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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
陸 第三章 ~天と地を喰らう化け物~
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陸・第三章 第四話


「ちっ、またか。

 ……鬱陶しいっ」


 新たな世界へと降り立とうとした瞬間、相変わらず俺を阻むようなバリアのような感覚があったものの……一度突き破ったことのあるその壁を突き破るのはさほど苦でもなく、俺は特に権能を意識することもなく、ただ「邪魔をするな」という意思だけでそのバリアを突き破ると、未踏の大地へと降り立つ。


 ──相変わらず、異世界だな。


 新たな世界の大地へと降り立った俺は、いつもの癖で周りを見渡したのだが……周囲はサボテンのような奇妙な植物が塔のように立ち並ぶ、現代日本生まれの俺ではあまり目にしたことのない、文字通り「異世界」としか呼べないような奇妙な光景だった。

 ……だけど。


「な、んっ?」


 そんな見慣れない景色を俺が認識したまさにその瞬間に……「ソレ」が始まったのだ。

 ぺきぺきという海水が一気に凍結していくような音……いつぞやに何かのテレビ番組で見た覚えのある、そんな音が四方八方から響いてきたかと思うと、周囲の大地が、サボテンが徐々に徐々に塩の結晶へと化していくのが見える。


 ──何、がっ?

 ──この世界に、何が起こって……


 驚く俺とは裏腹に、その結晶化現象は周囲に凄まじい速度で広がっていき……それはサボテンや大地だけに留まらない。

 足元で俺の存在に声も出ないほど驚いていた、何やら斧らしきものを持ったアメリカの原住民みたいなバンダナをまいて、それを鳥の羽根で飾り付けている、くるぶしくらいのサイズの小さなおっさんや近くにいた小さな青年、少し遠くで円錐型のテント周辺で暮らしていたと思われる、これも小さなサイズの女子供や老人までもが一切の区別なく、次から次へと塩の結晶へと化していくのである。

 人が塩と化していく怪奇現象を目の当たりにした周囲の小人たちも慌てて逃げようはしたものの、結晶化の波が伝わる速度は人の足で逃げ切れるほど遅い筈もなく……そんな彼らの努力は当たり前のように全くの無駄となり、その小人たちは俺に背を向けたまま小さな塩の人形と化すだけだった。


「……あ~」


 俺と存在を重ね合わせる破壊と殺戮の神ンディアナガルの持つ『天啓』の権能が、この現象は存在力を増した俺に「世界の方が耐え切れない」所為で、世界そのものが崩壊を起こしているのだと教えてくれる。

 尤も……教えてくれたところで、何かが出来る訳もないのだが。


「存在が大きすぎるって、どうしろってんだよ」


 勿論、俺の目的が新世界の創造である以上、この世界の人間も生き物も、破壊の神も創造神も……いや、この世界そのものさえも、俺が破壊し殺戮するつもりだったのは事実である。

 その上、俺が数多の世界で最強の存在となっている以上、俺を止められるヤツなど存在せず……つまりがこの世界が俺の手で滅んでいたのは必ず訪れていた未来だった。

 だから、コレも一つ前の鋼鉄の世界のように「手間が省けた」と思うのが、破壊と殺戮の神としては正解なのだろう。

 

 ──けど、なぁ。


 破壊と殺戮の神としての矜持……などというモノは持ち合わせていないから、今まで数多の世界で戦い抜いてきた人間としての感覚なのかもしれないが。

 やっぱり人が死ぬのは、必死に戦って戦って戦い抜いて、その上で力尽きて死んで行って欲しいものだ。

 こうして天災や爆弾に焼き尽くされるような、有象無象としてゴミを処理するかように死んでいく様を見せつけられるってのは、どうもこう……『面白くない』。


 ──贅沢、なんだろうなぁ。


 そうして急速に塩の結晶と化していく世界を、俺がのんびりと眺めていると……塩の結晶と化した大地の中から、何かが飛び出してきて俺の身体へと角を突き立ててくる。


「何なんだ、貴様ぁあああっ!

 我と神との戦いに水を差しやがってぇえええええっ!」


 完全に油断していた俺は、その攻撃を避けるどころか、反応すらも出来なかった。

 その存在の頭のど真ん中から突き出している角を、腹のど真ん中へと突き立てられた俺は……それでも角は俺の皮膚一枚すら貫けず、ついでに言うと、当たり前のように俺は痛みすら覚えない。


「何故……貫け、ない?

 この、大地を貫く、ンピュアリセゥズの角が……」


 地中から出てきたソレは、一言で言うならば不気味な牛とモグラを混ぜたような生き物、だった。

 ただし、牛の形をしている頭に生えている角はねじ曲がった一つのみで、顔に眼球はなく、牙は肉食獣のソレで……モグラのような身体に体毛は一本も生えておらず、代わりに無数の眼球があちこちにあるソレを、牛とモグラが混ざったと表現すれば、だが。

 尤も……


「あ~、びっくりさせるなよ」


 不意を打たれた驚きから立ち直った俺が左腕を振るって軽く薙ぐだけで、その不気味な生き物は頭から身体の半ばまでを肉塊へと変え、塩の結晶と化しながら辺り一面へと散らばっていった訳だが。

 

 ──弱っ。

 ──どういうヤツだったんだ、アレ?


 あまりにも呆気ないンピュアリセゥズとか名乗った破壊の神のその最期に、俺は呆然とそう呟くものの……まぁ、どうでも良いだろう。

 あの程度の雑魚の権能を奪ったところで、どうせ使う機会などありはしないのだから。

 そうしてモグラ擬きが完全に塩の塊へと化した時のことだった。


「……っ?」


 俺が立っていた大地がついに完全に塩へと化して俺の自重に耐えられなくなったのか、それともさっきの化け物が突撃に使った穴が地盤に致命的な損傷をもたらしたのか……突如として俺の足元の大地が崩落し、俺の身体は自由落下によって地下へと叩き付けられる。

 勿論、この程度の……数百メートル程度の自由落下程度で俺がダメージを喰らう訳もないのだが。

 そうして降り立ったところは、一言でいうならば地下神殿、だった。

 サボテンの根っこが乱立する柱のように並び立つ様相が、某東京地下にあるとかいう貯水漕のようだと思うのは、やはり俺の出身があの現代日本だから、だろう。

 そんな神殿には、あちこちにドリルで削られたような穴やら傷やらがあり……もしかしたらこの場所で、さっきのンピュアリセゥズとかって破壊の神と、眼前で気配をまき散らしている創造神がこの世界の命運を賭けた戦いを、人知れず繰り広げていたのかもしれない。

 その気配の素……ローブで全身を包んだ性別も顔も名前も知らない創造神は、神殿のど真ん中で頭を抱えて何やら叫んでいた。


「うわぁあああああああああああああ、滅んだ、死んだぁああ。

 あの化け物がっ、私を殺しにやってくるんだぁああああああ。

 何もかもっ、滅んでしまうぅぁああああああああああっ!」


 それは、嘆きの叫びだった。

 この神にとってこの世界が適当にいじった盆栽だったのか、やりこんだゲームだったのか、神としての全てだったのか……それを俺が知る術はない。

 だけど、こうして嘆くくらいなのだから少しばかりの愛着はあったのだろう。

 尤も、眼前の創造神がこの世界に対してどんな感情を抱いていようとも、如何に見苦しかろうとも情が移ろうとも何かしらの世界を維持すべき理由があろうとも、俺がやることは一つのみであり……見逃すとか許すなんて選択肢なんか、数多の世界を滅ぼしてきた今となっては存在する筈もない。


「安心しろ。

 ……新たな世界では、お前も創り直してやる」

 

 その嘆き続ける創造神を見た所為か、理由もなく湧き上がってきた罪悪感に耐えられなくなった俺は、そう呟くと……『爪』を神に向けて振り下す。

 ただのその一撃で全ては決し……創造神という要を失った世界は、二柱の神を喰らいますます増大した俺の存在に耐えられなくなったらしい。


「……あ」


 次の瞬間に、シャボン玉が弾けるかのようにそのサボテンの世界は弾け、俺の周囲には何もない虚空ばかりが広がることとなっていた。


「さて……と。

 後はゴミを多少始末するだけ、か」


 これで創造神ラーディヌゥクオルン=ヴァルサッカラーヴェウスという、全知全能を自称するアホな爺さんが無理矢理捻じ曲げた世界は全て砕き終えた。

 だけど、それが全てではない。

 あのアホ爺は創造神の力によって世界を歪めた所為で破壊の神が現れることに気付いて新世界の創造を取り止めたのは良いが、それまでにこれから新たな世界を創ろうとして途中で創造を放棄した世界の創りかけ……言わば「創造神の力の残りカス」みたいなものはまだこの太陽系周辺に幾つも散らばっている。


「尤も、それもコレで終わりだけどな」


 それらを壊すのに『爪』を使ってあちこち跳ぶのも面倒に感じた俺は、その場で『紅石ランウェリーゼラルミア』の権能を展開し、少し大き目のライフルを具現化させる。

 理由は分からないものの、前は身体の前面に「巨大な砲身を創り出して」放たなければならなかった『主砲』が、今はこんなに「小さなライフル程度の砲身」で撃ち出せると、ンディアナガルの『天啓』が教えてくれている。

 ならば……一々飛び回るよりも、楽な方を選ぶのが人情というヤツだろう。


「さぁて、狙い撃つぜっと」

 

 どこかのアニメっぽく俺はそう呟きつつも引き鉄を引き、ンディアナガルの『主砲』をその場から発射する。

 狙いはかなり適当なのだが……ンディアナガルの『天啓』がその辺りは補正してくれるらしく、発射して数秒後に何かを撃ち抜いたような手応えっぽい確信があった。


「さて、次、次、次はっと」


 そうして父神とか言われたあの髭爺の残滓を砕くために『主砲』を発射すること七度ほど……まるで小学校時代、ゴムホースの先を指で塞いで水の勢いを増し、その水流でゴミを洗い流した時のように、俺の放った『主砲』は容易くそれら髭爺の残滓を消し飛ばす。

 その残滓世界に人が住んでいたのかどうか、管理者としての創造神や破壊の神がいたのかすら分からないまま、俺はただそれらをゴミのようにかき消していた。


 ──ま、誰かが住んでいたとしても……

 ──ろくな生活をしてなかっただろう。

 ──消し飛ばしてやるのが慈悲ってもんだ。


 食い物もなく、飲み水にも困り、滅びに瀕したまま同族から奪って何とかその日を過ごす……そんな生き方、俺には耐えられないし……その世界に暮らしている誰かからしてもそんな惨めな生き方なんて、人である以上耐えがたいだろう。

 だからこそ、俺はこうして……数多の世界を旅し、数え切れない人間を殺し尽くして人々の過酷な生に慈悲深く終わりを与えてやったのだ。

 そして……その作業もこれで終わりを告げた。

 

 ──さて、と。


 太陽系周辺に残っていた創造神ラーディヌゥクオルン=ヴァルサッカラーヴェウスの置き土産を全て掃除し終えた俺は、『爪』を使って空間を跳び、俺の故郷でもある地球に降り立つ。

 そこはもう何もなくなった滅びの星でしかないが……こうして創造神の力が偏っている所為で歪んでいた状態を解消した今となれば、新世界の根源にもなるのだ。


「さぁ、新たな天地創造の始まりだ」


 俺はそう告げると、創造神の力をもって『天沼矛』を創り出し……新たな世界を創り始めようと、ソレを大地へと突き立てたのだった。



2019/10/30 22:16投稿時


総合評価 2,158pt

評価者数:94人

ブックマーク登録:628件

文章評価

平均:4.8pt 合計:452pt


ストーリー評価

平均:4.8pt 合計:450pt


2019/11/03 23:10追記。

素でポイント間違えてました。

コレ、別作品である剣の道、屍山血河【旧題JD→SM】の分でした。

ちなみにURLはこちら↓↓↓(せっかくなので宣伝)

https://ncode.syosetu.com/n5388ef/

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