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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
弐 第九章 ~蟲殺の墜園~
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弐・第九章 第三話


 ……最初は、分からなかった。

 ただ豆粒状の巨島が見える、それだけで。

 五分後にもやはり分からなかった。

 ただCDくらいの大きさの巨島が見える、それだけで。

 ……だけど。


「……馬鹿なっ」


「……どうなって、やがる」


 だけど、これくらい近づいてしまえば……テレビほどの大きさに巨島が見えるようになってしまえば、その違和感にも気付く。

 ……気付いて、しまう。

 あの巨大だった島が、以前とは全く形が異なっている、ということに。

 そして……島を囲うようにして、黒い蟲を貫くように、紅に輝く槍が見えるだけでも十数本、砂に突き刺さっている、ということに。


「と、とにかく、早く帰ろうっ!

 みんなが……心配だっ!」


「……あ、ああ」


 アルベルトの発した、機甲鎧内部に反響しまくる叫びに背中を押される形で、俺はボロボロの機甲鎧を必死に走らせる。

 ただ、近づけば近づくほどに、嫌な予感は高まり続けていた。

 まず、遠目に見ても……確かあの辺りに見えていた筈の、巨島を追い出された連中が暮らしていた『下』がなくなっている。

 住民の姿形どころか、家もなければ転がっていた筈の岩すらもなくなっていて……思わず反対側へと帰り着いたのかと目を疑ってしまうほどだった。

 そして、何よりも……


「……壁は、どうしたんだ?」


 そうアルベルトが呟いた通り、巨島にあった筈の巨大な壁が……砂漠から押し寄せる蟲を撃退する筈の壁が、影も形も存在していない。

 ……いや、違う。

 壁、どころか……


「……島が、沈んで、ないか?」


 ……そう。

 確か以前に見た時には、最下層の外壁までしか砂がなかった筈だった。

 だと言うのに今は……


 ──あの建物の残骸……

 ──アレは、確か黒機師団の本部じゃ……

 

 壁よりも少し上にあった黒機師団の本部が……その半ばまで砂に埋もれているのが見えるのを考えると、恐らく沈んだのは数メートル程度だろう。


「って、ちょっと待てっ!」


 黒機師団本部が砂に沈み崩壊している。

 その事実に気付いた俺は、必死に機甲鎧を駆っていた。


 ──待て、待て、待て、待てっ!


 少しずつ、少しずつ巨島の全貌が見え始めるにつれて、俺の嫌な予感は、徐々に徐々に嫌な確信へと変化し始めていた。


「おい、兄弟。

 これ、は……」


 アルベルトのヤツが何かを呟いていたが、そんなのに耳すら貸さず、俺はただひたすらに機甲鎧を駆り続ける。

 そうして近づけば近づくほどに、街の様子が……三級市民街の様子が目に入ってくる。

 黒き蟲の死骸も、機甲鎧の残骸もあちこちに転がっていて……その周囲にあった建物は、何もかもが壊れ、崩れ、溶け落ちている。

 前後左右を見渡したところで、人っ子一人すら見当たらない。

 いや、「生活していた」という痕跡すら見つけられない。


 ──冗談じゃねぇっ!


 嫌な予感を振り払うように、俺は城壁があった辺りを駆け抜ける。

 砂に埋もれたのか、それとも蟲が喰らったのか……城壁があった辺りには、城壁だった筈の巨石すら見当たらない。

 いや、煉瓦造りだった道路も、周囲の家々すらも、その残骸が見当たらない代わりに、外から吹き込んできたのか、一面の砂ばかりになっていた。

 それどころか、黒機師団本部の近くに転がっていた筈の黒い機甲鎧すら、影も形も消え失せている。

 そんな何もない廃墟の中、俺は機甲鎧を必死に駆り続ける。

 幸いにして轟音を上げながら俺の機甲鎧が走っているにも関わらず、蟲共が襲い掛かってくるどころか、生きている蟲の姿すら見かけなかったのだが……

 今の俺は、そんなことにすら、意識が回らない。


「おい、兄弟っ!

 これ以上はっ!」


 その上無茶をさせ過ぎたのか、俺たちを乗せている機甲鎧は、既に両脚どころか全体が軋む音を上げていて……アルベルトが叫ぶまでもなく、もうそろそろヤバいのは明白だった。

 ……だけど、止まれない。

 俺は脇目も振らず、ただまっすぐに、一軒の家だけを求めて機甲鎧を走らせる。


 ──あ、った。


 そうして……ようやく見つけ出す。

 軒先に黄色い布を掲げた、良く見慣れた一軒の家を。

 ……周囲の家々は倒壊して跡形もないというのに、何故かこの家だけは壁に穴が開くこともなく、窓のあちこちが壊れている程度の損傷しかない。


「……奇跡、か?」


 アルベルトのヤツがそう呟くが……恐らくは奇跡でも何でもないのだろう。

 蟲皇の憑代が言っていたのを思い出す。

 ……「黒い蟲共には俺の気配を避けるように言い含めてあった」と。

 その言葉が真実ならば……あの黒い蟲共は、俺の気配が染みついたこの家には近寄ろうともしなかったのだろう。


 ──感謝、だな。


 そういう意味では……あの蟲皇の憑代は最期の最期に良い仕事をしてくれたものだ。

 俺はこの右手で頭蓋を吹き飛ばした、あの名前も知らない男の冥福を軽く祈ると……そのまま機甲鎧から飛び降りる。


「お、おい、兄弟っ!」


「悪い。

 そこでちょっと待っててくれっ!」


 早く蟲皇討伐の報を伝えたいのだろう。

 背中から聞こえたアルベルトの抗議の声を軽く流すと、俺は眼前の一軒家へと駆け寄っていた。

 ……塩と砂の塊へと化した、蟲皇と戦い散ったテテニスの最期を子供たちへと伝えなければならないことすら忘れたままで。

 ただこの家が残っていた、その喜びのままにドアを開き、叫ぶ。


「リリっ!

 今……帰った……、ぞ?」


 ……だけど。

 俺の叫びは、誰もいない家の中にただ木霊しただけだった。


 ──おかしい、な?


 以前なら、ドアを開けるだけで……暇な餓鬼共が一匹か二匹くらい、騒ぎながら顔を見せたものだが……


「リリ~ス。

 餓鬼共、お~い?」


 俺は声を上げるものの……誰も出てこない。

 と言うよりも、家に誰かがいるような気配が、ない。


 ──ひょっとして、避難したの、かもな。


 よくよく考えてみれば……周囲がこんな酷い有様なのだから、餓鬼共を連れたリリスが、こんな家で待っている訳もない。

 とっとと他の三級市民街にいた連中と一緒に、壁の向こう側に避難しているに決まっている。

 その事実に気付いた俺は、こわばっていた肩の力を抜くと……胸の奥に溜まっていた空気をゆっくりと吐き出す。


「何を、ビビっているんだか、俺は……」


 どうやらテテニスの死を目の当たりにした所為で、同居人の死に対して敏感になっているのだろう。

 俺はいつの間にか浮かんでいた額の汗を拭うと……ふと気付く。


 ──そう言えば……

 ──俺は、これから姫様に会いに行くんだよな。


 狭い機甲鎧の操縦席の中、砂の中を延々と行進し、蟲共を薙ぎ払い、更には蟲皇の憑代をこの手で殺めたのだ。

 服は汗だくで砂まみれ、右腕は返り血で赤茶けていて……蟲の体液の匂いまで染みついているような気がしてならない。

 こんな有様で姫様の前に出るなんて……ただ嫌われに行くに等しいだろう。


「……せめて、着替えるか」


 確か、リリスが俺のために服を何着か買っていたような覚えがある。

 俺はそう思い立つと、歩き慣れた階段を上り、幾夜かを過ごした部屋へと足を運ぶ。


「……変だな?」


 その違和感に気付いたのは、一体何が原因だったのだろう?

 廊下の砂?

 ドアの汚れ?

 周囲の空気?

 ……いや、違う。

 どれもいつもと同じ、何も変わっていないというのに……何かが違う、そんな予感があった。


「……馬鹿か」


 俺は、自分の胸の奥から湧き上がってくる、その嫌な予感とやらを首を振って追い払うと、そのまま自室のドアを開く。

 ……開いて、しまう。


「……リリ?」


 部屋の中は、酷い有様だった。

 竜巻でも部屋の中に迷い込んできたと勘違いするような惨状で……ベッドも箪笥も子供たちも、何もかもが千切れ、吹き飛んでいる。

 床にこびりついているのか、乾き切った血液で……

 その中で、たった一人だけ。

 部屋のど真ん中、まるで子供たちの盾になったかのような位置に……

 ……手に赤茶けた色の包丁を持つ、片足の少女が、伏して、いた。


「……リリ?」


 俺はこみ上げてくる吐き気を堪えながら、少女へと歩み寄る。

 答えは、ない。

 ……ある、筈が、ない。

 だって、彼女は……


「……リリ?

 おいっ!」


 彼女の身体を抱きかかえ……その身体が、服が、血に染まっているのを直視してしまった俺は、即座にそのリリスの身体から視線を逸らしていた。


 ──畜生っ!

 ──助けられ、なかったっ!


 俺は彼女の死体を抱きしめたまま……胸の奥から湧き上がってくる無力感に、必死に歯を食いしばる。

 もし、俺が、もっと早く帰ってきたのなら。

 もし、俺が、あの時、アルベルトたちに任せず、蟲を全て殲滅していたら。

 もし、俺が……

 考えればキリのないその後悔を、何もしてやれなかった少女の身体を抱きしめながら、必死に耐え続けてきた。


 ──あの時。

 ──彼女を助けた、あの俺の行動には……意味が、なかった?

 ──俺の行動は、無意味、だった?

 ──だったら俺は……何のために、この世界に……


 もう物言わぬ、身じろぎすらしないリリの身体を抱きしめたまま、俺は自問自答するものの……答えが返ってくる筈もない。

 ……ただ一つ。

 まだ、この世界には……救える人もいて、叶えていない約束もあるのだ。


 ──テテニスに言われた通り……助けるんだ。

 ──この世界の人間、全てを。

 ──蟲の脅威から、開放して……

 ──こんな悲劇を、二度と、起こさせないようにっ!


 その約束を、目的を頼りに俺は歯を食いしばる。

 行き場のない怒りが、ようやく向かう先を見い出したことで、俺はようやくこれから先への展望が見え始めていた。


「殺して、やる。

 蟲共、なんざ、全てっ!

 一匹残らずっ!」


 リリの亡骸を抱きしめたまま、俺はそう決意を固めていた。

 テテニスの遺志を継いで、だけじゃなく……俺自身の意思で。

 この世界にいる、全ての蟲共を駆逐してやる。

 ……と。


 ……だけど。


「畜生、ひでぇな、こりゃ。

 ……物盗りか」


 空気を読まないアルベルトの馬鹿が……俺が「必死に目を逸らしていた事実」を、平然と突きつけてきやがった。

 ……そう。

 俺の権能を襲うなと命じられた蟲が、この家を……子供たちを襲う筈がない。


 ──畜、生っ!


 少し考えれば分かる話だった。

 この部屋は、窓は多少壊れているにしても……幼蟲が入ってくるほど大きくは壊れてはいない。


 ──畜生っ!


 更に、子供を庇っていた筈の、一番年長のリリスは……部屋の真ん中で倒れていた。

 つまり、窓側から襲ってくる巨大な蟲からではなく……狭い廊下と階段から襲い掛かってくる『何か』から子供たちを守ろうとしたのだ。


 ──畜生がぁっ!


 ……そして、何よりも。

 蟲は、刃物なんて使わない。


 ──人間の身体を食べる蟲が、子供たちの身体をこんなにも残していく筈がないっ!

 

 俺は、周囲を見渡す。

 斃れている餓鬼の誰一人として、俺は名前すら覚えていないものの……

 俺の髪の毛を引っ張ってくれたこの餓鬼は、頭頂部から手斧らしきものを振り下ろされたらしく、頭蓋が割れ眼孔から目玉が飛び出している。

 俺の裾を引っ張るのが癖だったあの餓鬼は、鉈で切られたのか右腕が肩下からなく、そのまま胸の半ばまで大きな切り傷が残っていた。

 俺が残した食事を真っ先に口にしたチビっ子は、縦に腹を掻っ捌かれて干乾びた臓物が周囲に散らばっている。

 俺とは口を引こうともしなかったこの女の子は、咽喉を掻っ捌かれて頭がもげかかっている。

 他にも、他にも、他にも、他にも……何の罪もなかった筈の餓鬼どもが、この部屋の中で、刃物で惨殺されているのだ。

 たったの一人も、残さず……リリスを入れて、十七人、しっかりと。


 ──リリ。


 そして俺は覚悟を決めると……腕の中の少女へと視線を落とす。

 彼女の身体が、一番、酷かった。

 身体中に、刃物の跡が……三十六か所。

 あの膨らみすらなかった胸に、俺によくしがみ付いていたあの細い腕に、片方しかない痩せ細ったあの足に、柔らかく暖かかったあの腹に、ころころとよく表情が変える印象のあったあの顔に……

 無惨にも皮膚を引き裂き肉を貫き抉った、鋭利な刃物の跡が……三十六も。

 恐らくは彼女が息絶えるまで……いや、この惨殺を行った連中は、彼女が死んだ後も、その亡骸へとその手の鋭利な刃物を突き刺したに違いない。

 その原因は……恐らく、未だに彼女が握ったままの、この刃物。

 幼い子供たちを守ろうと、必死に抵抗したのだろう。

 ……それが、犯人たちの怒りを買ったのか。

 そんなリリスが身に着けているのは、俺がこの世界にやってきた時に来ていた……彼女に繕って貰うように頼んだ、あのシャツで。


「……ぐ、くっ」


 こみ上げてくる吐き気を、俺は奥歯を噛みしめて必死に堪える。

 ただひたすらに拳を握りしめた俺は……身体の奥から湧き出してくる殺意に、意識が飲まれそうになっていた。


 ──殺して、やる。

 ──こんなことを、しやがった、クソみたいな、犯人共を……

 ──必ず、肉片に、変えてやる。


 何処の誰がこんな真似を仕出かしたかは知らないが……俺の身内を殺しやがったんだ。


 ──その報いは、必ず、受けさせてやる。

 ──待って、いやがれ……


 一時の欲望に任せてこんな真似を仕出かしたことを、泣いて叫んで悔んで人生を終えるほどに。

 ……いや。

 生まれてしまったことに……今まで生きていたことを悔むくらい、絶望と激痛と後悔をたっぷりを味あわせてやる。

 あの塩の砂漠で同じように苦痛を味あわせてやった、『最後の領主』とやらと同じように、それ以上の地獄を、見せてやらないと……リリが、子供たちが救われない。

 ……それ以上に、俺の気が、済まない。


 ──なら、まずは犯人を捜し出してやらないと、な。


 確か……近くに市があった筈だ。

 そこにいる、適当に目についた連中の、二・三人の内臓を抉り出せば……それなりの情報が手に入るに違いない。

 そうして手に入れた情報を元に、次の獲物を引き千切って情報を引き出せば……

 犯人を見つけ出すまで、それを繰り返せば……


 ──必ず、クズ共に行き当たる、だろう。

 

 そうして殺意に身を焦がしたまま、俺は立ち上がる。

 例え百人の、いや、一万人を超える冤罪犠牲者を出そうとも、真犯人を惨殺するまでは殺戮を止めないと心に決めて。

 ……だけど。


「確かにこの子供たち、塩を買い占めたり、妙に羽振りが良いって噂になっているのを小耳に挟んだんだが……

 物盗りでも、普通、ここまでやるか、くそったれっ!」


 アルベルトが告げた、その言葉が耳に入ってしまう。


 ──何だよ、それは……


 リリスが、塩を買い占めたのは、何のためだった?


 ……この世界の不味い飯に辟易していた俺のため、だ。


 リリスが市場に出向いてまで高い服を買ったのは、誰のためだった?


 ……老蟲を屠った俺が、祝賀会に出ることになったため、だった。


 そして……そんな子供たちが、この家に取り残されたのは何故だ?


 ……処刑を待つだけのテテニスを助けるため……いや、俺がマリアフローゼ姫の処女が欲しいという欲望を捨てられなかったため、だ。


「何だよ、それ、は……」


 ……つまり。

 つまり、つまり、つまり。

 彼女が、死んだのは、全て……


 ──俺が、原因、だってのか?


 気付けば、俺の腕の中からはリリスの身体が転がり落ちていた。

 それほどまでに……その事実は、俺にとっては衝撃的だったのだ。

 何しろ……テテニスが死んだのも、半ば俺の所為だったのだ。

 だと言うのに、彼女の最期に託されたこの子供たちが死んだのも、俺の所為、だなんて。


「……いや、違う」


 知らず知らずの内に、俺は首を左右に振っていた。

 ……俺の、所為じゃない。

 俺が彼女たちを思って稼いだ金が、強盗共の目についた、というだけで。

 そして、もう動くこともなくなった片足の少女が、俺のためにと頑張ったことが、強盗共の目についた、というだけで。


 ──お互いが、お互いのためにと頑張った結果が……


 この、誰も彼もが救われない、惨状だというだけで。


 ──そんな、馬鹿な……


 そんなこと、認められる、筈がない。

 そんなこと、認められる、訳がない。

 お互いが、お互いのためをと考えた善意が、こんな結末を迎える、なんて……


 ──許される、筈がない。


 気付けば、俺は歯を食いしばり、拳を握りしめていた。

 今までにないほど強く握りしめた拳からは、爪が皮膚を突き破った所為か血が流れ出していたが……今の俺には、その痛みすら感じられない。


「兄弟……もう、行こう。

 早く、王に報告して、それから、犯人を捜そうじゃないか」


 そんな俺の仕草は、表情は……それほどまでに歪んでいたのだろうか?

 ウザさが取り柄と言わんばかりに空気を読めない行動をしまくった、あのアルベルトのヤツが、妙に気を使いながらそう提案してくる。


 ──王に、報告、か。


 アルベルトの声を聞いた俺は、ようやく絶望から脱し……心に活力が戻ってきた。

 ……そう。

 ようやく、あのマリアフローゼ姫を手に入れ……この手に抱けるのだ。


 ──それだけ、じゃない。


 そうやって姫を娶るついでに……手に入れた権力を行使して、子供たちを殺した犯人を見つけ出せば良いだろう。

 俺が一人で探すよりも、何十人も無関係な人間を手にかけて虱潰しにするよりも、遥かに手っ取り早いに違いない。

 そうして見つけ出した犯人共の、身体中の骨を砕き、皮膚をむしり取り、目を潰し、歯を引き抜き、臓物を抉り出し、餓鬼どもを手に懸けた事実を泣いて吐いて絶叫して絶望の中で悔みながら殺してやれば……

 ……少しは、俺の怒りも、晴れる、だろう。


「……そう、だな」


 アルベルトの言葉に俺は頷くと……

 ついに俺が助けることの叶わなかった片足の少女と、この世界にたどり着いてから同居し続けた子供たちから視線を逸らし。


 俺は、この……『自分の家』を後にしたのだった。


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