猫の死体 ③
「うわ、こりゃ酷いな」
現場に着いた青年の第一声はそれだった。バイクから降り、先程よりも二周り以上大きな猫の死体の凄惨さに驚きを隠さずに顔をしかめる。向日葵は青年の背中に隠れるようにして、覗き見ると、すぐに後ろを向いてしまった。
「うーん。袋に入るか? これ」
キャリーのバックから子猫の死体の入った袋と新たなタオルを取り出し、地面の大猫と袋の残ったスペースに交互に目をやる。
しばらく無言で考えた後、「駄目元か」と考えた意味のない発言を口にする。
後ろを向く向日葵に声をかけ、袋を広げて持つように指示をすると、青年はタオルを猫の隣に置いて、学生服の袖を捲くる。向日葵は恐る恐るその横にしゃがみ、出来るだけ身体から袋を放して広げる。今更ながら、死体に恐怖を感じ始めた。
「目は閉じといた方が良いかもな」
その言葉と同時に、薄気味悪い音が向日葵達の鼓膜を震わす。それは何かがアスファルトに落ちた音に聞こえ、目を閉じて正解だったと向日葵はより一層瞼に力を込める。そしてすぐに 向日葵の細腕にかかる付加が倍以上に増し、猫が入った事が瞼越しにわかり、安堵の息を漏らす。
「もう、いいですか?」
「もう少し閉じといてくれ。ショッキングだ」
開きかけた瞼を再び閉じる。先程落ちた『何か』を拾っているのかもしれないと想像する。
自分には到底出来ない行為を平然と続ける青年に、尊敬三割の恐怖七割を覚えながら向日葵は許可が下りるまで目を瞑り続けた。
「よし。目を閉じたまま袋から手を離せ」
言葉に従い、ゆっくりと袋を地面に置いて手を離す。ゴソゴソとビニール袋が擦れる音が聴こえ、袋の口を閉じているらしかった。
「さて、完了だ」
バックのジッパーが閉じる音の後に、青年が向日葵に目を開けるように促す。視界にはタオルで手を拭く彼が見えた。一体何枚のタオルを常備しているのだろうか?
タオルも気になるが、他にも髪の色や学生服、市販とは思えないバイクについても気になった。若白髪なんて初めて見たし、緋の瞳は生物学的にどうなのかも訊ねたい、改造学生服を着る意味もわからないし、神知教でも見たことのないようなバイクにも興味が尽きない。
「何処に埋めるのですか?」
が、そんな好奇心は諦め、再び青年の後ろになんとかのぼり、これからの行き先を訊ねた。
慣れないヘルメットを被り、腰に手を回す。
「もう少し奥に行くと無縁仏の墓がある。勝手に裏手にでも埋めちまう」
間を置かずに答え、「勝手に裏手にな」と再び言ってバイクのエンジンを噴かす。
音に驚き、手に込める力を強める。そして今更だが、ノーヘルに気が付き向日葵は注意するべきか悩み、
「『勝手に』って、いいのですか?」
諦めた。自分の為に譲ってくれたわけだし、アメリカの何処かの州では、ヘルメットを被らなくてもいい法律があると書いてあった漫画を言い訳に思い出す。
「さあ? 猫の宗教まで俺は知らん」
猫の信心の話ではないのだが、向日葵大人しく「そうですね」と答えておいた。




