弐・第五章 第六話
「やぁ、ガル。
遅かったじゃないか」
新たな機体を駆り城門前へとたどり着いた俺を待っていたのは、黒い機甲鎧から放たれた、聞き慣れたテテニスの声だった。
どうやら彼女も動員されたらしい。
……いや、それどころか。
周囲を見回した俺は、思わず絶句してしまう。
黒い機甲鎧だけでも五十機。
青が三十機で赤が二十機ほど……総勢で百ほどの機体がズラッと並んでいるその光景は、まさに壮観の一言だったのだから。
──まるで……戦争だな。
しかし、それも大げさでも何でもないのだろう。
この……老蟲と成蟲四体というかつてない危機に比べれば……
「しかし、お行儀の良いこった」
城門前で姿を見せつつも襲って来ない四匹の成蟲を眺め、俺は思わずそう呟いていた。
事実、あの蟲共はまるで機甲鎧という餌が訪れるのを待っているかのように、姿を見せる以上のことはして来ていない。
老蟲に至ってはその成蟲の背後にその巨体を見せてはいるものの、先を争って襲い掛かろうという様子は見せていないようだった。
「……アイツらを相手にするんだったら、城門を盾に使った方が楽だと思うんだがな」
「それで城門が壊れれば、どうやって直すんだと思ってるんだ、兄弟?」
思わず零れ落ちた俺のぼやきにそう突っ込みを入れて来たのは、『最強』という二つ名を持つアルベルトのヤツだった。
城壁が壊れれば最後、蟲を止める術がない。
即ち、城壁は最後の切り札、なのだろう。
──ま、仕方ないか。
要は、この世界に五匹もいる老蟲の内の一匹が姿を現したぐらいじゃ、まだ最後の切り札を使う頃合いじゃない、ってことだ。
だからこそ俺たちはこうして……あの凄まじくデカい蟲を狩るために、壁の外へ出向かなければならないらしい。
その事実を前に流石のコイツでも緊張しているのか、声が僅かに震えている。
「済まないが黒を十機ほど引き連れて欲しい。
指揮は、したことあるか?」
「……何度かはあるが……得意じゃないぞ?」
アルベルトの問いに、俺は正直にそう答える。
事実、俺の執ったのは指揮なんて代物じゃない。
最前線に俺が突っ込み、その勢いに任せてサーズ族の連中が敵の被害を拡大させるという、ただそれだけなのだから。
「……いや、昨晩に赤機師が一人死亡、三人が行方不明になっていてな。
この戦場で指揮を執れる人間がいないんだ。
急造の部隊で悪いが、上手くやってくれ」
そう言ってアルベルトが連れてきたのは、黒機師九体。
テテニスもゼルグムもいないらしく……見事に初めて顔を合わせる連中である。
「ベルテルと言います」
「……ガルガス」
「デムンテというモノです。
よろしく、ガルディア隊長」
黒機師の連中は名乗り続けていたが……一度に十もの名前なんざ、俺に覚えられる訳もない。
……名前を覚えるつもりすらなく、適当に聞き流す。
──何をしろってんだよ、コレで。
俺はその黒い機甲鎧を眺めながら、そう内心でぼやいていた。
ソイツらは全員、嫌々戦線に立っているのが見え見えの……全く覇気のない連中だったのだ。
あの惨敗の最中にあったサーズ族でさえもうちょいと士気が高かったほどである。
こんな奴らがいたところで、何かの役に立つとも思えなかった。
正直……捨て駒にすらなりゃしないだろう。
俺はこんなクズ共を押しつけやがったアルベルトに抗議しようと口を開くが……
「ったく、『機師殺し』のヤツ、何も指揮を執れるヤツを狙わなくても……
蟲の奴らも、もうちょっと空気を読みやがれってんだ」
どうやらアイツもかなり追い詰められているらしく、何やらブツブツと呟いている。
だけど……アルベルトも伊達に『最強』の二つ名を有してはいないらしい。
三歩ほど歩いた時には顔を上げ胸を張り……全員に聞こえる声で、威風堂々という面持ちで声を張り上げていた。
「作戦はいつもと変わらないっ!
黒が止め、青が鈍らせ、赤がトドメを刺す。
敵の数が多い。混戦には注意してほしいっ!」
その声はさっきまでと違って自信に満ち、その声に従っていれば……いつもと同じように戦っていれば、今まで通りに勝てるのだと、雄弁に語っているようで……
──様になってるな、クソ。
その将軍然とした態度に、俺は舌打ちを隠せない。
何と言うか、コイツが人の上に立つタイプだと知れば知るほど……人間としての格を思い知らされてしまうのだ。
「まず、ガーデルとガルディア、ゼルグム、ハルゲス、ハーデルの黒部隊が前衛に立ってそれぞれの部隊が一匹ずつ足止めを担当して欲しい。
レイヴンとレナータ・レネーテの青機師隊が戦場の様子を見て上手く遊撃を。
この俺を始めとする赤は、隙を見つけ次第、特攻をかける」
作戦としては、単純にそれだけのようだった。
赤機師に動員された俺が黒を率いることになったのは、単純にまだ赤機師として任命されていない所為か。
それとも……「黒」の方がやりやすいと思われた所為か。
──ま、どっちでも構いやしないか。
俺としては……部下なんざどうだって構いやしない。
ただ敵を狩れれば……出世して姫様とかレナータ・レネーテとかそういう美少女をモノに出来れば良いだけなのだから。
「では、散開っ!」
「「「はっ!」」」
俺がそう考えている間に、作戦会議は終わっていたらしい。
俺が担当するのは右翼……右側の成蟲一匹を足止めする、それだけで構わないのだから。
「が、ガルディア隊長……生きて帰れます、か?」
名前も知らない部下がそう呟いたが、俺は気付かないふりをした。
……イチイチこんな雑魚の機嫌を取る必要なんて感じなかったのだ。
そうしている間にも、城門は開いて行く。
眼前には……まるで餌を待ち構えたかのような、蟲が四匹。
中でも一番巨大な、背後に控えているその一匹は成蟲が雑魚に思えてくるほどの、異様な大きさで……
「あれを、相手にするのか……」
さっき手に入れた部下がそう呟くのも無理がないほどの……とんでもないサイズの代物だった。
遠くから眺めていた頃から凄まじいサイズだとは思っていたが、こうして城壁の外へ出て同じ高さで見てみると……
──迫力が、全く違う。
事実、前衛を担当する筈の黒機師たち全員が老蟲の威容にビビってしまい、誰も前進しようとはしなかったのだから。
だけど……いつまでも立ち尽くす訳にもいかないだろう。
城門は、もう俺たちが通れるほどに開いているのだからっ!
「行くぞ、てめぇらっ!」
結局、無敵であるが故に恐怖を知らない俺の叫びが、老蟲に脅えていた全員を一喝することになったらしい。
まず俺の部隊が正門を抜け、右翼側の一匹へと突っ込む。
新しいこの専用機は……今までの機体と比べて遥かに動かしやすい。
これで「鈍重」というのだから、アルベルトの専用機が一体どれくらいの速度を秘めているのやら。
いや、今はそれどころじゃない。
既に眼前には目標としていた成蟲が迫ってきているっ!
……だけど。
やはりその蟲はまるで俺が目に入らないかのように、俺の隣を通り過ぎ、背後から追いかけて来ていた部下たちへと襲い掛かろうとしていた。
「またかよっ!
いい加減に、しやがれぇええええええええっ!」
とは言え、これで何度目か……いい加減、余り頭の良くないこの俺でも慣れてくる頃合いだ。
俺は操珠を握り絞めて機甲鎧を急制動させる。
巨体が踏ん張った所為か、足元から大きな砂煙が上がるが、意に介す余裕もない。
そのまま逆方向へと跳躍し、俺を無視した標的の頭部後ろ側へと、渾身の力を込めて戦斧を叩きつける。
前の戦いで覚えた、戦斧に自身の権能を纏わせる技法も忘れずに使いながら。
そして……その効果は、絶大だった。
「うぎゃああああああああああっ!」
「機体が、機体がぁああああっ?」
何しろ、渾身の力を込めて叩き潰したが故に、蟲の頭部が挽き肉のように飛び散り……周囲で構えていた俺の部下が二人ほどその体液のシャワーを浴びてしまったくらいである。
俺自身と言えば、この機体のコーティングの所為か、それともンディアナガルの権能で全身を覆っていた所為か、その酸の体液による被害は受けなかったが。
「と、兎に角。
……隊長が決めてくれたから、助かった、んだよな?」
「ああ、これで、受け持ちは終わり。
俺たちは、助かった……?」
頭部をミンチ状にされ、傷口周辺が塩と化した蟲の残骸から、俺が戦斧を引き抜いている間にも、背後からはそんな声が聞こえて来た。
どうやら……これで終わりだと思っているらしい。
──だから、クズなんだよな、コイツら。
こんな手柄を立てるチャンスを、俺が放っておける訳がない。
幸い、赤機師用に造られている所為か、それとも俺がやり方を覚えた所為か……戦斧の刃は蟲の体液によって溶けることもなく鈍く光り続けている。
……この武器なら、成蟲を百匹狩り続けることも出来そうだった。
「次は、二匹目っ!
行くぞ、てめぇらっ!」
である以上、俺がそう叫んだのは必然だろう。
残り八機の部下に向かって呼びかけたのは……まぁ、勢いみたいなものだ。
「マジかぁああああっ?」
「勘弁して下さいぃぃぃいいいいっ?」
とは言え、俺の特攻に巻き込まれた部下たちは、俺の指揮に不満があるようだった。
背後の部下たちは俺の叫びをかき消すかのような悲鳴を上げていたが……俺は意に介すこともなく、そのまま機甲鎧を走らせる。
どうせ顔も知らない連中だ。
──死のうが怪我しようが知ったことか。
そのまま右隣の戦場へと俺は走る。
そこでは黒い機甲鎧が必死に長槍で蟲を封じ込めようとし、だけど叶わずに蹴散らされているいつもの光景が広がっていた。
背後でそれを窺っている青機師たちは迂闊に近づけず、躊躇うばかりで……戦況は完全にこちら側の不利な形で展開しているらしい。
既に黒い機甲鎧が二機、青い機甲鎧が一機、倒れて動かなくなっている上に、更に黒い機甲鎧が一機、蟲に下半身を齧られていて……アレはもう戦闘不能だろう。
中の人間の生死も確かめようがない有様である。
……いや。
そんなことはどうだって構わない。
まだ俺が狩るべき獲物が一匹、健在だというその事実だけで、俺には十分だった。
「どけぇえええええええっ!」
俺はその黒い機甲鎧共を文字通り蹴散らして囲みを突き破ると、そのまま蟲へと突っ込む。
邪魔だった一体の黒い機甲鎧を蹴飛ばした時に、頭蓋が吹っ飛んだ気がしたが……まぁ、乗っている人間の命に別状はないだろう。
「ガルディアっ!
てめぇ、何を考えてっ?」
背後からはそんな叫びが聞こえて来て……どうやら、その黒機師たちの指揮を執っていたのは、あのゼルグムのおっさんだったらしい。
だけど……んなことは知ったことじゃない。
「二匹目っ!」
勢いに任せて蟲の眼前まで飛び込んだ俺は、渾身の力を込めて戦斧を振るう。
勢いのついた俺の横薙ぎの戦斧は、蟲に食いつかれたままの黒い機甲鎧ごと、その蟲の頭部を真っ二つに叩き割っていた。
……乗っていたヤツは即死だろう。
が、名前も知らない「黒」の連中なんざ、知ったことじゃない。
「次行くぞっ!
おっさん、ソイツらを引き連れて着いて来いっ!」
「何なんだ、この馬鹿っ!
戦場を、混乱させてんじゃねぇえええええっ!」
無茶苦茶な命令をした所為か、おっさんが悲鳴を上げていたが、この専用の機甲鎧で暴れる楽しさに酔ってきた俺は知ったことではない。
次の獲物を屠るため、戦場を見渡す。
……だけど。
「よぉ、兄弟。
そっちは終わったのかい?」
「……てめぇ」
そちらには俺と機甲鎧を操る技能では同等の『最強』アルベルトがいたのだ。
あっさりと俺と同じく二匹を屠ったらしく……コイツの背後には真っ黒に焦げた蟲の残骸が横たわっているのが見える。
……相変わらず、凄まじい腕をしているようだ。
何しろ俺が二匹の成蟲を狩る間に、コイツも同じだけの成蟲を狩っているのだ。
破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能を持つ、人外と言っても過言ではない、この俺と同等の戦闘力を持つ時点で、化け物の範疇である。
「そっちは何人やられた?
こっちは黒が四、青が一、赤も一ってところだ」
「さぁ、数えてないが……」
俺は周囲を見渡し、アルベルトの背後に並ぶ黒い機甲鎧の中に、こちらに向けて軽く手を振る機体……恐らくはテテニスの乗った機体を見つけ、軽く安堵する。
どうやら彼女は無事だったらしい。
そうしている間にも、機甲鎧部隊の再編成は終わっていた。
後は成蟲を狩られたことに気付いてゆっくりと頭を持ち上げている、あの巨大な老蟲を狩るだけ、だ。
──いや、違う。
その事実に俺は首を左右に振る。
──ここからが……本番だ。
あの巨大な蟲の緩慢な動きを見て、俺は確信をしていた。
アレは……あの老蟲は、成蟲が全て屠られた後でもこちらを全滅させる自信があるのだろう。
いや、獲物の取り分が増えて喜ぶんでいるようにも見える。
それほどまでに……あの化け物は凄まじい存在だった。
──このちっぽけな鉄くずでは、太刀打ちすら出来ないと思えるほどに……
他の連中もそれを感じているのだろう。
遠くから近づいてくるその巨体に恐れをなし、誰一人として口を開こうともしない。
「……で、どうするんだよ、『最強』。
アレを迎え撃つ戦術は?」
誰一人として声を発せない、重苦しい沈黙を破ったのは……やはり無敵故に恐怖という感情から解き放たれているこの俺、だった。
と言うよりも、俺が口を開いたのは、単にこの重苦しい空気に耐えかねた、というのが正しいのだが。
それでも……俺の声はこの最強の赤機師にとってありがたいものだったらしい。
一瞬だけアルベルトはホッとした様子を見せたかと思うと……
「いつも通りだ。
黒が足止め、青が遊撃、赤が攻撃っ!
四方に分かれ、隙を窺うっ!」
手慣れた雰囲気でそう命令を下す。
周囲の機師たちはそれに「応っっ!」という叫びを返すと、それぞれが持ち場へと走って行った。
「ほら、アンタたちっ!
気合、入れて行くわよっ!」
「私たちの働きに、みんなの命がかかっていると思って下さいっ!」
青の中でそう叫んでいるのはレナータ・レネーテの双子だろう。
甲高い声で……非常に目立つ。
だけど逆を言えば……ああして遠くまで聞こえるような声で叱咤激励をしないといけないほど、青機師たちの士気は低迷している、ということなのだろう。
「おい、アルベルト、あんなの……
どうしろってんだよ、おいっ!」
「いつも通りやればよいっ!
怖気づくなよ、俺達は『赤』だろうがっ!」
流石の赤機師たちも……似たようなものだった。
アルベルトに向けて泣き言を呟き、怒鳴り返されている。
そして……その士気の低下は、こちらの黒機師たちが一番凄まじかった。
「ああ、無理だ、あんなの……」
「抑え切れる訳ないだろう、アレを……」
ゆっくりと迫り来る巨大な蟲の姿に、誰も彼もが呆然とそう呟くのが精いっぱいらしい。
自らが捨て駒と承知している彼ら黒機師たちは、盾と槍を構えるどころか……ただ力なく立ち尽くすばかりだった。
「おい、テテ。
この戦いに生き残ったら……俺と結婚してくれないか?」
「馬鹿っ! ゼグっ!
今頃何を言ってるんだいっ!
アンタらも、もっと気合、入れないかいっ!」
指揮を執る一人であるゼルグムのおっさんは、そんな台詞を吐く始末である。
テテニスは一人だけ希望を捨てていないのか、声を張り上げて周囲を叱咤していたが、生憎と誰も聞く気力すら存在していなかった。
──仕方ない、か。
その姿を見て、俺は嘆息するばかりだった。
当たり前だろう。
アレを正面から食い止めるような汚れ役を、命がけの捨て駒役を……誰が好んでするものか。
……だけど。
──それをして貰わないと、俺が困るんだよなぁ。
俺が出世するためには。
俺がレナータ・レネーテの双子をモノにするためには。
そして……マリアフローゼ姫をこの手で抱くためには。
コイツらを、戦場に駆り出さなければならない。
役に立つかどうかは分からないが……まぁ、こんな連中でもいれば、的が増えて少しは楽になるに違いない。
俺は少しだけ考えて……自分が楽をするために、この連中を戦場に引きずり込むことに決めた。
「てめぇら、聞きやがれぇえええええええっ!」
気付けば、俺は叫んでいた。
「この戦い、俺達は大勢死ぬだろうっ!
あの化け物に圧殺されてしまうに違いないっ!」
「……士気を下げてどうするんだ、この馬鹿」
俺の叫びにゼルグムのおっさんが突っ込みを入れていたが、今は気にしてなんていられない。
「でもなっ!
青も死ねば、赤も死ぬっ!
上手くいけば、大量に欠員が出るだろうっ!」
青や赤が集合している方へ俺は指を刺す。
当然のことながら、青や赤の連中は俺の言いぐさを聞いて怒り狂っているようたが……今はそれどころじゃない。
ただ、叫ぶ。
「何としても生き残れっ!
踏みとどまれっ! この戦いを生き延びろっ!
上手くすりゃ、俺みたいに……てめぇらも、貴族様の仲間入りだっ!」
俺のその叫びに……黒機師たちが顔を上げる気配が広がって行く。
捨て駒でしかない彼らだからこそ……「貴族」という響きには弱いのだろう。
何よりも……力を見せつけて赤機師という地位を手に入れた「俺」という実例がある。
実際、俺はまだ貴族になっている訳ではないし、専用機を貰ったというだけで「赤」に任命されている訳でもないが……
その辺りは勢い、というヤツだった。
「金も手に入るっ!
女もヤれるっ!
美味いモノも食えるっ!
無理矢理死地に送り出されることもないっ!」
更に叫ぶ。
……そう。
俺は、コイツらの欲を刺激したのだ。
生きる気力というものは、欲望から生まれてくる。
死地に飛び込むほどの気力を出すためなら……命を賭けても構わないほどの、美味しい思いをちらつかせてやれば良い。
聖剣に切り刻まれながらも……それでもあの戦巫女を手に入れようと踏みとどまった経験のある俺だからこそ、コイツらを動かす術は心得ているっ!
「てめぇらっ!
いい女が欲しいだろうぉおおおおおおおっ!」
戦斧を振り上げながらの俺の叫びに……
「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
黒の連中は……喰らいついてきてくれた。
……当然だ。
コイツらが生きる気力を失ったのは、絶望の先に全く希望を見出せなかった所為なのだから。
だからこそ……死地を超えた先にある桃源郷をちらつかせてやれば……この通り。
全員が全員、槍と盾を手に……あの化け物に挑む気になっている。
──頑張ってくれよ、捨て駒たち。
──俺に、楽をさせてくれ。
そんな黒機師たちを眺めながら……俺は静かに笑みを噛み殺していたのだった。