神知教 ④
それは、赤い瞳をもって見ていた。
「あー。何で私ってああなのかな? カッとなって自分の言いたい事だけ言って。最悪だわ。クールよ。名前の様に冷たくて、名前の様に地に足付いた人間になるのよ、雪根」
爛々と輝く瞳は、すっかり暗くなってしまった通学路を堀田雪根と井戸忍が並んで下校する姿をしっかりと捉えてはなさい。
あの後、教師たちに囲まれた二人は、「雪根が廊下でこけて気絶して、家の近い忍がおぶって帰ろうとした」と言う、どう考えても嘘だとわかる言い訳をすることでようやく帰宅を許された。
二人とも剣道の有段者であるし、一年前の騒動も含め、襲われるような生徒ではないと思われているのか、駅前まで送ろうと言い出す教師はいなかった。
それが動き出すには好都合な事に。
しゅー。しゅー。と言う呼吸音が、静かに世闇に染み込んでいくのに二人はきがつかない。
「お前は昔から鉄のような奴だった」
忍は手に持った神知教製のパソコンから目を話すことなく雪根との会話を続ける。夜道だろうとなんだろうと、彼が危なげな様子を見せることはなかった。
それにとってそれは好都合だった。忍は対象ではない。むしろ、恩人に部類される。
堀田雪根から日向向日葵を守ったのだから。
「熱しやすく冷めやすい、って? うるさいわよ。大体、あんたもあんたで、その暗い性格どうにかなんないの?」
涼と同じく、殆ど一年ぶりに忍と会話する雪根は肩を竦める。
会話といっても校門を出てから続いているのは、一方的に雪根が喋り続けるだけだ。忍は一回も自分からは口を開かない。
多分、会話をしてくれないのは怒っているから。雪根はそう理解していた。
勝手にやさぐれて、勝手に巻き込んだ二人に忍は怒っているのだと思う。
「怒ってなどいない」
「あんた、心でも読めるの?」
久々に口を開いたと思ったら、こちらの心を読んだような台詞に顔を引きつらせる。
昔から、妙に勘の鋭い奴だった事を思い出す。
「じゃあ、何で一年間無視? 私は別にどうでもいいけど、涼なんか凄い沈んでたわよ?」
一年も話しをしていない割に、思った以上に言葉がすらすらと出てくる雪根。そういえば、世界が来るまでは、涼も忍と会話していたのだろうか? その辺の詳細は聞いていないのでわからない。でも、もしそうならば、あの女も同じ様に自然に話せたのだろうか?
「…………」
「また無視かよ。別に私は良いけど」
「ふっ」
「おい! 何がおもしろかった?」
突然鼻で笑われ、雪根は突っかかるが、忍は相手をしない。
世闇の中、少女の不機嫌そうな声だけが続き、少年はその言葉を一つも聞き漏らさず、相槌を打つことは一度もなかった。
それでも、それなりに楽しい下校時間だった。
「じゃあ、明日な、忍」
「明日だ。雪根」
結局、二人は駅前で別れるまで、それに気が付くことはなかった。
それの持つ、激しい怒りに。
数分後、夜の帳を引き裂くような悲鳴が木霊した。
当然、日はまだ昇らない。