婚約者 月宮遥貴
この話は前に投稿したものを修正して、改めて投稿したものです。詳しくは活動報告をご覧ください。
俺には婚約者がいる。名前は篠原桜子。同い年で、幼馴染として十五年の付き合いになる。名家ばかりが集まる鷲宮学院でもトップクラスの家柄で、殆どの生徒は桜子に逆らわない。家柄以上に、あの美貌でお願いされたら断りにくいということもあるだろう。
俺との婚約は家同士の繋がりを強くする為の政略だが、付き合いの長い桜子は俺の中で一番大切な女の子だ。
最近、その桜子の様子がなんだかおかしい。まずは遠慮がちになった。例えば、新学期になり、俺は生徒会長として忙しくなり始めた。前生徒会長からの引き継ぎは終わったが、四月は新しく委員会の編成をしたり、生徒総会の準備をしなければならない。忙しい俺に遠慮しているのか、桜子があまり話しかけてこないのだ。以前はこんな風に気を使ったりしなかった。というより今更気を使われるような間柄ではなかった筈だ。
更に、生徒会の仕事が終わるまで俺のことを待っていたのに、それをしなくなった。お互い家から迎えが来るのだから同じ車で帰ればいいと、どんなに遅くても待つと言っていたのに。初めて桜子が一緒に帰れないと言ってきてから、一緒に帰る習慣がなくなりつつある。それどころか、避けられているらしい。
桜子に避けられるようになったきっかけは転校生の立花美麗に原因がある、と俺は考えている。
立花は四月の中途半端な時期に転校してきたこともあり、かなり目立っていた。正直、転校生なんてどうでも良かったが、隣の席に来る奴を無視するわけにもいかない。面倒くさいと思った瞬間、立花が盛大に転んだのには驚いた。あんなに豪快に転んだ立花は少し面白いかもしれない。ただ、俺をジロジロ見て来るのは勘弁してほしい、なんてその時は悪態をつく余裕があった。
問題はそのあとだ。その日は徹底的に桜子に避けられ、一言も会話が出来なかった。話しかけられたと思ったら、今日は一緒に帰れません、ときた。桜子が俺を避け始めたのと、立花が転校してきたのは同じ日だ。それまでは普通だったのにいきなり避けられたら立花が原因としか思えない。しかも、俺には心当たりがあるのだ。
恐らく、転校初日に転んだ立花を助け起こしたことに怒っているのではないかと思う。かなり盛大に転ばれたから、助け起こす時に立花を抱き起こしてしまったのだ。桜子は見た目は清楚で可愛らしい印象だが、かなり嫉妬深い。お嬢様らしく我儘なところもあるが、そういう所含めて好きなので、今の所は特に不満もない。
しかし、避けられるのは困る。俺の不用意な行動が原因とは言え、桜子に避けられているの辛い。だからと言って避けるなとも言えない…。桜子に避けられるのが辛すぎて生徒会の仕事だと偽って休み時間は教室にいないようにしている自分が情けない。桜子の友人はそれに気がついているらしく、教室を出る度に舌打ちをしてくるのが恐ろしい。あいつが良家のお嬢様だなんて未だに信じられない。
そういえば、土曜日に立花から校舎の案内をして欲しいと頼まれた。同じクラスに生徒会長がいて、しかも隣の席にいるのだから頼みたくなる気持ちもわかる。しかしその時の俺はそれどころではなかったので、他のクラスメイトに頼むように言ってしまった。かなり驚いた顔をしていたから断られると思っていなかったらしい。確かに転校生の頼み事を断るのは不親切だろう。勇気を出して話しかけてきたのかもしれないと思うと申し訳ない気もする。俺のことを気にしていたのも校舎案内を頼みたかったのかもしれない。だからと言って彼女に構っていたら桜子との距離は広がるだけだからやらないけど。
まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく立花が原因で桜子に避けられているのだから、原因にはなるべく近寄らない方がいいだろう。それなりに影響力のある俺が立花を避けているとなると今後の立花の学園生活が困ったことになるかもしれないから、フォローだけはしっかりしておけばいい。
面倒見のいい桜子が立花に一度も話しかけていないのも、やはりまだ怒っているというアピールなのだろうか…。
今の俺に出来ることは立花に近寄らないことと、桜子にこまめにメールを送って誠意を見せることだけだ。
(補足)ちなみに休み時間の度に速攻で教室から出て行ってしまう遥貴くんは、途中から立花さんが桜子ちゃんにべったりなことに気付いていません。