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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
弐 第五章 ~老蟲戦~
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弐・第五章 第二話

 ──どうすれば、良い?


 アルコールの所為で回転が鈍った頭で俺は必死に考え続ける。

 ……マリアフローゼ姫という、極上の美少女をモノにする方法を。


 ──正面から口説く?


 ……どうやって?

 王宮の奥深く、しかも高貴な面々に囲まれているだろう姫様と、少しは出世したとは言え、未だにただの機甲鎧乗りである俺とでは身分が違い過ぎる。

 口説くどころか、言葉を交わすことすら儘ならないだろう。


 ──なら、力づくで……


 そう考えた俺は……すぐに首を左右に振る。

 この俺の、破壊と殺戮の神ンディアナガルの権能があれば、王宮奥深くへと侵入することは出来るだろう。

 ……そして、警備兵全てを蹴散らし、王女を押し倒すことすらも。

 しかし、そうして押し倒したところで……少女の身体を堪能する余裕があるだろうか?


 ──絶対に、邪魔が入るだろうなぁ。


 以前に攻城戦を仕掛けた記憶があるからよく分かるが……アレは有象無象が非常に鬱陶しかった。

 しかも今度の世界では、機甲鎧なんて邪魔な兵器が存在しているのだ。

 アレを一機一機潰して行くことになれば……時間がかかり過ぎて、肝心の姫様には逃げられてしまうのが関の山である。

 もし上手くいったとしても……ちょっと力加減を間違えただけで、塩の砂漠でやらかした痛恨のミスを繰り返す羽目に陥ってしまうだろう。

 加えて……流れ矢が一本飛んで来ただけで俺は兎も角、姫様はあっさりと死んでしまう。


 ──だったら、忍び込めば……


 そう一瞬だけ考えた俺だったが、すぐにその考えも却下する。

 基本的に俺は、あの塩の砂漠では問題ごとの全てを力ずくで片付けて来た。

 当然のことながら忍び込むような真似は苦手であり……俺の潜入スキルじゃ、夜這いをしかけるどころか、王城へ近づくことすら儘ならないだろう。


 ──となると、この巨島全員を……


 どうやらそのマリアフローゼとかってお姫様は、この世界中の人間全てを薙ぎ払わないと手に入らない、そういう相手らしい。

 何万人いるか分からない住人を皆殺しにする手間暇を考えた俺は……すぐにため息と共にその案を却下していた。

 戦斧を何万回も振るうと考えただけで……割に合わないこと、この上ない。

 大体……美少女ならテレビの向こう側のアイドルや俳優なんかで見慣れているのだ。

 その所為か、まだ見たこともない美少女を相手に……別に惚れ込んでいる訳でもない相手に、そこまで労力を費やす意味が俺は見い出せなかった。


 ──お手上げ、だな。


 俺がため息混じりのその結論を下すと、未だに馴れ馴れしく肩を組んできているアルベルトの方へと視線を移し……

 ……気付く。

 この男の瞳には……それほどまでに大層な相手であるにも関わらず、欠片の諦観も浮かんでいない。


「……何か方法がある、のか?」


「ふっふっふ。

 よくぞ聞いてくれたな、兄弟」


 俺の問いに、アルベルトは満面の笑みを浮かべ、指を鳴らしながらそう答える。

 うざったいことこの上ないその口調と仕草だったが……その仕草を傍から見ていたレナータ・レネーテの双子も諦めのため息を吐いていた。

 どうやらコイツのウザさは言わば生来のモノ……つまり、性格的なウザさであり、別に俺をおちょくっている訳じゃないらしい。

 その事実を前に俺は軽く息を吐くことで苛立ちを鎮め、握りかけていた拳を解く。

 ……だけど。


「この世界の蟲たちに、疑問を覚えたことはないか?」


 当のアルベルトの口から出て来たのは、そんな……意味不明の一言だった。


「……あぁ?」


 その答えに再び馬鹿にされたと感じた俺は、思わず不機嫌極まりない声を放っていた。

 ……いや、正直なところ、無意識の内に拳を握りしめていた。

 そしてあと一つ、目の前のコイツがもう一つでも馬鹿なことを口走れば、その頭蓋を叩き割ろうと決断する。

 どうやら今の……アルコールの入った俺の脳みそは自制心を失いかけているらしい。

 とは言え、眼前の青年も伊達に『最強』という二つ名を持ってはいない。


「まぁ、少しだけ聞けよ、兄弟。

 俺たちの仕事にも関する話だ」


 そう言いながら、俺を片手で制する。

 その声があまりに真剣だったのと、絶妙なタイミングで手を突き出されため……俺は思わず怒りすら忘れ、椅子へと座り直していた。

 ……素晴らしい危険回避能力である。

 ふとアルベルトから視線を外すと、視界の隅で双子の姉妹が真面目な顔で頷いていて……どうやら本当に真面目な話らしい。


「で、だ。

 この世界の蟲を、不思議に思ったことはないか?

 正門にばかり集まったり、門を破ろうとはしなかったり……」


「……そういう生き物じゃない、のか?

 一番低い場所に集まってきて……門を超えようとすると痛い思いをした記憶がある、とか」


 アルベルトの問いに対し、俺は以前にテレビか何かで見た、タコの学習実験を思い出しながらそう答える。

 確か、道を間違えたら電流を浴びせる仕組みのある迷路にタコを放つと……数十回の思考錯誤の上に、タコは道順を暗記するのだとか。

 である以上……門を超えようとして痛い目を味わった蟲が、門を忌避するようになってもおかしくはないだろう。

 ……だけど。


「だったら何故『下』に人が生きていられるんだ?

 蟲が人を餌にしていて、門を嫌っているのなら、まずあの連中が犠牲になる筈だろう?」


 『最強』アルベルトのその一言にあっさりと俺の答えは却下されてしまう。

 ……そう。

 不思議には思っていたのだ。

 あの数メートル級の門を守るために、巨島の人々を守るために、俺たち機師は機甲鎧に乗って蟲と戦い続けている。

 だったら……ちょっとくらい岩の上で生活しているからって、あの『下』の人々が生きていける筈がない。


 ──だとすると?


 アルベルトの言葉に、俺は考え込んでいた。

 蟲は人間を狙っている。

 ……それは間違いない。

 目の前でリリが喰われそうになったのを見ているし、機甲鎧に喰らいついて砂中に引きずり込むところを目の当たりにしたのだから。


「勿論、蟲たちは人も喰うわよ?

 門から外へ出た人は殆ど犠牲になっている訳だし」


 悩み始めた俺にそう告げたのは……恐らく、妹であるレネーテだった。

 姉であるレナータはアルベルトの方しか見ていないから、間違いないだろう。


「そうだな。

 強烈な血の臭いがすれば、幼蟲は理性を無くして喰らいついて来る。

 『下』じゃ報奨金目当てに狩りが流行っているとも聞くが……」


 レナータの言葉を引き継ぎ、アルベルトのヤツが口を開く。

 その口ぶりに俺は……リリの脚に毒の入った釣り針が刺さっていたのを思い出していた。

 そして彼女を喰らうために、蟲と素手でやりあったことを。

 ……ついでに、蟲の体液のあの臭さまでも。


 ──しかし、幼蟲は血の匂いを嗅ぐと……か。

 ──だったら、成蟲になったら、血の匂いじゃ……


 ふと、俺がそう思考を巡らした時……

 不意に『最強』のヤツが聞き捨てならない一言を口にしていたことに気付く。


「……理性?

 いや、そんな馬鹿な……」


 口にしながらも、俺はすぐにその考えを否定していた。

 ……そう。

 あんな蟲に、理性なんて、ある訳がない。

 俺は、浮かんで来たその考えを消し去ろうと、首を左右に振る。


「いや、それが馬鹿な話じゃないんだな、これが」


 そんな俺に向けて、ドヤ顔をしたままそう告げたのは……やはり会話の主導権を握っているアルベルトのヤツだった。

 顔立ちの整った青年がそういう仕草をすると普通よりも遥かにムカつくが……今はそれどころじゃない。

 俺は奥歯を軽く噛みしめて怒りを鎮めると……先を促すように野郎の面を睨み付ける。


「まぁ、理性と言ったのはちょっとした言葉のあやだがな。

 ……『命令』に従う本能、と言い換えた方が正しいかもしれないな」


「……待て。

 『命令』、だと?」


「ああ。

 門を襲え。

 門から出て来た人間を襲え。

 門から出て来る機甲鎧を襲え。

 『下』の難民には手を出すな。

 ……と言ったところか?」


「最近では学習したのか、門の前に姿を現すだけで、機甲鎧が出て来ると知ったらしく……待ち構えるばかりになってんだけど、さ」


 アルベルトの言葉をそう引き継いだのは、双子の姉であるレナータだった。

 とは言え、俺の目には……未だにどっちがどっちかすら見分けがつかなかったが。

 しかし、それ以上に、アルベルトの話は……


「そんな馬鹿な。

 一体、誰があんなのを?」


「それは砂漠の主。

 それは蟲の皇にして最強の蟲。

 世界を砂漠化させた悪魔であり、この世界最悪の存在。

 最悪の蟲にして……」


「……蟲皇『ン』です」


「……ん?」


 ウザったくもったいぶって、ポーズをつけながら長々と説明をしていたアルベルトを遮り、レネーテがあっさりと一言で答える。

 当然のようにアルベルトは恨みがましい視線をこちらに向けていたが、そんなことはどうでも良くて……

 それよりも俺は、彼女の口から発せられたその名前に、思わず首を傾げていた。


「それは……名前、なのか?」

 

「ああ、昔は何とかって名前があったらしいんだけどね。

 ……名前をはく奪されてんのよ。

 罪人である『下』の連中よりも、遥かに格下って扱いって訳」


 レナータのその答えに俺はようやく頷いていた。

 テテニスが『下』ではテテと呼ばれていたように……以前は普通の市民が名乗る三文字だったらしいが……この世界ではそういう風習があるらしい。


 ──つまり、蟲皇は最悪最低の存在という扱いなんだな。


 ……異世界の風習とは言え、ややこしいことこの上ない。

 名前をころころ変える風習のない現代の日本人として育った俺は……未だにこっちのシステムに馴染めずにいた。


「兎に角、この世界が荒廃した元凶であるその蟲皇を倒せば……報酬は何でも叶えてくれると言われている。

 死罪を覆したり、金銀財宝、上級貴族の地位。

 ……勿論、姫様を娶るだってな」


 ──なるほど。


 アルベルトの言葉に俺は大きく頷いていた。

 ……確かにそういう近道があれば、超絶美少女の姫様を戴くことも不可能じゃないだろう。


 ──俺には、破壊と殺戮の神ンディアナガルがいる。

 ──つまり、何が相手だろうと、負けることは絶対にない。


 その事実に俺は一人ほくそ笑む。

 正直な話、俺にとって姫様を戴くための障害はあとただ一つ……如何にその蟲皇とやらを見つけ出すか、それだけになったのだから。


「ったく。アルバったら、またそんなことを……」


「大体、蟲皇討伐なんて機師の死刑とまで言われる任務ですよ?

 幾らなんでも無茶ですって……」


 レナータ・レネーテの双子姉妹は、アルベルトの告げた野望に、そう釘を刺す。

 二人の少女の言葉も尤もである。

 実際問題……門に攻めてくる成蟲でさえも、機甲鎧数機で囲わないと倒せなほど強い相手なのだ。

 その成蟲が年を経て大きくなった老蟲の、更に上と思われるその蟲皇は……彼らからしてみれば、まさにどうしようもない災害のような存在なのだろう。

 そう釘を刺して満足したのか、レネーテは軽く頭を下げると席を立ち、カウンターの方へと歩いて行って店の主人と何かを話し始めていた。

 そんな双子の片割れの態度を気にした様子もなく、アルベルトのヤツはまたしても俺の肩に腕を回すと……


「確かに俺一人では出来なかったっ!

 だが、俺と同等の戦闘力を持つ、このガルディアの助力があればっ!」


 ……酒場全体に聞こえるほどの大声でそう叫ぶ。

 赤機師最強と名高いコイツのその叫びを聞いて……俺はようやく、こんな場所まで連れ出された理由を理解していた。

 つまりが……俺を戦力として欲していたのだ。


 ──最初からそう言えってんだ。


 実際……そっちの方が随分と分かりやすい。

 勿論、コイツが『最強』であることに変わりなく……コイツが抱えている強者故の孤独ってのもあるのだろうけれど。

 

 ──だが、悪くない、な。


 この『最強』という二つ名を持つアルベルトが強いことに違いはない。

 そして蟲皇とやらも厄介なほどに強いのだろう。

 なら……答えは簡単だ。


 ──上手く、コイツを使い潰す。


 マリアフローゼ姫様の処女は、残念ながら一発分しかない。

 俺がソレを欲しがっている以上……コイツにくれてやる訳にはいかないのだ。

 だったら、俺に残された選択肢は決まっている。


 ──上手く、戦死させてやるさ。


 蟲皇に挑み散った、救国の英雄。

 その名誉はくれてやっても構わない。

 とは言え、最後のトドメ……蟲皇を屠った報酬だけは俺が頂くことになる訳だけど。

 ……ついでに、姫様を戴いた後で、この双子の美少女であるレナータ・レネーテ姉妹を戴くのも悪くないだろう。


 ──アルベルトのヤツがくたばってしまえば……この二人がアルベルトよりも強い俺に惚れるのは自明の理、だからな。


 俺は刹那の合間に脳内でそういう打算を終え……馴れ馴れしく肩を組んできたアルベルトのヤツに向けて友情の笑みを浮かべる。

 尤も、友人なんて出来たことのない俺には、友人へ向ける笑みなんて分かる訳もなく……酷く引き攣った笑みになってしまったのだが。

 そんな俺たち二人に向けて、レナータは半眼を向けると……


「と言うか……まずは居場所を見つけ出してから、よね?」


 そう告げた。


 ──何だ……。

 ──まだ居場所すら分かってないのかよ。


 その事実に、初体験に向けて気分の盛り上がっていた俺は意気消沈を隠せない。

 どうやら姫様の処女を戴くのは……まだ当分先になるようだった。


「「……はぁ」」


 俺は盛り上がった気分を落ち着けるかのようにため息を一つ吐く。

 ついでにアルベルトのヤツにも俺の意気消沈が感染ったらしく、コイツも俺とほぼ同じタイミングでため息を吐いていた。

 更にその直後、ヤケクソのようにジョッキを傾けるタイミングまでぴったしで……何と言うか、仲良しみたいで居心地が悪いことこの上ない。

 そうして俺が唇を尖らせていた時、さっき席を立っていたレネーテが席へと戻ってきた。


「はい、これ。

 放っておいたら、いつもお酒しか飲もうとしないんだから……」


 両手には料理を持っていて……どうやら酒だけを飲んでいる俺たち、いや、彼女の口ぶりを聞く限り、アルベルトのヤツの健康を危惧したのだろう。

 肉の串焼きと野菜サラダ、豆の煮物と……意外と食えそうな料理が揃っている。


「そもそも……アルバ、アルベルト様には急務が入っているでしょ?」


 テーブルに料理を置きながらの彼女の声に、俺は料理から視線を逸らし、アルベルトの顔を見やるが……


「イヤなんだよな、あんな任務。

 幾らうちにも犠牲が出てるからって……」


 肝心の赤機師はそう唇を尖らせていた。

 ……どうやらあまりやりたい仕事ではないらしい。

 俺はそんなアルベルトのヤツを横目で見ながらも、テーブルの上に出された料理へと手を伸ばす。


 ──まずは、肉から……


 健全な男子として、肉に手が伸びたのは……まぁ、そう不思議なことでもないだろう。

 脂の滴るその串へと手を伸ばした俺は、まだ湯気の立つその肉を口に含み……


「……っ?」


 ……絶句する。


 ──不味い、なんて、もん、じゃない。


 その肉は、ものすごい肉の臭気が漂う、硬く筋張った肉を火で炙っただけという、とんでもなく不味い代物で……

 ……いや、『下』で喰っていた、腐敗臭のする肉よりはマシ、ではある。

 だけど、最近テテニスの家で喰い慣れた、あの料理に比べると……この肉は、圧倒的に不味いのだ。

 アレも現代日本に慣れた俺にとってはクソ不味い部類に入る訳だが、それでもここの肉よりは遥かにマシで……

 『上』の食事の基準がアレだと思い込んでいた俺は、この肉の不味さに絶句していた。


「大体、治安維持は『白』の仕事だろ?

 貴族区に引きこもるばかりの豚共が……」


 アルベルトはまだ何かを不満たっぷりに語っていたが、今のところ俺は眼前の肉に夢中でそんな話なんて右から左だった。

 美食漫画のキャラになったつもりで、肉を味わいながら噛む。

 当然のことながら口の中の肉はとんでもないレベルで不味く、吐き気まで覚えるような代物である。

 ……それでも俺は、一体どう不味いかを突き止めないと気が済まなくなっていた。

 そうして味わいながら咀嚼すること数度目で、俺はようやく不味い理由を思い当たる。


 ──そうか、何か足りないって……塩気か。


 その答えは、実に納得できるものだった。

 肉は同じでも……塩のあるなしで味は大きく異なってくる。

 しかし、こういう食堂でも塩が足りてないとなると……


 ──もしかして……この世界、塩は高級品なのかもしれないな。


 俺はこっそりテーブルの見えない場所をもぎ取ると、それをンディアナガルの権能を使って塩へと変化させ……肉に振りかけて食べる。

 これでまぁ……食べられないことはない、程度に落ち着いてくれた。

 ……しかし。


 ──幾ら黒機師として蟲を狩った利益があるにしても……塩を好き勝手使えるほど儲けていんるだろうか?


 ふと、そんな疑問が頭を過る。

 俺がこの手で塩へと化したリリの脚も……大半は『下』に置いてきた筈だから、彼女たちは塩を『上』で手に入れている筈だった。

 こんな酒場にも足りてないような、塩という食材を……大量に使っている?


 ──いや、俺たちはそれだけ稼いでいる、ってことか。


 我が家の貯蓄に少しだけ思いを馳せた俺は……そんな結論に至っていた。

 以前、蟲を狩った報奨金は機師としての給与より遥かに大きいと聞いた記憶がある。

 何のことはない。

 気付けばいつの間にか、億万長者になっていた、という訳だ。


 ──ま、金が幾らあってもなぁ。


 こっちじゃ幾ら金があろうと……和牛のステーキとか、ハンバーグとか、焼肉とかバーベキューとかジンギスカンとか、故郷の美味しい料理を喰える訳じゃないのだから。

 そんな感じで俺の思考が肉から離れ家計収入を経て貨幣と供給力の問題へ達している間にも、アルベルトと双子の話は続いていた。

 そして……


「もう。

 相変わらず蟲退治にしか興味ないんだから」


「最近横行してる『機師殺し』は他人事じゃないんですよ?

 もうちょっと真面目に頑張って下さい」


「……機師殺し?」


 不意に。

 義兄妹のやり取りに出て来たその聞き慣れない名前に、俺は無軌道な思考回路を修正し、意識を現実へと向け直したのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] どうせ満足したら帰る気でいるんだし 姫様の処女と、いつでもヤらせてもらう権利を貰うって事で組めないもんかねぇ まぁ何だかんだでダメになりそうだけどw
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