普通の終焉
はじめましての方ははじめまして。
楠本舞と申します。
今回、エブリスタというサイトでも公開させて頂いている小説をこちらでも連載させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
一話【普通の終焉】
ガラガラガラと玄関を開ける音と共に、一歩外へ出る椿。
空を見上げ、そよ風を体に受ける。
「いい天気…まさに小春日和、かな…」
ふふ、と椿は笑うが、すぐに地面に視線を落とした。
『……姉さん…今、何処に居るの…?あたしを置いて…何処に……』
数年前に行方不明になった姉、牡丹を思い、拳を握った。
何故、牡丹の手を放してしまったのか、と。
『椿…今日も、いいお天気ね……。ほら…早くしないと、学校、遅れちゃうわよ…?』
ふと何処からともなく、囁く様に、優しい声が聞こえた。
「姉さん…!?……まさか、気のせいね……それより、本当に遅刻しちゃう…」
それは、牡丹の声にとてもよく似ていた。
突然の姉の声に、始めは驚いた様子だったが、その後は、僅かに苦笑いをする椿。
「早くしなくちゃ…!…それじゃあ、行ってきます…」
その椿の言葉は、誰かに云う様に。
そして玄関を閉め、学校へと走り去った。
その様子を、金色の髪の男が木の上から見ていた。
「…ふむ…中々、いいかもねぇ?」
その金色の髪の男は、誰にでもなく、呟く様に。
だが、僅かに楽しそうに笑った。
――時は夕刻。場は学校へ移動。僅かに響くチャイムの音。
「…此処は、何だか、嫌い……変な気分に、なるし…」
薄暗い道。
其れは学校の通学路で。
「でも通らなくちゃ…帰れないし……」
椿は一度ため息をつき、ゆっくりと歩き出す。
「是で良くない?」
楽しそうなひそひそとした声。
「マジでやんの?ビビっちゃうかもよー?」
くすくすと笑う声。
「大丈夫だって。…大体、あいつムカつくんだよ」
笑ながらもイラついている声。
「じゃあ、やるよ?」
軽く笑うような声。
すると植木鉢が椿目掛けて落ちてくる。
それに金髪の髪の男が真っ先に気付き、椿に遠くから叫ぶ。
「…危ない…!」
「…え?……植木、鉢…!?きゃっ…!!」
突然聞こえた声と、落ちてきた植木鉢に驚きと恐怖を隠せない椿。
当たる。
そう思って椿は目を閉じた。
「……?…あ、れ…?」
当たらなかった。
確かに頭上にあったのに。
「だいじょーぶ?あっぶないねぇ?」
にっこりと笑うような声で金髪の男が言う。
「え?貴方…誰…?それに、この植木鉢…?」
椿はそんな男に問いかけつつ、目の前の光景を疑った。
浮いているのだ。
植木鉢、が。
『浮いてる…なんで…!?』
椿は心底驚いていた。
浮く植木鉢など聞いたことがない。
「ん?俺?…まぁ、いいじゃない。それより君…魔女になるつもりはない?」
男は笑顔を絶やさず言う。
そして指をすっと下ろすと、植木鉢が地面に下りた。
「…は?魔女?」
椿はきょとんとした声を出す。
今時魔女とは。
何を言いだすのだろう、この人は。
椿は、そんな様子だった。
「そうそう、魔女♪どう?いや~、錬金術の一つにさぁ、如何しても魔女…っていうか、君らみたいな人の協力が必要なんだよね~?」
男はあくまで楽しそうだ。
「魔女?錬金術?何…それ。あたしをからかってるの?……それに、興味、ありませんから」
そんな男の様子に、椿は呆れた声を出す。
そして歩き出した。
「あぁ、待って待って!…お姉さん、探してるんでしょ?」
男は慌てて引き留めた。
先ほどまでのふざけた様子は何処へやら。
一気に真剣な声だった。
「…!何で、その事…!?」
椿は驚いたように足を止め、振り返る。
姉を探していることは、誰にも言ってない筈なのに。
「ま、色々と、ね…。どう?俺を助けると思って魔女になってくれるんなら…お姉さんを探すの、手伝うよ?」
交換条件。
そんな風に男は話した。
「……本当に…姉さんを…?」
椿は拭えない疑惑を持ちかける。
あんなに探しても見つからなかった姉が、見つかる、のだろうか。
「もっちろん!俺は、約束は違えないよ」
また、にこり、と笑って男は言った。
『魔女なんて…冗談にも程がある……。…でも…本当に、姉さんを探してくれるなら…』
所詮、魔女なんておとぎ話だ。
椿はそう思った。
それに今は、何よりも姉を探したい。
その心が椿を決意させた。
「………判り、ました…」
少しの間を置き、淡々と椿は男に頷く。
男の表情が一気に明るくなる。
「よーし、話は決まった!さ、行こうか、椿ちゃん♪」
男は心底嬉しそうに言った。
そして手を椿に差し出す。
「…何で、あたしの名前…」
一体この男はどこまで自分を知っているのだろう、と椿は思った。
「気にしない気にしなーい。さ、行こう♪」
男は白を切る用に告げ、にこり、と笑う。
「…ねぇ、あの子…」
「変な子よねぇ…?」
通りすがりの人たちがボソボソと話す。
「あれ?椿ちゃんってば、もしかして人気者?」
キョロキョロと辺りを見渡しながら男は笑って首を傾げる。
「…貴方のその格好に、皆反応してるんじゃないんですか?」
椿はあくまで冷静だった。
男の格好は、何処か浮世離れしていたのだ。
「へ?俺?いやいやいや、ありえないって!」
手を横にぶんぶんと振りながら男は笑う。
「何を根拠にそんな自信…」
椿は怪訝そうにつぶやく。
「いや、だってね?俺の姿、椿ちゃんにしか見えない筈だから」
さらっと男は告げた。
「……は!?何それ!!?」
一瞬の沈黙。
椿は驚いた声を上げた。
「俺等みたいのは、救世主に選んだ人物にしか姿が見えない様になってるんだよ。だから、椿ちゃんにしか見えない、って訳♪」
軽い口調で男は言う。
「…悪ふざけもいい加減に…!」
椿は多少の怒りを持った様子で言いかける。
「…あの子、頭がおかしいのかしら?」
「そうねぇ…独りで百面相みたいな事して…」
『…まさか…この人の云ってる事、本当なの?じゃあ…あたしってば、凄く変な人に見られて…?』
周囲の声は、男が言っていることを肯定しているものだった。
「椿ちゃーん?」
男は黙り込んでいる椿に首を傾げながら声をかけた。
「…っ…ちょっとこっちに来て!」
椿は慌てた様子で、男の手を掴み走り出す。
とにかく今は、ここから離れなければ、と。
「へ?ぅわっ!ちょっと、椿ちゃん!!?」
男は驚きの声を上げるが、椿はお構いなしで走った。
人気のない場所まで走ってきた二人。
椿は軽く息を乱していたが、男は平気なようだった。
「椿ちゃんってば…一体如何したのさ?」
男は状況が読めない、という感じで首を傾げていた。
「貴方の姿、他の人に見えないんでしょ?それなのにあんなに人目のある所で話してたら、あたしがおかしい人みたいじゃない!」
息を乱しながら椿は言う。
そう。
周りから見たらひとりごとを言っているだけなのだから。
「…成る程。其れで皆、椿ちゃんの事見てた訳だ?」
あぁ~、と納得したように男は頷く。
「…あー、もう…!一体あんた、何者な訳!?」
怒った様子で椿は男に問う。
「俺?俺は只の魔法使いだよ♪」
男は心底楽しそうに言った。
魔法使い、と。
「……はぁ…聞いたあたしが莫迦だったわ…」
椿には失笑しかできなかった。
今時魔女だの魔法使いだの…何を言うのだろう、この人は、と呆れていて。
「さーて、そろそろ、いこうかー♪……七色の光、路を作らん…テレポート!」
男は楽しそうに言って指を回した。
辺りを七色の光がつつむ。
「…え?ちょ…っ…!眩し…っ…!」
椿は驚き目を閉じてしまった。
同時に、意識も失ってしまって。
「…ちゃん……椿ちゃん!」
呼び起こすように男の声が響く。
「っ…?…此処、は…?」
椿は声に目を覚ました。
先ほどまでとは違う場所。
其処は今まで見たことのない場所だった。
「此処は13の支配する世界。俺等の住む世界だよ」
「13の、支配する世界…?」
男が言えば、椿は首を傾げる。
そんな世界、聞いたことがない。
「詳しい説明は後。とりあえず、部屋に案内するね?さ、こっちだよ」
「え?あ…はい…」
誘導するように男は優しく言う。
椿は頷き、立ち上がった。
先を歩く男に、ゆっくりとついていく椿。
歩きながら椿は、
『変な事に…なっちゃったな…』
と、心の中で思っていた。
一話、終了。
第一話をお読み頂き、ありがとうございました。
次の話を、読んでいただけたら光栄です^^