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地獄期間 ~地獄に咲くは向日葵~  作者: 安藤ナツ
【四月二十三日】

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後日談 ②

 嵐のような移動だった。


 向日葵はドライブの感想を訊ねてきた一にそう返した。信じられないことに、一の運転する神知教のエコカーは電車と比べても五分と遅れることなく駅前に到達していた。昨日のように始終前を見ていないわけではなかったが、やはり信号で一度も停止しなかったし、恐らく法律を少し以上オーバーした速度で走り続けた。車を何台も抜き去り、車幅ギリギリの道を突き抜ける。


 死んだ父や、今月の初めに見た猫を跳ねたドライバーを思い出し、嫌味のつもりでそう評したのだが、


「じゃあ、あの車は明日から『テンペスト』と呼ぼうかな」


 全く気にかける様子はなかった。これが世界ならもう少し強く出られるのだが、不思議と目の前の青年が『ミス』をするとは到底思えず、乾いた愛想笑いで答えておいた。


 そんなやり取りをしながら、若干一が前に出てはいるが、殆ど肩を並べて細い裏路地を歩く。


 文字通り、裏路地だった。こんな場所を良く見つけたものだと、感心するほど入り口は狭い。少なくとも、普段は猫専用だろう入り口に対して身体を横にして入ると、何とか人間がすれ違える程度には広がっていた。そこは、商店街の中心部を担うスーパーと、何件かの個人商店に挟まれた路地だった。このスーパーには何度か世話になっているし、裏の郷土料理の五平餅や大判焼きを売る店には毎週通っているが、この狭間の空間は意識したことすらなかった。こんな所にカフェが存在できるのだろうか?


 そんな風景と同義だった狭い道を二人はゆっくりと進んでいく。早足で通り過ぎるには少し勿体なく、高々十メートルの距離を進むのに、向日葵は三回も足を止めてしまう。その原因はスーパーと商店を分けるコンクリート製の塀に広がる草原にあった。


「サバンナですか? 動物さんが沢山いますね。一さんが書いたのですか?」


 二メートルほどの高さのある塀には、児童向けの絵本に書かれているようなコミカルなタッチで様々な動物が描かれていた。白いライオン。眠る兎。豪快に笑う像。小鳥を頭に乗せるキリン。なぜかペンギンが迷い込み、大きな鷹が嘴を曲げて笑っている。コンクリートの冷たさは一切排除され、そこには本物の暖かな陽射しすら感じ取れた。


「違うよ」髪の毛をかき混ぜて苦笑する。「コレを描いたのは海月満月ちゃん」


 海月。奇妙な苗字にはいささか覚えがある。自称、『願いを叶える魔人』、世界が夜兄と呼ぶ人間離れした印象を受ける真っ黒な青年。


「黒天さんの……」「そう彼女だね」「兄弟じゃあないんですか?」


 てっきり、漆黒のスーツの青年の姉か妹とかと想像したのだが、見事に外れたことに驚きが隠せない。何故に彼氏彼女で苗字が一緒なのか見当も付かない。そう言えば、最近黒天は海月を名乗り始めたといっていたような記憶もある。更に一の「黒天くんの名付け親が満月ちゃんになるのかな」発言で、意味がわからなくなる。


「まあ、詳しいことは本人に聞きなよ。二人の事情を語れるのは二人だけだろうし」

「あれ、教えてくれないのですか?」


 ぺらぺらと言う擬音が今まで会ったどんな人間よりも似合う一が、そんな面白そうな話をしないのは以外だった。少なくとも、彼にプライバシーと言う概念はなさそうなのだが。


 そんな失礼なことを考えているのが伝わったのかは定かではないが、一は右腕につけている腕時計を二回指先で叩く。高そうなアナログ時計だが、所々に傷が走っており、剣呑なものを感じさせる。


「世界君を待たせているからね」


 忘れていたとは、言えなかった。


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