表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄期間 ~地獄に咲くは向日葵~  作者: 安藤ナツ
【四月二十三日】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/35

後日談 ①

 既に日が傾き始め、茜色に染まりつつある駅前。


 家路に着こうと学生や会社員が入れ違い、すれ違う空間で、人の通りが鈍っている一箇所があった。ロータリーから少し離れた、障害者用の車専用の駐車スペースだった。そこは殆ど名ばかりの空間で、いつもは駅から来る我が子を迎えに来た母親たちがこっそりと、あるいは堂々と駐車しているだけの場所だ。


(何でしょうか?)


 本日の授業工程を無事に終わらせた日向向日葵も、年相応の好奇心を持って人々がこぞって集まっている駐車スペースに眼を向ける。似たような年頃の何人かが、キャーキャーと黄色い悲鳴をあげながら、携帯電話のカメラを使用しているところを見ると、芸能人でもいるのかもしれない。


 そうだったら涼ちゃんに自慢しよう。そんな期待を込めながら小さな身体を人混みに滑り込ませる。こんな時ばかりは、自分の体格は便利だ。


 香水や、煙草の臭いを潜り抜けると、


「おお!」


 昨日見たばかりのオープンカーが向日葵の目の前に現れた。暗がりで昨夜は良くわからなかったが、ロボットにでも変身しそうなその車は、通常の三倍くらいのスピードが出そうな色合いをした、凄まじく派手な車だったようだ。


 そして、女子の声援に爽やかな笑みを浮かべる運転席の人物にも当然見覚えがあった。


 昨夜知り合った、綺麗と言う単語が必要以上に似合うお喋りな研究員。


(たしかに、他人事だったら私も写メしちゃいそうですね)


 この混雑の原因は、一一とその愛車だった。


 確かに、この辺りでは比較的『都会』な印象の造りの駅前とは言え、所詮田舎。スポーティーな神知教の自動車と、一自身の容姿。目立つ車に目立つ容姿の人が乗って入れば、それは目立つだろう。まあ、一の服装が昨日と変わらず白衣なのが締まらないが、彼クラスになるとそれは誤差の内だろう。


 ただ、昨日の一件で十二分に彼の危険性を体験した向日葵は、見蕩れるのも程々に切り上げる。そして未だに向日葵に気が付かない所をみると、自分に用があるわけでもないようだ。こんな無駄に目立つ人間がこんな駅前で何をしているのだろうか? 今日休んだ世界(例に漏れず携帯にでない)の事や、昨日の詳しい話を聞きたかったのだが、どうも話しかけられる空気ではない。地味そうな中学生が、手に一の接吻を受けて感極まっているのだ。周りに耳を張ると、「なんでも、アラブの石油王の愛人の息子だとか」「人を待っているらしいぞ」「モデルじゃあないの?」「恋人募集中だって」と、真偽不明の情報が飛び交っている。


(どうしましょうか?)


 兎にも角にも多忙そうであるし、家と墓場までのタクシー代わりをしてくれた程度の関係でしかない向日葵は、暫く考えた後に、大人しくこの場を去ることにした。明日、世界の家に電撃訪問する予定なので、その時についでに聞けばいい。


 中年の主婦の黒いエコバッグのもち手にサインを書いている姿を見ながら(断れよ! と思わなくもない)、向日葵はゆっくりと人混みから出ようとすると、


「やあ、一日ぶりだね。向日葵ちゃん」

「え?」


 ちらりとも向日葵の方を見ずに一が笑った。その台詞に、集団は必死にヒマワリチャンを探そうと首を動かし始める。


「おお! 遂に恋人登場?」「誰? ヒマワリって」「あの子、ヒマワリの髪留めしてない?」


『ヒマワリ美人説』や『ヒマワリ愛人説』が跋扈し始め、向日葵は頬を引きつらせる。非常に出て行きづらい。もはや、罰ゲームに等しい。が、いつ偽者の『ヒマワリ』が出てきてもおかしくなさそうな雰囲気に、おずおずと向日葵は手を上げて、


「一さん。一日ぶりです」


 できるだけ笑顔で返した。そうする事で、ようやく一は向日葵の方に首を動かした。

「やあ。待っていたよ。二日連続、一タクシーをご利用いただき、ありがとうございます。料金は無料。行き先は新里世界。なんなら、道中でぼくが今回の事件の解決編をやってもいいし、ついでに今日出た数学の宿題を解きながら運転しても良いけどね」


 ギャラリーのことなどお構いなしに、一はペラペラと流れるように言葉を吐き出す。個人名や、事件なんて単語は使っても大丈夫なのだろうか? 後、何故宿題のことを知っているのかはただただ不気味だ。


 そんな向日葵の心配は少々的外れで、二人(厳密には一とその愛車)を取り巻いている人間にとって、台詞の内容はどうでも良く、一が何の変哲もない女子高生を待っていたことに全員が驚愕していた。


『兄妹説』から始まり、『許嫁説』や『隠し子説』などの憶測が一瞬で飛び交う。


「兄弟にしては……うん、似てないな」「ってか、私の方が美人じゃあない?」「あの子地味そうだし」


 向日葵は胸中で怒りを震わす。ギャラリーの言いたいことは十分にわかる。どうせ自分は成長率の悪い身体に、特徴のない顔だ。不躾な視線にそう叫びを上げたくなる。一に勝っている場所なんて細いボディの些細な凹凸ぐらいだ。

「さて、お嬢様。どうぞご乗車下さい」


 すっと、一の腕が目の向日葵をエスコートする。その動きも様になっていて、白衣のだらしないほつれすら意味を持ったように思える。


「何処に行くのですか?」

「向日葵ちゃんの家の近くの駅さ。ぼくたちの行きつけのカフェ。ブラックコーヒーしか出さないおばさんのいる癒しの空間。場所が場所だから駅からは少し歩くけどね」


 カフェの場所を口には出さずに、一は微笑む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ