四月 ②
四月二十五日 木曜日 くもり
タイムスリップしてから今日で一週間が経ちました。立花さんとも順調に仲良くなれていると思います。色々話すようになって、立花さんと私はなんだか似ていると思うようになりました。食べ物の好き嫌いや音楽の趣味、好きなブランド。タイムスリップする前の立花さんと私は全く趣味が合いませんでしたし、全てにおいて正反対だからこそあそこまで対立したんだと思います。それで、百合ちゃんは立花さんの私とそっくりな所が嫌いみたいなんです。桜子の真似してんじゃないわよって怒ってましたし…。別に真似している訳ではないと思いますけどね。立花さんは顔立ちは平凡…なんて言うと失礼ですけど、普通ですが、髪は本当に綺麗。艶やかな黒髪が羨ましい…。私もそこだけは真似したいです。
四月二十六日 金曜日 雨
朝からひどい雨が降っていて、なんだか憂鬱。確か、前回の四月二十六日も雨だったのを覚えています。立花さんが雨の中で転んでしまったのに見て見ぬ振りをして、通り過ぎたんですから忘れようにも忘れられません。目の前で人が転んだというのに、手も貸さずに立ち去ったどころか、いい気味だと感じた時の罪悪感は今でもハッキリ覚えています。思えばあの出来事が嫌がらせのきっかけなのかもしれません。
勿論、今回はちゃんと助け起こすことが出来ました。立花さんはとても驚いていて、何故助けたのかと聞かれました。この程度のことで驚かれるなんて、わたくしが釣り目だから意地悪に見えるのでしょうか。前回は助けなかったのだから間違ってはいませんけど…。
友達なんですから、と言ったら立花さんはそのまま何も言わずに走り去ってしまいました。少し濡れてしまいましたけど、たまたま通りかかった遥貴様に上着を貸していただいたおかげで風邪をひかずにすみそうです。
みんなに心配されるのはとても嬉しいけど、執事の松山が風邪をひかないようにお世話しようとついてまわってくるのをなんとかしたいです…。
四月二十七日 土曜日 雨
今日も雨がやみません。何故か立花さんは私と距離を置いています。今日は殆ど話しかけられません。お友達になれたと思いましたが、五日で嫌われてしまいました…。百合ちゃんはほっとしているみたいですけど、なんだか納得がいきません。昨日の立花さんの様子から考えると、やはり助け起こしたのがよくなかったのでしょうか?
良かったことは、昨日助けていただいたおかげで、遥貴様に一方的に感じていた気まずさが薄れたことです。一緒にお昼を食べませんか?と聞いたらとても嬉しそうに頷いてもらえました。ただ、休み時間も返上するほど忙しかった筈なのに、今日はずっと一緒にいたので仕事が溜まっていないか心配です。
四月二十八日 日曜日 晴れ
明日は祝日なので、お兄様と一緒に出掛ける約束をしました。今から楽しみです。
お兄様は昔から私が学校での話をするととても嬉しそうにするので、ついつい色んな話をしてしまいます。でも心配性だから話す内容には気をつけないとね。あとはお兄様よりも松山の心配性をなんとかしないといけませんわね。松山は折角容姿端麗で仕事も出来るのに、私のことばかり気にかけるせいで全く浮いた話がなくて責任を感じるわ。
四月二十九日 月曜日 晴れ
お兄様は約束通り水族館に連れて言ってくれました。お兄様と二人で出掛けるのは久しぶりです!連れてきてもらった水族館はお兄様がよく一人で来られる所だそうです。一人で水族館なんて寂しくないのか聞いたら、寂しくないけど今度からは一緒に行こうと約束してくれました。
水族館で立花さんを見た気がして声をかけようと思ったんですが、お兄様に今日は二人だけで出かけてるんだからだめ、なんて引き止められているうちに見失ってしまいました。見間違えだといいんですけど。
四月三十日 火曜日 晴れ
立花さんは何事もなかったかのように話しかけてきました。嫌われているなんて、考えすぎだったのかもしれません。
遥貴様が立花さんと私を見比べて、仲良かったの?なんて驚いていました。知らなかったんでしょうか?百合ちゃんが馬鹿にしたように、というより馬鹿が!と罵ってましたけど…怒っていました。この学校で遥貴様にそんな態度をとれる女の子は百合ちゃんくらいですねえ。遥貴様もなんだかショックを受けているようでした。俺がいない間に、とか呟いていたので、私が立花さんと仲良くなっていてショックなのかもしれないです。私が遥貴様より先に仲良くなってしまったからですね。やり直しても遥貴様は立花さんのことを好きになるんでしょうか…。出来れば阻止したいところです。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「今日も特に変化なし、っと」
最後の一文を書き終えた日記を閉じて、小さく伸びをする。何かあった時の為に、今日の出来事は必ず書き留めることにしているが、これが中々面倒くさい。
「漸く四月も終わるわね」
壁に掛けられたカレンダーを見ながらホッと息を吐く。前回の四月と今回の四月は私が変わったからか、全く異なる展開を見せている。
「ま、やることは変わりませんけど」
お気に入りの水色のシュシュを手にとって髪を編んでいく。本当は茶色く染めたいけど、今後の為に黒髪のままの方がいい。あの女と同じ、黒髪じゃないと。
本当はあの女と仲良くするのは嫌だ。少しでも失敗すれば全てを奪われるから。でも仲良くしなければ新しいストーリーが始まらないのだから仕方ない。
今は少しでも味方を増やしていけばいい。その為に厄介なのは勅使河原百合ね。味方だと思っていると痛い目をみることは前回で散々学んだ。信用してはいけない人種だってこと、忘れないようにしなければ。
新しい四月が始まってからまだ生徒会のメンバーとも接触していないし…。前回と同じ行動をしては意味がない。というよりも、同じように行動しても、全く同じ展開にはならないみたい。今後の対策も考えなきゃね。
「自分の素敵な未来の為に…今度こそ失敗しないようにしないとね」
その為にはどんな手間も惜しまない。その為のやり直しの世界なのだから。