表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

思い出したくない過去

七話【思い出したくない過去】




「ちょっと其処の阿呆面魔法使い」

「…誰が阿呆面だ…。…何だよ」

「優しいロート様からのご忠告よ。有難く聞きなさいな。…救世主様を、あんたの妹と混合するのは止めなさい」

「…別に混合なんてしてない。大体、お前には関係ないだろ」

「確かに関係ないわ。だけど…今のままじゃ、あんた…必ず後悔する。同じ事を繰り返す可能性だって…」


・・・・・


「ネーベル!」

「お兄ちゃ、ん……」

ブラウと同じ金の髪の少女。

ネーベルと呼ばれた少女は咳き込みながらブラウを見つめていた。

「遅かったですね、ブラウ。貴方は約束を違えました。私は云いましたね?ヴィントの監視を任せる、と。どんな事でも全てを話しなさい、と。…ですが、貴方は全てを話す事をしなかった。私に気付かれなければいいと思ってたんですか?」

冷たい声でクヴェレが言う。

ブラウは焦りながらも言葉を紡いでいく。

「上官!…た、確かに俺、破りました……!どんな罰でも受けます!だから…ネーベルだけは…!!」

「貴方を失う訳にはいかない事を判っているでしょう?…大丈夫、苦しまずに逝かせて差し上げますから」

「…助け、て……お兄ちゃん……」

ネーベルは涙を浮かべてブラウを呼ぶ。

ブラウはネーベルに近づこうとするが見張り役の所為で近づけない。

「ネーベル!上官、やめてください!!」

「さようなら、ネーベル」

「ネーベル!!!」

ブラウの悲痛な叫びは空しく。

ネーベルの心臓めがけて剣が突き刺さり、ネーベルは意識を手放した。

「…ネー、ベル…」

放心状態のブラウは見張り役が離れたため、ネーベルへふらふらと近づく。

「…ブラウ、是で判りましたね?私との約束を守らなければ、どうなるかを…」

「…ネーベル…」

「……御機嫌よう、ブラウ」

今は何を言っても無駄か、とクヴェレは想いその場を後にした。

独り、残されたブラウはネーベルの亡骸を抱いて涙を流した。

「…ネーベル……ごめん…ごめんな……!ネーベル…!!」

まだ温かい、生きているかのようなその温もりが涙を止めさせなかった。


・・・・・


「っ…!黙れ!お前には関係ないって云ってんだろ!!」

ロートに言われ、過去を思い出したのかブラウは珍しく怒りをあらわにした。

ロートはそんなブラウを見てため息をつく。

「…あんたって、昔からホント変わらないわね」

「……とにかく、お前には関係ない。俺に是以上関わるな」

多少の冷静さを取り戻したブラウはそれだけ言い残し、立ち去った。


『…重症だわ。救世主様が、最後にはどうなるか…考える余裕すら持ててない。……ブラウ…あたしはただ…妹を失った時の苦しみや哀しみ…それをもう一度あんたに味わさせたくないだけなのに…』


・・・・・


「…冷たき守り神よ…我に力を授けたまえ……アイシクルレイン!」

無数の氷の刃が的に向かっていき。

「うん…大分慣れてきたかな…」

椿は少し安堵した様子で微笑んだ。


「…き…椿…」


「姉さん…!?姉さんでしょ!?ねぇ、今何処に…」

突如聞こえたか細い声。

だが椿が聞き間違える筈がない。

たった二人だけの家族なのだから。

「…私の事は…もう忘れて……帰るのよ、椿…」

「何を云ってるの!?あたしが姉さんを忘れられる訳ないじゃない!!」

丹「お願いだから、椿…元の世界へ……」

「姉さん!!行かないで!!」


「椿ちゃん?如何したの?そんな血相変えて…」

ドアを開けてブラウが入ってくると椿の様子に首を傾げていた。

「あ、ブラウ…今姉さんが…!」

少し慌てた様子の椿。

ブラウは尚も首を傾げた儘だ。

「お姉さん?いや、でも…」

「…取り乱してごめん。でも、本当に聞こえたの。私の事は忘れて元の世界へ帰りなさい、って…姉さんはそう云ってた…」

「…それを、お姉さんが?」

「え?あ、うん…それがどうかしたの?ブラウ?」

「ん?あぁ、いや…何でもないんだ。…椿ちゃんは、俺の妹によく似てるな…」

最後の方は苦笑交じりにブラウが言う。

椿は首を傾げた。

「俺の妹もさ、魔法がうまく使えないと悩んだりして…心配性でね。俺が遠征で帰りが遅かったりすると、凄く心配してて……」


・・・・・


「悪かったって!遠征の後、皆でちょっと打ち上げしてたんだよ」

「お兄ちゃんてば、何時もそればっかり!私がどれだけ心配してるか、判ってないんでしょ!」

「んな事ないって。俺は、何時だってお前を思ってるんだから」

「…ならいいけど。今度は早く帰ってよね?」

「あぁ、判ってるよ」


・・・・・


「ブラウ?」

「ん?…あぁ、ごめん。ちょっと昔を思い出しててね」

反応のない事に首を傾げていた椿に苦笑をしたブラウ。

「そう…いい妹さんだったんだね」

「あぁ…凄く…いい奴だった…」

椿が微笑んで告げると、何処か寂しげにブラウは頷いた。

「ブラウ…?」

そんなブラウの様子を椿は心配そうに見つめて。


「二人とも、邪魔すんぜ」

コンコン、とドアをノックして人が入ってきた。

「ヴィオレット?何の用だよ」

人の正体はヴィオレットだった。

「クヴェレ殿からのご伝達だ。皆、会議室に集まる様に、ってな」

「クヴェレ上官が?…判った。椿ちゃん、行こう?」

「あ、うん」

椿は頷き、身支度を整えた。


「…ブラウ。あんま私情を挟むなよ、救世主には」


『ロートといい、ヴィオレットといい…皆して何なんだよ……。俺は私情なんか挟んじゃいない。ちゃんと救世主は救世主だって割り切ってる。妹と…あいつと混合したりもしてない。俺は…警告される様な事なんて、何一つないんだ。ちゃんと…割り切ってるんだから…』


・・・・・


「よく来ましたね。さぁ、お座り下さい」

椿とブラウは一番最後だったようだ。

他の全員が着席している。

ブラウと椿も着席をした。

「皆様を呼んだのは他でもありません。…教会へ参ろうと思います」

冷静に。

あくまでも冷静にクヴェレが言う。

「ついにこの時が来たんだ~…」

「…それで、僕等は教会へ向かえばいいんですか?」

ゲルプが驚いてる様子の中、海が冷静に問いかける。

「えぇ。救世主の皆様には、教会へ行って頂きます」

「…面倒だけど仕方ないね。是で終わりに出来るんだし」

ため息交じりに海は言った。

そうこれで終わりなのだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!救世主達だけを行かせるんですか!?」

ガタッ、と音を立てて椅子からブラウが立ち上がって声を荒げた。

「無論、そのつもりですが?」

「そんなの危険過ぎます!俺は反対です!!」

冷静なクヴェレに食い下がらないブラウ。

だがクヴェレは。

「ブラウ、黙りなさい。何時から貴方は上官に命令出来る様になったのです?」

「でも…!」

「クヴェレ様?あたしもブラウの意見に賛成です。救世主様方はまだ其処まで強くない…五人で行かせるなんて、負けに行かせる様なもんですし」

ロートが助け船、と言わんばかりに微笑んで口をはさんだ。

ロートが口をはさむと、次が出てくる。

「ぼ、僕もです!確かに救世主の皆は、大分強くなったけど…でも、今のままじゃ死んじゃう可能性のが高いです。だから…!」

「クヴェレ殿。俺等もついていけばいいんじゃないですか?その方が安心でしょう?…色々と」

ヴィオレットは何処か意味ありげに言って見せた。

ロートはそこを聞き逃さなかったが、あえて言及しなかった。

今はその時ではない、と。

「……仕方ありませんね。では、皆に行って貰いましょう。作戦開始は明日、正午。準備はそれまで整えておく様に」

クヴェレはため息交じりに告げたが、何かを企んでいるようにも見えた――気がした。

各々解散し始める。


「明日、か…是で僕等も元の世界に帰れるんだね」

海がため息交じりに告げた。

「そうね、明日…終わらせなくちゃ」

波が緊張しながらも柔らかく告げる。

「大丈夫よ。皆居るんだもの…きっと大丈夫」

由佳里が安心させるかのように優しい声で言う。

「…頑張りましょうね」

桜は笑みを含んだ感じで言った。


・・・・・


『準備はもう始まってた…クヴェレさんは用意周到なのね。…姉さん…姉さんは、帰れって云ったけど…あたし、逃げたくない。だから、戦うわ。…皆が居るから、大丈夫。……姉さんを見付ける為にも…頑張るから』






七話。終了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ