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地獄期間 ~地獄に咲くは向日葵~  作者: 安藤ナツ
【四月二十一日】

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世界の世界 ②

 無事、祖母が席を離れる事で朝食にありついた向日葵は、いつもより早く朝食を食べ、いつもより早く支度を済ませると、重い足取りで玄関をくぐる。なんだか、朝から一日分の疲れがたまってしまった。


「早かったな」


 一足先に外に出ていた世界は、向日葵が玄関をくぐると同時にそんな事を言う。どう考えても早いのは、いい加減バイクと呼んで良いのかわからない、四輪のマシンに跨る世界の方だ。話を聞けば、六時前から来て、祖母と会話をしていたらしい。


「眠たくないのですか?」


 あの山のマンションを下りて、ここまで来るのに二十分はかかるだろう。一体何時に起きたのかは少し想像がつかない。


 まだ少し眠たい向日葵はあくびを噛み殺しながら、頭一つ以上離れた世界の顔を眺める。


 世界はいつも通りの蒼白な顔色だが、いつも通り目に力強さがあり、眠たそうな雰囲気はどこにもない。そういえば、授業中も外見や勝手な印象と違い、寝ている所を見た事がない。案外、規則正しい生活をしているかもしれなかった。


「で、本当に何しに来たのですか」


 マシンに跨ったまま動こうとしない世界に首を捻る。朝の見回り教師に見つかると厄介なので、後ろに乗るなとも言われたので、向日葵が乗るのを待っているわけではないとは思うが。


「ああ、用件を言いに来たんだよ」


 面倒臭そうにこめかみの辺りを小指で掻く。なんとなく野良猫っぽい動きだなと、向日葵は感じた。


「用件ですか?」

「電話でも良かったんだが、直接言った方が良いと思ってな」


 それなら、いつもと同じように駅のホームで待っていてくれれば良いと思うのだが、世界は首を横に振る。


「それじゃあ遅い。今日から俺には話しかけるなって言いに来たんだからな」

「どう言う事ですか?」

「そんな顔をするなよ。嫌な噂が立ってるだろ? 俺が傍にいたんじゃあ、噂の追い風にしかならないからな」


 一瞬本気で泣きそうになったが、説明を聞いてその発案に納得を見せる。


「ああ、確かにそれはありますね」

「ったく、災難だ。月曜日に連絡先を交換したのも効いているな」


 大袈裟に目元を右手で隠し、天を仰ぐ世界。確かに、世界なんて生徒の骨を折る実行犯という事になっていたはずだ。下手をすると向日葵よりも周囲の目が痛いだろう。


「すいません。なんか私のせいで」


 あの後学校裏サイトなんて見ていないのだが、恐らく世界の陰口も大量だろう。結構世界の心も傷ついているかと思うと、非はなくとも誤らなければいけない気がしてしまった。


 当然、世界は「お前のせいじゃあねーだろ」と、口悪く励ましを入れる。


「つーわけで、噂が消えるまでの間、俺の周囲二十メートルに寄るなよ」

「了解です。早く犯人を捕まえましょう」


 両手を胸の前で握り締め、まだ見ぬ犯人に対して気合を入れる。


「意外にアクティブな奴だなお前は」


 顎を撫でながら世界が驚いたような感心したような、複雑な声を上げる。


 確かに噂を消すには、真犯人が捕まるに越したことはないだろう。だがまさか「捕まえましょう」なんて言う、能動的な意見がこの小さな向日葵から出るとは思いもしなかったようだ。


「えー、捕まえないんですか?」

「残念そうに言うな。無茶だろうが、どう考えても」

「何故ですか? だって、私との接触は学校の敷地内で起きたのですから、犯人は絶対に校内にいるに決まっているじゃあないですか」


 親七巧兵はグラウンド。鬼頭教諭は教室。堀田雪根は下駄箱。確かに、これら全てに関わるには学校関係者以外ありえないだろう。


 しかし、それらは全て「犯人」なんて非日常的な存在がいたらの話である。


「こんなもん偶々の事故だろ」肩を竦める世界。

「偶然が重なったに決まってる。あのグラサン先輩は元々不良で、こないだの様子を見るに、敵も多いだろ。襲われたって不思議じゃあない。交通事故なんて一日に三件はこの県で起こっている。堀田雪根だって骨折したとしか聞いていない」

「そ、それもそうですね」


 そう言われると、世界の言う事は現実味があった。少なくとも、誰かがわざわざ闇討ち事件を起こしていると考えるよりはよっぽどわかりやすく、納得できる。


「と、言うことはですよ。昨日、世界君はその事実を広めるべく色々と暗躍してくれたわけですね?」

「別に何も」

「何も!」


 耳を掻きながらの台詞に向日葵が吼える。


「愛しい私があんなに傷ついていたのにメールの一つも寄こさずに置いて、何もしていないとは何事ですか! 卒業まで口利かない気ですか!」

「面倒な奴だな。安心しろ。次の被害者なんかそうそうでねーよ。一週間もすれば別の事に目が向くさ」


 手をひらひらと振って、マシンのエンジンを噴かす。結構な時間喋りこんだので、もうそろそろ駅に向かわないと世界は兎も角、向日葵は間に合いそうになかった。


「じゃあ、学校で」


 手なんて振ってくれるわけもなく、頭髪と同じ真っ白な雪原色のヘルメットを被る。


「って言うか『愛する』発言はスルーですか? なんか逆に私が恥ずかしいです」

「逆も何もお前は恥ずかしい奴だよ」


 それだけを言い残すと、世界は一度も振り返ることなく向日葵の視界からいなくなった。駅と反対の方向に行ったので、恐らく直接学校に行く気だろう。


「四ない運動ってしっていますか?」


 みんな、運転免許証は卒業してから取ろうね。そんな、架空のテロップを入れておいた。


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