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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
弐 第四章 ~最強の「赤」~
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弐・第四章 第四話

 翌朝の食事の席は、はっきり言って針の筵以外の何物でもなかった。


「いやぁ、めでたいめでたい。

 これでリリも将来安泰ってもんだ」


 非常に都合よく勘違いしたらしきテテニスが、鼻歌混じりで酷く浮かれながら、豪華な食事を用意してくれやがったのだ。

 肉塊を焼いたヤツに火を通した野菜、パンらしきもの。

 今まで料理と言えば一品だけ……野菜炒めだけしか出てこなかった筈の食卓に、兎に角次から次へと並んで来る。

 勿論、巨島の上へと上がり、更に昨日、機師としての稼ぎを得たお蔭もあるんだろうが……


「なにかいいこと、あったの?」


「あったんだとおもうよ?」


 子供たちも何があったかは良く分かってないものの、それでも豪勢な食事を前に笑顔を絶やすこともなく。


 ──無茶苦茶、居心地悪いぞ、コレ。


 そんな中、俺とリリ……リリスは二人並んで座らされ、晒し者になっている最中だった。

 テテニスの視線はあからさまだったし……子供たちは子供たちで理解はしていないものの、俺と少女の間に何かがあったのを察しているらしく、俺たち二人へと好奇心一杯の視線を向けてくる始末である。

 しかも当の少女は何を勘違いされているのか知っているらしく……顔を真っ赤にして俯いたままで身じろぎ一つしやしない。


 ──いい加減、飯はまだかよっ!


 その非常に居心地の悪い食卓に、俺が内心で悲鳴を上げた、その時だった。

 突如、凄まじい音が食卓に響き渡る。

 驚いた俺が音の方向へと視線を向けると……食事の用意をしていたテテニスのヤツが、中身の入ってない皿を思いっ切りぶちまけていた。

 その騒音が響くのも今朝はもう三度目で……浮かれすぎにもほどがある。


「テテ、また~~?」


「きょう、ひどいよ~」


「いやぁ、悪い悪い。

 ちょっと手先が滑ってねぇ」


 そういう彼女の右手は、何故か包帯が巻かれていた。

 朝起きた時にはあったから、恐らくは昨日の客が「激しかった」のか。

 それとも、昨日の蟲との戦いで打ち付けたのか。

 ……まぁ、本人に尋ねたところ「大した怪我ではない」らしいので、そう気にすることもないんだが。


「あの、テテ」


「分かってる。分かってるって、リリ。

 今日の家事は任せて座っておきな」


 何かを言おうと意を決したらしきリリスが顔を上げるものの、テテニスの一言にあっさりと意気消沈させられ、口を噤んでしまっていた。

 ……まぁ、あの浮かれたテテニスの様子を見る限り、例え真実を伝えても聞く耳を持ってくれそうにはないんだが。


「……良いのか、アレを放っておいて」


「ええ。

 テテが喜ぶんですから、その……」


 その様子を見た俺は小声で隣の席の少女に尋ねるが、彼女の返事はそんな……何処か達観した笑みだった。

 その笑みを見た俺はそれ以上の追及を諦め、黙り込む。

 この誤解……昨晩同じ部屋で過ごした俺とリリスの二人が、デキてしまったという勘違いを解くのが面倒臭かったのだ。

 何よりも、男の見栄というヤツもある。

 いつまでも童貞扱いされるよりは、一人前の男であると思われた方がマシってなもんだ。

 それに……


 ──どうせ、極上の女とヤれば、立ち去る世界だしな。


 多少のしがらみや人間関係があろうと、そう気にすることもないだろう。

 そう決断した俺が、手元の食事を口に運ぼうとした、その時だった。


「~~~っ!」


「鐘の、音っ!」


 平和そのものだった食卓に、突如として鐘の音が響き渡っていた。

 それは……蟲の襲来を告げる合図。

 勿論、昨日働いたばかりだった俺たちは別に参加しなくても構わない。

 基本的に当番の人間以外は自由参加なのだ。

 ……だけど。


「……ガル」


「ああ、行こうか」


 テテニスの視線は、「行こう」と告げていたし、俺自身も断る理由などは欠片もない。

 何しろ、テテニスは機師になった今でも夜「客」を取るほどに、金へと執着を断ち切れていないようだし。

 俺は俺で稼げば稼ぐだけ、武威を見せつければ見せつけるだけ、出世する機会が増える。

 即ち……高貴なる美少女と出会う確率が増えるのだ。


 ──死ぬ心配もないし、な。


 そうして俺とテテニスの二人は食事も生半に家を飛び出していた。


「テテっ!

 ガルディア、さま。

 御無事でっ!」


 リリのそんな叫び声を背中に受けて、くすぐったさを感じつつ。

 俺たち二人は黒機師団の本部へと走り込んでいったのだった。




「よぉ。

 やっぱりお前たちも来たのか」


 機甲鎧へと乗り込んだ俺たちに話しかけた来たのは、俺たちと同じく黒い機甲鎧に乗り込んだゼルグムのおっさんだった。

 どうやらコイツも鐘の音を聞いて稼ぎに来たらしい。

 ……無駄に命を賭ける必要もないってのに、誰のためだか律儀なヤツである。

 俺が周囲に視線を向けると、おっさんの他にも五体ほどの黒い機甲鎧が、まっすぐ城門へと向かって動いている。


「当然っ。

 アタシたちは『上』で暮らし続けるんだ。

 ……どんな手を使ってでも稼がないとね」


 おっさんの声に答えたのはテテニスだった。

 彼女ももう慣れたのか、危なげない操縦で機甲鎧を操っている。

 その機甲鎧の腕には大盾と長槍が自然と握られていて……どうやら、たった一度の実戦を経験しただけで、武器の扱いには慣れたらしい。

 と、そのテテニスの様子を見て俺はふと武器が気に入らなかったことを思い出していた。


「そう言えば、おっさん。

 武器は盾と槍しかないのか?」


「……いや、その辺りに落ちているヤツなら、何を使っても構わないが。

 しかし、盾と槍以外を使おうとする粋がったヤツは、大抵すぐに命を……」


 おっさんの返事を聞いた俺は、次に続く忠告を無視して足元へと視線を移す。

 そうすると……砂に埋もれている武器がゴロゴロと見つかる見つかる。

 掘り起こして見てみると、三つ又の鉾に、巨大な剣、槍に手斧。


「おっと」


 そうしている内に、好みの武器を見つけた俺は、ソレを掘り起こす。

 長柄の先に分厚い刃が二つついた、長双斧である。

 勿論、ゴツいその武器は凄まじい重量で、持ち上げるだけでも一苦労しそうではあるが……

 俺の操る機甲鎧の腕は、まるで重量を感じていないかのようにその武器を持ち上げてみせた。


 ──何か今日の機甲鎧は、動きが良いな?


 その重量級の武装を、いつぞやの塩の砂漠で戦斧を手にした時のように軽々と持てたことに、俺は軽く首を傾げる。

 理由は分からないが、この機甲鎧は俺の身体にフィットしている感がある。

 ……機甲鎧との相性ってのは、こういうことなのだろうか?


「おいおい。

 ……ソレを軽く持つかよ。

 お前、一体どれだけ共鳴率高いんだ?」


「いや、今日の機甲鎧は、何か調子が良いんだよな。

 その辺りにあった、胸元に×印が付いたのを適当に選んだんだが」


 おっさんの声に俺が何気なくそう答えた、その時だった。

 まだ浮かれているのか、テテニスが操縦していた黒い機甲鎧が、少し盛り上がった砂に足を取られてひっくり返る。


「おい、テテ。

 何をやっているんだよ、お前」


「いや、そんなことより、ガル。

 ……あんた、その機甲鎧」


 慌てて駆け寄ったゼルグムのおっさんだったが、当のテテニスはそんなおっさんに視線を向けることもなく。

 俺を……いや、俺の乗った機甲鎧をまっすぐに見つめている。

 生憎と機甲鎧に乗っている彼女の表情は分からないが……聞こえて来るその声は、まるで信じられないモノを見たかのような、そんな声色だった。


「何だ?

 調子が良いんだよな、コレ。

 ……思った通りに動くと言うか」


「……そんなこと……」


 俺の何気ない答えに、彼女が何か口を開いた、その時だった。


「おい、貴様らっ!

 いつまで遊んでいやがるっ!」


 考えてみれば、俺たちは今、この巨島を襲いに来た蟲を対峙するために集まっているんだった。

 つまり、駄弁っている余裕なんて欠片もないという話である。

 慌てて俺たち三人は、手にそれぞれの武器を持ち、正門の前に並ぶ。


 ──青が二体、赤が二体か。


 それに俺たち黒機師が八体。

 つまり敵は前回と同じく三・四匹というところだろう。


「へっ。

 今回もひよっこが三人か。

 楽勝だな」


「しかも、あの斧。

 若いからって馬鹿が……早死にするぞ」


 相変わらずそんなことを口走っている馬鹿共を横目に眺めながら、俺は戦場を脳内で想像しつつも、双斧を強く握り絞めるように意識をする。

 手慣れた感のあるこの武器を使えば、今までとは比べ物にならないほどの戦果を上げられそうだった。

 ……それにしても。


 ──急がされた割には、正門に蟲が食らいついているような様子はないんだよな。

 

 城壁を超えようと暴れた様子もなく、城壁上の兵士たちが防御兵器を使っている様子もない。

 ただ全ての防衛を機甲鎧だけに任せているような、そしてまるで蟲がそれを待ち受けているかのような錯覚を感じてしまう。

 つまり俺たちは蟲へと提供されるただの餌で……


「んな、馬鹿なことはないか」


 脳内に浮かんだバカげた発想に、俺が首を振ったその時。

 眼前の正門が大きな音を立てながら、ゆっくりと開いて行ったのである。




 城門の向こう側に俺が見たのは、砂から顔を出す三つの蟲の頭だった。

 さっき考えた馬鹿な想像が真実であるかのように、そいつらはまるで餌をねだるかのように口を広げて待ち構えてやがる。

 そいつらを見た瞬間、朝起きてから延々と針の筵に座らされ、限界までストレスを感じていた俺は、格好の八つ当たり先を見つけたとばかりに一気に飛び出す。


「黒機師団、全員、縦列陣を敷き……」


 背後では誰かがそんなことを口走っていたが、それすらも気にならなかった。

 ただまっすぐ、俺の思うがままに黒い機甲鎧は砂を蹴り、蟲共へと走って行く。


「ちょ、ガル、またっ!」


「てめぇっ!

 命が惜しくないのかよっ!」


 ただ一人、縦列陣から飛び出した俺は、格好の餌だったのだろう。

 事実、背後からテテニスやおっさんの、俺の身を案じる叫びが聞こえて来る。

 ……だけど。

 

「くそっ!

 やっぱりかっ!」


 何故か今日もそんな俺を無視するかのように、蟲たちは俺の横を通り過ぎ……そのまま背後の機甲鎧へと向かって行く。

 どうやら蟲たちは、俺を敵とは見てくれないらしい。

 ……とは言え、それももう二度目。

 その蟲の挙動は予想の範囲内だった。


「喰らい、やがれぇえええええええええええっ!」


 俺の叫びに呼応するかのように、俺を乗せた機甲鎧は大きく腕を振るい、その両手に持っていた長柄の双斧を振り回す。

 長柄の遠心力と、斧二つ分の超重量によるその武器は、俺の機甲鎧の膂力そのままに、砂から顔を出していた蟲の首ら辺の、分厚い皮膚へと突き刺さり。

 ……あっさりとその肉質を突き破る。

 皮膚どころかその下の、肉質や血管を突き破り、身体の半分ほどを切り裂いたその一撃は、明らかに致命傷だった。

 たったのその一撃で、蟲はのたうち回りながら、血反吐と内臓だか喰いかけの何かか分からない物質をまき散らす。

 その体液が散らばった砂漠からは、砂が溶け始めたらしく真っ白な煙が立ち上り始める。

 ……そして。


「ちぃっ!

 やっぱ、こうなるかっ!」

 

 一撃で蟲の身体を半ば断ち切った俺の機甲鎧にも、当然のことながら蟲の体液の被害は及んでいた。

 酸の体液によって双斧は半分の刃が溶けて使い物にならず……それどころか体液が散ったのだろう、右腕の装甲も白い煙を上げている。


 ──だけど、武器はまだ使えるっ!

 ──右腕も、まだ動くっ!


 溶けかかった双斧、いや、今はただの長柄の斧となったその武器を持つ右腕を開いて閉じて……俺はその感触を確認すると……

 近くを走っていたもう一匹の蟲へとその斧を叩きつける。

 今度の蟲は、身体の殆どをまだ砂の中に沈めていたが、そんなことなど意に介す俺ではない。

 思いっきり叩きつけた所為で、斧の柄が見事にひん曲がっていたが、その一撃の効果は絶大だった。

 ズドンという凄まじい音が砂の中に響くと共に、俺は機甲鎧越しではあるものの、グシャリという肉質の何かが潰れた鈍い感触を感じていた。


 ──やったか?


 砂に埋もれて見えないものの、蟲が走っていた砂場はもうピクリとも動かず、砂の合間からは煙が上げり始めていた。

 蟲が暴れるような気配もなく……どうやら俺の放った斧は上手く急所を一撃で断ったらしい。


「……ったく。

 武器は使い捨てだな、こりゃ」

 

 俺は砂から引き揚げた双斧……いや、二つの刃が両方とも蟲の体液によって溶け去ってしまい、「かつては斧だったひしゃげた鉄の棒切れ」に成り下がった『ソレ』を眺めると、ため息と共にそう呟く。

 幾ら俺が強かろうと、蟲の体液によって武器があっさりと壊れてしまう以上、これ以上の戦果は挙げようがない。

 ついで、よほど強い力で叩きつけてしまったのか、酸にやられていた右手までもがへし折れている始末である。


「おい、蟲を一撃でっ?

 何なんだよ、アイツはっ!」


「知るかっ!

 あんなの、人間技じゃねぇっ!」


 何やら背後からは、称賛だか罵倒だか分からない悲鳴にも似た叫びが聞こえるが……まぁ、それも俺は聞き慣れている。

 ……とは言え、流石の俺でも武器が逝かれてしまった以上、これ以上の戦果は挙げようがない。


 ──いや、出来ないことはないんだけど。


 機甲鎧本体を駆り、素手でも戦えない……ことはない、と思う。

 だけど、幾ら酸の体液を浴びても皮膚一枚すら溶けない俺でも、あの凄まじい刺激臭をもう一度嗅ぎたいとは思えない。

 ……だからこそ、ここで俺の戦いはもう打ち止めだった。

 そう悟った俺は、へし折れた右腕と左手に残された柄の両方を砂漠へと放り捨てると、そのまま残った一匹の蟲から遠ざかる。

 そんな俺の挙動は敵前逃亡と言えないこともなかったが……残った一匹の蟲と戦っているらしき黒機師団たちは、誰一人として俺を咎めようとはしなかった。


 ──当然と言えば当然なんだけどな。


 三匹の成蟲に機甲鎧が十二機も投入されているのが、この巨島での戦闘である。

 つまり、四機で一匹を倒せばそれで問題ない計算だ。

 そんな中、たったの一刃で蟲一匹を屠るような俺が紛れ込んでいるのだから、その場の誰だろうと文句をつけられる筈もない。


 ──ま、後はお手並み拝見と行くか。


 そうして俺は機甲鎧を操って砂地に座らせ、テテニスやゼルグムたちの戦いを観戦し始める。

 相変わらず戦いは黒機師団が大盾と槍で前衛を務め、その合間を縫って青い機甲鎧が機動力を武器に襲い掛かり、後ろに控えた赤の連中は相手に痛打を与える隙を窺う。

 こうして遠目で見る限りでは、二機の青い機甲鎧の動きがなかなか凄まじく、砂の上をまるで飛ぶように走り回り、次々と蟲に対して小さな刺突を加えていく。


 ──こりゃ、勝負あった、な。


 そんな機師たちの通常戦術により、蟲は動きを封じ込められ、機師たちは大きな危険を冒すことなく順調に敵を弱らせていた。

 ……その時だった。


「ん?」


 優位に立ったところで気が緩んだのだろう。

 足を砂に取られ、僅かに体勢が傾いだ一機の黒い機甲鎧に、蟲が喰いつかれたのだ。

 そのぎこちない動きをしていた機体は、確か……


「テテっ!

 おいっ!」


「ちぃぃぃぃいいっ!

 何をやってるんだ、あのバカっ!」


 ゼルグムのおっさんの悲鳴を聞いて、俺はその機甲鎧がテテニスの操るものだと気付き、慌てて機甲鎧を駆る。

 こうなったら臭いだのダルいだの言ってられない。

 左手一本だろうと……いや、生身の拳でもンディアナガルの爪を使ってでもテテニスを助け出そうと、覚悟を決める。

 ……だけど。

 眼前では、信じられないことが起こっていた。


「死んで、たまる、かぁあああああああああああっ!」


 蟲に食らいつかれた筈のテテニスの機は、砂の中に引きずり込まれるどころか、ただ膂力のみをもって蟲の顎をこじ開けたばかりか、蟲の突進をその場に食い止めたのだ。


「……あり得、ねぇぞ、おい」


 ゼルグムのおっさんの呟きに嘘はない。

 巨島へと上がる時と、前回の戦いで俺が見た限りでは……あのサイズの蟲に食らいつかれた黒い機甲鎧は、そのままろくな抵抗も出来ずに砂の中へと引きずり込まれる運命だった。

 ……基本的に機甲鎧は蟲よりも弱い。

 三匹の蟲を相手に十三機の機甲鎧を用意しているのもそのためだ。

 その常識を今、テテニスはあっさりと覆していたのだ。


「何なんだよ、コイツもっ?」


「知るかっ!

 今がチャンスだ、行けっ!」


 その光景に、機師たちは困惑しつつも……機甲鎧一機によって蟲が食い止められていることに違いはない。

 黒、青、赤の区別なく、テテニスが抑え込んでいる蟲へと一斉に襲い掛かり……


 ──チマチマと、まぁ。


 前回の戦いを見て分かったことだが……基本的に、機甲鎧には蟲を一撃で殺すだけの戦闘力はないらしい。

 例外として赤い機甲鎧の持つ剣が、あの分厚い皮膚を易々と断ち切ることが出来るのだが……今回の赤い連中は、前に見た連中とは違い、どうやらあまり腕が良くない奴らが集まっているようだった。

 ……だから、だろう。


「えげつねぇなぁ、おい」


 黒い機甲鎧が槍をチクチクと突く。

 青い機甲鎧が槍をチマチマと刺す。

 そして赤い機甲鎧が剣で皮膚を少し深く抉る。

 突く刺す抉るのサイクルによって、蟲の体表は百を超える穴が開き、数十を超える切り口が出来ていた。

 しかし、それらはトドメにならない。

 彼らの操る機甲鎧では、内臓や神経系を断ち切るほどの痛打を持ち合わせていないのだ。

 だからこそ……この惨劇が生まれていた。

 胴体が砂に埋もれたままの蟲は、口をテテニスによって食い止められている以上、逃げ場がない。

 だと言うのに……身体を次々に切り刻まれていくのだ。

 ……もはや、それは中国大陸にあったらしき、凌遅刑という名の残虐なショーに過ぎなかった。

 もしくは、弱って死にかけたミミズに群がる蟻の群れか。

 切り、刺し、刻み、突き、刺し、抉る。

 蟲に傷を負わせる度に、機甲鎧の武器は酸により切れ味を落とす。

 だけど、それでも機師たちは攻撃を止めず、鈍器にも等しくなったその武器で蟲の傷跡を更に抉る。

 そのエゲつない繰り返しに頭と胴体を固定された蟲はもがき苦しむが、テテニスの黒い機甲鎧は俺に匹敵する膂力を有しているのか、暴れ回る蟲の口を離さない。

 それが延々と延々と……凡そ十数分に渡って続けられ……


 ようやく、蟲は力尽きたかのように、大地に伏して動かなくなったのだった。


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