もう役立たずとは言わせない!言われたことないけど。
――2313年
人類は大きな進化を遂げ、魔法を使うことが出来るようになっていた。それに伴い増えた凶悪な犯罪を取り締まり、事故を防ぎ、市民の安全を守る。そのために作られた国家組織が存在した。その名も魔法警備団。この時代のすべての子供たちの憧れだ。タイトなスーツを身にまとい、魔法を使いこなす姿はとてもかっこいい。そんな魔法警備団に憧れる1人である私、都築メルはついこの間入団したばかりの新人だ。つまり、私は魔法警備団に所属しているのだ。そうはいっても私は新人なのでスーツを着たことも、犯罪者を捕まえるために街を駆け回ったこともない。私のような新人の仕事は雑務。直接街を守るための魔法部隊に属する隊員たちの資料整理や、報告書作りなどが主だ。また新人には1日3時間の魔法訓練がある。これで魔法を使うのを慣らし、実戦形式の訓練をしていく。だからよっぽど魔法の扱いがうまくない限り、入団そうそうにスーツを着て活動することはできない。
「お疲れ様でした」
今日も昨日と変わらず午後5時に帰宅。魔法部隊に所属し、実際に活動している人たちは夜中まで働いているというのに。そのことを考えるとなんだかとても悔しい。私は勉強もスポーツも成績も決して悪くはない。むしろいい方で、優等生の部類に入っている。それなのに、魔法だけ落ちこぼれなんて悔しいし、役に立っていないということがもっと悔しい。家に帰る途中、空を見上げると私の先輩たちの隊員が犯罪者と壮絶な空中戦を繰り広げている。
「キョウカ先輩だ!」
キョウカ先輩。彼女は私のあこがれで、18歳ながら全15部隊ある魔法部隊の第1部隊の隊長をしている。強く、美しく、正義に燃える彼女に私は憧れている。いつかキョウカ先輩のようになりたい。今のままでは無理なのだろうけど。少しでも近付くためにもっと努力しなきゃな。
「おはようございまーす」
翌日、いつも通り午前8時に出勤する。昨日は深夜まで河原で魔法弾を撃ちまくっていたので、すごく眠たい。本当は訓練時間以外の魔法の使用は禁止されているのだが、私は毎日帰りに秘密で魔法弾を撃つ練習している。魔法弾とは攻撃的に魔法を撃ち出したもので、例外はあるが戦闘に使う魔法だ。魔法の中にも日常を便利にする魔法や、人を幸せにする魔法もある。それらと区別するために攻撃的な魔法をこの世界では魔法弾というのだ。
「都築メル、君は今日から魔法部隊第13部隊に配属される」
いつも無愛想な上官にいきなり渡されたスーツと頭を保護するヘルメット。私は驚きを隠せず挙動不審になってしまう。上官の話によると、どうやら私は雑務から解放されて魔法部隊に配属されることになったらしい。つまりキョウカ先輩と同じようにスーツを着て、活動が出来るようになったということだ。
「やったぁ!」
今までお世話になった上官に挨拶し、私は大急ぎで第13部隊の訓練場兼待機室に向かう。第13部隊は数字からわかる通り、末端である。それでも私はキョウカ先輩に一歩近づけて嬉しい。
「おはようございます。今日からお世話になります!」
「おーよう来たな、話は聞いとるで。メルちゃんやったかな?」
「え――あ、はい。都築メルと言います、よろしくお願いします」
妙なしゃべり方の青年が私を出迎えてくれた。胸元に光る金色のバッチから、彼がこの隊のリーダーであることが分かった。まだ若いのにすごいな。それにしても、初対面で下の名前で呼ぶなんてなれなれしい人だ。
「うわー、出たよ。こういう張り切ってる新人ほどうざいものはないな」
なんかすごく嫌な感じのやつがいた。年は私とかわらなそうな男の子。焦げ茶色の癖のある髪、大きな瞳。まだ幼さを残した顔立ちの彼は、海の色のように青い細身のスーツを着こなしている。口元には全く柔らかくない笑みを浮かべ、見下したような視線を私に向けている。その瞬間彼の隣に立っていた女の人が彼に拳骨を落とした。
「こら、シュウあんた何調子乗ってるの!? あんたも新人のくせに」
鈍い音が部屋に響いた後、その女の人は言った。緩やかにウェーブのかかった少し明るめの黒髪。その毛先が鎖骨あたりでくるんと弧を描いている。
「マコ姉いうなよー!折角あいつをこき使おうと思ったのに――」
透き通るような白い肌に薄桃色の頬、大きな瞳に長いまつげ。スーツの上からでもわかる豊満な胸、くびれたウエスト細い脚。美を具現化したような女性はマコという名前らしい。そして感じの悪いあの少年はシュウというらしい。
「すまんな、騒がしゅうて。気にせずくつろいでや」
「はぁ」
展開にいまいち付いていけない私は気の抜けたような返事を返す。後ろから肩をたたかれ、振り返るとマコさんがいた。
「ごめんね、シュウが言ったことは気にしないでね??」
少し困ったような笑みを浮かべ、マコさんは言った。どうやら彼に少し手を焼いているようだ。横を見ると隊長さんが私に笑いかけていた。短く切り揃えられた髪、健康的な肌の色によく映える白い歯。すらりとした長身の隊長さんは、とてもおとなっぽい。見た目からして14歳の私より2つか3つ年上なのだろうけど、それよりももう少し大人の風格が出ている。やっぱり緊迫した雰囲気の中、本物の犯罪者と対峙しているからなのかな?それにしても――この隊に属している人たちは全員すごい美形だ。だから嫌になってくる。なぜならば私は世に言う不細工だから。
------緊急指令、第13部隊は即刻出動せよ
突然頭に響くほどうるさいサイレンと放送が鳴りだした。これは何か事件が起きた時に待機中の部隊に素早く任務を伝えるためのものだ。私を含め、4人の顔が引き締まる。この任務は私にとって初任務となるため、今後のことを考えると絶対にしくじれない。そう思うととても胸がドキドキしてきた。私は大きく息を吸い、両こぶしを固めて気合を入れる。
「何やってんだよ新人、さっさと着換えろ」
そんな私を横目で見ながらシュウ君は冷たく言い放つ。
「ここでですか!?」
私は仮にも14歳の女子だ。男の子と全く同じ部屋で着換えたことなんかない。学校の体育の授業のときだって部屋は別だった。今までの雑務をしていたときだって、出勤後は男女別の更衣室で支給された仕事着に着替えていた。それがいきなり、同い年くらいと、少し年上くらいの異性2人の前で着換えることになるなんて――
「当たり前だろ」
彼は慌てふためき顔を赤らめる私を見て鼻で笑い、バイクのヘルメットによく似た形の頭を守るために特殊な素材で作られたヘルメットを深くかぶる。そして、UV加工が施されたスモークミラーを下ろす。
「最初は慣れないかもしれないけど、とにかく急いで!」
「はい」
マコさんにそう言われた私は決意を固め、大急ぎでスーツに着替え始めた。