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地獄期間 ~地獄に咲くは向日葵~  作者: 安藤ナツ
【四月二十一日】

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世界の世界 ④

 それは、赤い瞳をもって見ていた。


 見つからないように息を潜め、気配を消し、白い肌の存在感を限りなく薄くした。


 ターゲットは決まっている。()(だい)(とう)()。ホームランボールを向日葵の鼻にぶつけた、あの一年生だ。


「はあ」


 短い溜息を冬馬は肺から搾り出す。今日は高校生活で一番大きな選択をしてしまったのではないかと頭を抱えたくなっているのだろう。


『夜道に気をつけろ』なんて脅しの常套句を言われた冬馬少年の心中は穏やかではない。彼の家は学校から遠く、山を一つ越えた先にある山の中腹にある。彼はその間八キロメートルをいつも自転車で往復しているのだが、今の心境は戦々恐々と言ったところか。


 こんなことなら、他の生徒と同じ様にバス通学をするんだった。と、遂に過去の自分すら憎くなってきた。ペダルを踏む時間をバイトに費やせば、バス代なんて簡単に元が取れたのに。


 きつい坂道を自転車から降りて登りながら、冬馬は意味なく雑木道を眺める。今にも気の隙間から世界が飛び出して来る気がしてならず、酷く落ち着かない。


 それは、もう良いだろうと判断した。十分に怯えているし、反省の色が見て取れる。許してやっても問題ないだろう。


 ただし、その腕の一本は貰わなければ割に合わない。


 向日葵の受けた苦痛をそれ以上にして返さなければ、それの復讐は解決しない。


 それは、一気に冬馬に近付いていった。


「あれ?」


 冬馬が感じたのは、違和感だった。突然、自転車のサドルを持っていた右手が何かに締め付けられた感覚に襲われたのだ。余りの唐突さに、振り向くことを忘れる。


「っ!」


 次は圧迫感。まるで誰かに握り締められている、そんな感覚が右の手首を襲う。


「うっ!」


 それが遂に痛みに変わる。骨が折れた経験はないが、間違いなく折れる事を理解した。痛みは恐怖を消し、自らの右腕の異変を確かめるべく、冬馬は雑木林から視線を自身の右でに移し、


「うわわあわわあ」


 絶叫した。


 自分の喉を裂くのが目的としか思えない声をあげる冬馬。先程恐怖に勝ったはずの痛みも忘れ、ただひたすらに泣き叫ぶ。


 が、それも仕方がないだろう。

 

 それを見てしまったのだから。それを視てしまったのだから。 

  

 それは赤い目をして、白い肌をして、冬馬の右腕を砕きながら、笑っていた。


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