝手なものなんだよ。本人しか理解できない法則で動く、超常の現象」


 個人個人の認識や価値観の差異が生み出す、絶対の法則。


「それが超能力なんだ。だから、他人の能力の意味を理解できたとしても、それの『イデア』を自らで認識することは不可能だ。パーツはわかる。完成形も知っている。説明書も作った。そしてわかるのは『自分じゃあ理解できない』ってことだけさ」


「つまり、お父さんが蛇になった理由は誰かの能力ですけど、詳しいことまではわからないと」


 べらべらと一が乗り移ったように喋る世界の行き先を予測し、向日葵は溜息をつく。これでは、なんの為に来たかわからない。


「その通りだよ。知らない、わからないでお手上げさ。あれが誰の能力かもわからない」


 自分の恥を隠すように、世界はいそいそと残ったお好み焼きを皿の上に慎重に乗せながら早口でそう言い切る。


「そんな……」


 自分には被害がなかったとは言え、現状が落ち着いただけで根本が解決していないことを知り、向日葵は不安に顔を曇らせる。また、自分のせいで誰かが傷つきでもしたら……


「おいおい、そんな顔をすんなよ。ほれ、お好み焼き食うか?」


 少女の痛みを堪えるような表情に、世界は慌てて出来上がったお好み焼きと箸を差し出す。


「大丈夫だ。今回の件では嵐が動いてくれる」


 大人しくお好み焼きを食べ始めた向日葵に、力強く断言する。その場凌ぎの言い訳や、気休めの言葉ではなく、世界は絶対に大丈夫だと確信を持てていた。


 向日葵にとっては、よく喋るおっさ……お兄さんという認識しかないが、世界の中ではその存在は果てしなく大きいものらしい。少なくとも、最終的には犯人の目星をつけ、圧倒的な戦闘力を持っている世界が、「俺がいる」と言わない時点でその実力は折り紙付だろう。嵐のことを悪くは言っているが、心底の信頼も寄せているのだろう。


 まるで思春期の少年だ。向日葵はまだ熱い生地を箸で切り分けながら、素直ではない世界の子供っぽさに表情を緩める。


 その笑顔に、世界は「うまいか?」とか「悔しいが、嵐に敵う奴なんていない」とか、少々見当違いな声をかける。


「美味しいですよ。それに、嵐さんのことも信頼します」

「そうか」


 前半の台詞には少しだけ嬉しそうに、後半の台詞には悔しそうに世界は呟く。

 残るお好み焼きも全て鉄板から取り上げ、第二陣を作り出すのを眺めながら、向日葵はこの質問を最後にしようと決めて口を開く。


「嵐さんって何者なのですか?」


 以前もしたような気がする質問だが、構わなかった。根拠はないけど、盃嵐こそが、きっと世界やそれを取り巻く人間の鍵なのだと思ったのだ。


「何だ、そんなことか」


 答えは、日の昇る方角を答えるように澱みがなかった。


「《人生不敗》だよ」


 世界が答えると同時、店の扉が勢い良く音を立てる。


「良いにおーい! 病院食暮らしには飽き飽きしていたから嬉しいよ、世界君!」

「おい、大丈夫か本当に?」


 まず入ってきたのはピンク色のつなぎを着た、身体の凹凸がはっきりと際立つ女性。どうやら彼女が入院していたらしいが、スキップでお好み焼きの乗った皿まで行くところを見る限りそんな様子は微塵もない。その代わりではないだろうが、彼女と手を繋ぐ黒天の表情は崩れかけた積み木の表情になっている。どうやら、彼女がイラストレーターであり黒天の彼女である海月満月らしい。


「大丈夫だよ。黒天。病院ってのは、信用に足りるから」

「あー。知らないお姉ちゃんがいるー」


 次に薄いドアを潜ってきたのは、メガネをかけた理知的でありながら人のよさそうな雰囲気の三十代と思わしき男と、小学生に上がったばかりを証明する黄色いランドセルを背負った少女。胸に名札には『一年二組 楽園祭花』と描かれている。こちらも手を繋いでいるが、恐らく親子だろう。そうであって欲しい。


「一ちゃん。私たちも手を繋ぐ?」

「喜んでレディ」


 すすと一。説明は別に良い二人も仲良く手を繋いで入店。この二人は多分長生きするな、と向日葵は思った。


 広いとは言えない店内にぞろぞろと人が入ってくるのをみて、調理の手を止めてエプロンから取り出した形態のディスプレイで時間を確認する。開始予定より五分早い時間だったことに世界は不服そうに、最後に入ってきた店主を睨む。


「すすさん。話があるから入って来るなっていっただろ?」

「そうだっけ? 出ていけとは言われたけど?」


 入っちゃいけないとは言われていない。すすはそんな子供の屁理屈を展開する。一が無責任に「すすさんは頭が柔らかいなー」と調子に乗った四十の女子を増徴させ、満月は勝手にお好み焼きを食べ始め、祭花は向日葵の制服の裾を引っ張り、矢継ぎ早に質問を繰り返す。


「悪いな。これで質問タイムは終了みたいだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ