赤い瞳の噂 ④
そいつは、黒い服を纏い待っていた。
待ち望む者が何時来るかは分からなかったが、そいつはとある墓地に程近い場所で静かに獲物を待っていた。
何をと問われても答えることは出来ない。何故ならそいつ自身、自分が何を待っているのかを未だに理解できていないからだ。そいつは誰かを待っている事だけを漠然と理解しているだけだった。
が、自分が何をすべきか理解していた。求める結果が心の奥底にこびり付き、そいつはそれを拭う為にそこで待っているのだ。
こびり付いたモノの名は……憎しみだった。
そいつの心の殆どはその黒々とした感情に汚され、誰か分からない待ち人に、その憎しみをぶつける、事こそが唯一自分を救う方法だと信じている。
「…………」
無言で、そいつは待ち続ける。
待ち続け、右腕を振るう。つい先日、一人の学生に間違えて暴力を振るってしまった。
しかし、そいつは止まらない。止まれるわけがなかった。
そして今日も、そいつは待ち人を見つけることができなかった。
無言でそいつが去った後、残ったのは一台の事故車。それにもの言わぬ運転手。
事故の数瞬、運転手はそいつを見ていた。
「……紅い目をしていた……」
狂気を孕んだ、死を髣髴とさせるその瞳。
偶々通りかかった散歩中の主婦が呼んだ救急車が到着するまで、壊れたスピーカーのようにそう繰り返すほど、そいつの目は印象深かった。