第五章 第四話
……と言ってもそう難しい話じゃない。
べリア族の本拠地の周囲には、あの城を維持するための農村が幾つかあり、それを襲うことで一〇日分ほどの水と食糧を調達しつつ……
「うわぁあああああああああああああ」
「誰か~っ!
誰か~っ!
誰か~~っっっ!」
「ほら、逃げろ逃げろ!」
「おらぁ、犯すぞ!
ぶっ殺すぞ!」
こうして殺せるハズの村人をわざと一〇数名ほど取り逃がしこの城壁へと追い詰めると、義憤に駆られた城壁内の兵士たちが飛び出て来くるだろう。
そうして城門が開いたところで内部に侵入しようとする作戦である。
多分、昔読んだことのある漫画で見た作戦だと思う。
──だけど。
べリア族の連中は、俺の策を読み切っていたらしい。
「ぎゃあああああああああ!」
「入れてくれぇえ!
助けてくれぇ~~!」
「何故だぁああああああああああ?」
──あいつらは、サーズ族の戦士たちが矢の射程内に入った瞬間、仲間ごと矢を射かけてきやがったのだ!
当たり前だが逃げるだけで精一杯だったべリア族の難民たちにそれを防ぐ術はない。
無力な彼らは同族にあっさりと射抜かれ、この世の終わりを思わせる悲鳴を上げ、塩の大地を真っ赤に染めながら斃れていく。
「……おいぃいいいっ?
なんだそりゃぁぁぁぁああああ?」
そのあまりにも無茶苦茶な行為に俺は思わず叫んでいた。
そして当たり前のことながら、矢が狙っていたのはべリア族の難民だけでない。
──射程内に入っていた俺らサーズ族の戦士たちにも、矢は平等に降り注いでくる!
矢が一斉に降り注いでくる中、俺は自分の見ている光景が信じられずに呆然とただ突っ立っていただけだった。
──だって、普通は考えないだろう?
──自分たちの同胞を敵ごと射抜く、なんて。
そんな俺に向けて数百の矢が突き刺さるが、そんな攻撃、無敵モードの俺には何の痛痒にも感じない。
梅雨時期に雨に打たれて鬱陶しい、程度である。
「退け!
退けぇええええっ!」
「撤退だっ!
撤退っっ!」
矢が降り注ぐ中、呆然としている俺に代わり、バベルとロトが撤退の号令を放つ。
その合図を受けてサーズ族は何の躊躇もなく撤退を開始する。
……いや、実際のところ、あの凄まじい城壁を見上げた時点で、サーズ族の兵士たち全員が及び腰になっていたらしい。
とは言え、彼らサーズ族を臆病と嘲ることは出来ないだろう。
彼らが臆病だったお蔭で、思ったよりも遥かに早い撤退が可能となり……俺たちは全滅を免れたのだから。