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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
伍・第五章 ~ふたたび、ちかへ~
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伍・第五章 第二話



「……ぁ?」


 左右から発せられたその声に振り向いた俺の口から出たのは、そんな怪訝な声だった。

 何しろ、俺が振り返った先には、最大限の敬意を俺に払っているらしく、地べたに這いつくばった小柄な人影が二つ、左右に並んでいて……その顔や表情は俺の目から窺うことは出来ない。

 そんな顔も分からない相手から「お久しぶりに御座います」なんて言葉をかけられ、理由も分からないままに最大限の敬意を向けられた俺が首を傾げるのも無理はないだろう。

 生憎とこれほどの……十代前半くらいの少女らしき小柄な人物とこの世界で顔を合わせた記憶なんて俺にはなく、恐らくは人違いをしているのだとは思われるのだが……


 ──それはそうとして……


 周囲の状況で一つだけ腑に落ちない部分があった俺は、もう一度視線を眼下の……俺たちが立っているバルコニーから下へと移す。

 そこには、この場所へと通路を作ってくれた、さっき創り出したばかりの巨大な蟲が傷だらけになって息絶えている。

 そして、周囲には凄まじい数の死体……恐らくは教団とか呼ばれていた連中の死体らしきものが散らばっていた。

 あちこちに散らばるそれらの死体はどう見ても蟲に潰され、食い散らかされた残骸でしかなく……それぞれの胴体の近くには確かに武器らしきものが落ちているものの、その武器が上手く使われたような形跡は見られない。

 どちらかと言うと、武器を持ちつつも一方的に蹂躙された惨状としか見えなかった。

 

 ──そうすると、あの蟲を殺したのは誰だ?


 俺としてはあの蟲という生き物は便利であってもあまり気持ちの良いものではなく、正直に言うとあまり好きではないのだが……それでも創造の対価として爪の先を使ったのだから、爪切りで切った後の爪の残骸程度の愛着はある。

 そんな個人的な感情を除いたとしても……あの蟲は今の俺が爪の先数ミリを対価とし、権能を込めて創り上げた蟲である。

 これは想像でしかないものの、あの蟲一匹で砂の世界一つ……とまでは言わないものの、黒の機師団くらいなら滅ぼせるほどの戦闘力があった筈なのだ。

 だから、教団とかいう連中が少しばかり良い装備をしていたとしても、あの蟲がそうそう負けるとは思えないのだが……現実として、ああして傷だらけで息絶えた蟲が転がっている以上、アレを誰かが殺したということになる。

 そんな疑問を持ちながら蟲の死骸へと視線を向けていた俺の内心を察したのだろうか。

 俺の左右で這いつくばっている二人が、不意に口を開く。


「ああ、その眷属は我々が討ちました、我らが神よ」


「同胞を討った我らをお許しください。

 しかしながら、このような雑魚に討たれるような無様な最期など、我らは望んでいないのです、絶対にして偉大なる神よ」


 二人の少女……這いつくばって顔を上げようともしないため、二人の表情や容姿は窺えないものの、少女らしきその小柄な人影の二人は、俺に向けてそう言い放つ。


 ──なるほど。

 ──道理で……


 左右から発された言葉を聞いてその二人へと視線を向けた俺は、彼女たちの言葉に嘘がないことを何処となく納得していた。

 数多の死闘を戦い抜いてきたお蔭か、それとも別の要因か……何故か俺にはこの二人の戦闘力が非常に高いことが分かったのだ。

 今一つ当たらない俺の勘でしかないが、この二人はさっき砂の世界で滅ぼし尽くした、あの黒い機甲鎧とも良い勝負をしかねないほど凄まじい存在だと感じられる。


 ──そういう、ことか。


 それらの情報を元に、俺は一つの推論を導き出す。

 恐らくさっきから這いつくばっている二人は、この世界を氷に閉ざした張本人……ンデアナグアとやらの眷属なのだろう。

 そして世界を滅ぼした神は、眷属を放って何処かへと行ってしまった。

 力尽きて死んだのか、何か思うことがあって何処かへ旅立ったのか……もしくは蟻の巣の中で暮らしているかもしれないし、超能力者を偽ってのうのうと暮らしているのかもしれないが。

 兎に角、この教団連中からとっとと逃れたのだろう。


 ──そこに、俺が現れた。


 破壊と殺戮の神ンディアナガルの化身であるこの俺は、世界を破壊する側だったンデアナグアとやらと非常に良く似た気配を持っているのだと思われる。

 事実、あの砂の世界で蟲皇ンガルドゥームも俺と同じように緋鉱石のない機甲鎧を動かしていたとか言っていたし、腐泥の世界では腐神ンヴェルトゥーサが眷属を使って身体を補てんする荒業を見せ……俺もそれを真似することが出来た。

 そこから察するに、世界を破壊する側の神同士は何らかの共通点があり、性質が非常に似通っていて……だからこそこの二人は、俺をそのンデアナグアとやらと勘違いしているのだろう。


 ──姿形が似ているのか。

 ──それとも、コイツらもその馬鹿の姿を見たことがなかったのか。


 もしくは姿形に拘る意味がない……自分の容姿を完全に変えることのできる、液体金属みたいなヤツだったのかもしれない。

 まぁ、そのンデアナグアってのがどんなヤツだったのかなんて今はどうでも良いのだが……そんな物騒なヤツと俺を勘違いして貰っては困る。

 そう言いだそうと口を開く俺だったが……


「さぁ、死と滅びの神よ。

 我らに救いを……」


「我らに下されなかった、三十年前のあの日の続きを……

 その手での救いを……死と滅びを、今日こそどうか……」


 体型も年齢も声の質も非常に似通った……恐らくは姉妹だろうその二人は、顔を上げることもなく這いつくばったまま、そんなことを俺に懇願し始める。

 その全く理解出来ない懇願に、俺としてはただ戸惑うばかりだった。


 ──救い?

 ──自ら滅びを求める、と言うのか?


 ……そう。

 俺にとっては、死と滅びというのは最悪最低の結末であり、出来るだけ避けるべき代物である。

 だからこそ死にたくないと思う俺は、迫りくる敵に必死に抗い、数多の戦場を駆け抜けて、今こうして生きていられるのだから。

 だけど、彼女たちは死と滅びを求めるという。

 その欠片も共感出来ない二人の望みに、俺は戸惑いを隠せず……そんな俺の姿をどう思ったのか、二人の少女らしき人物は希うように俺に言葉を紡いでみせる。


「どうか、御慈悲を我らが神よ。

 我らは貴方様のために……貴方様の力の求めに応じ、この三十年で数百万の信徒を、数千万の敵を、数億の民草を生贄へと捧げました」


「この世界を支配していると勘違いしていた愚かな文明へと滅びの種を植え付け、人々が相争うように誘導を仕掛けました。

 事実、連中は国同士で疑心暗鬼に陥り、お互いに殺し合い始めたのです。

 そのような策を弄しても、貴方様の御力には程遠い成果でしたが……」


 二人の言葉は、この世界を如何にして滅ぼしたかという……殺人事件のドラマで言えば、終わり10分くらいになったころの自供にも似た代物だった。

 その凄惨極まりない発言は、この氷に閉ざされた世界が如何に滅びたのかを語る、実に物騒極まりない内容で……


 ──地球でも同じ手、通用するかもなぁ。


 二人の少女が語ったその内容を聞いて、俺は何となくそんな仮定を脳裏に浮かべていた。

 事実、地球の文明は核兵器の登場により破壊力ばかりが突出した形となっている。

 もし蟲を使って人間を操り、国同士を……中に住む人々を疑心暗鬼に陥らせ、核兵器を使用する世論へと導けたのなら……この氷に閉ざされた世界と同じように、俺の住んでいたあの地球も核兵器によって滅びを迎えていただろう。


 ──そういう意味では、幸運なのかもな。


 数週間前……あの浮島世界で戦いの日々を送る前の、現代日本でのんびりと風呂に入りご馳走を腹いっぱい食べ、ジュースを浴びるように飲んだ記憶を引っ張り出し、俺はそう独りごちる。

 世界を滅ぼせるほどの核兵器を先進国が持っているにもかかわらず、疑心暗鬼になりつつもそれを使用することなく、にらみ合いの中、飽食と平和を享受できたあの日々。

 今にして思えば、いつこの世界のように核兵器の応酬が繰り返されて放射能の灰が降り注ぎ、人々が暮らしてさえいけない世界に成り下がってもおかしくないあの地球で、飽食と平和を満喫出来ていたこと自体が不思議に思えてくるのだ。

 それを幸運と考えたとしても、何の不思議があるのだろう。


「その結果、貴方様のお力と眷属、そして我らの微力の甲斐もあり、世界はこうして滅びに瀕し……六十億はいた筈の貴方様の生贄も、もはや万を切りっていることでしょう」


「事実、残りは鉄くずに護られた連中と、あの忌々しい突然変異(ミュー)共に護られる棺桶の連中ばかりとなっております。

 我らとしても、あのミュー共を減らすべく攻撃を仕掛けておりましたが、何分、敵の護りは固く……」


 伏したままの二人の言葉を聞くともなしに聞きながら、俺は静かに考えを巡らせる。


 ──この世界も、六十億くらいの人口があったのか。


 詳しい数字は覚えていないものの、地球の人口もそれくらいだった記憶がある。

 そして、地球とほぼ同数の人口を誇り、地球よりも進んだ科学技術を有するこの世界は、だけど彼女たちの手によって滅びを迎えたようだった。

 彼女たちの語り口から察するに、教団とかいう連中を率いていたのは、どうやらこの二人だと推測できる。


 ──要するに、コイツらがこの世界を滅ぼした元凶、か。


 いや、正確にはこの世界の破壊神……全ての元凶であるンデアナグアとかってヤツが何処かに隠れ住んでいるのだが、今のところは出てきていないのだから今は放っておくとして。

 取りあえず、この二人をどうするかを考えるのが先決だろう。


「……戦闘になると、厄介だな」


 子供のような体格とは言え、蟲をあっさりと屠る戦闘力を持つ相手だ。

 この惨状を見る限り、教団という手駒はいなくなったとは言え……油断したまま無傷で勝てる相手とは思えない。

 勿論、本気を出せば一瞬でカタはつくのだろうが、破壊と殺戮の神ンディアナガルの化身である俺が本気を出せば、この地下世界全てが崩壊しかねない。

 そして、さっき戦ったあの黒機師じゃあるまいし、幾ら攻撃を受けても怪我をすることなどあり得ないだろうが……それでも赤熱化したサーベルで刺されても銃弾を喰らっても熱いし、そもそも戦うなんて面倒なことなんざ、俺は積極的にしたいとは思わないのだ。


「……どう、なさいました?」


「……何か、御気に障りましたか?」


 そんなことを考え込んでいた所為だろうか、二人の眷属は窺うような声で恐る恐る俺にそう問いかけてくる。

 未だ顔を上げないところを見ると、彼女たちにとって俺は直視することすらも恐れ多い最上位者であり……そして彼女たちが求めているのは俺の手による『死』なのだろう。


 ──だったら、話は簡単だ。

 ──上手く、コイツらの神を演じてやれば良いだけなんだし。


 ……そう。

 この氷に閉ざされた世界を滅ぼした連中なんざ、生かしていける筈がない。

 むしろ、アリサたちと敵対し、一方的に彼女たちを狩っていた教団のボスでもあるのだから、ここで俺がコイツらを殺すのは当然と言える。

 そして、相手が殺してくれと言っているのだから、その望みを叶える形で殺してやれば良い。

 そんな結論を下した俺は、破壊と殺戮の神を意識しながら……静かに権能を左手に集中させ始める。


「……良くやった。

 貴様らの望み通り、褒美を取らせてやろう」


 上から目線で滅びの神を意識しながら告げたその言葉は、幸いにして彼女たちが違和感を覚えるほど変なモノではなかったらしい。

 未だに顔を上げることなく伏したままの彼女たちに俺は安堵しつつも、異形と化したままの左手に権能を集中させる。

 塩の塊によって形成された鱗で覆われたその左手に生えてある、万色にして無色の爪が俺の意思に従うかのようにゆっくりと伸びていき……


「……さぁ、何か言い残す言葉はあるか?」


 だけど、少女に見える……生憎と彼女たちの言葉を聞く限り、三十歳を遥かに超えている若作りのおばさんでしかないが、それでも小柄な彼女たちを一方的に騙して殺すのは、数多の戦場を駆け抜け凄まじい数の命を奪ってきた俺でも流石に気が引けた。

 だから、そんな一言をつい零してしまったのだが……


「ならば、せめて最期に……」


「最期にそのお姿を、もう一度この目で……」


 その一言の代償は高くついた。

 俺が制止する暇もなく、伏したままだった小柄な人影はその顔を上げ始め……


 ──ヤバいっ!


 流石にンデアナグア本体と顔を合わせたことのあるこの二人の眷属相手に、顔を突き合わせた状態で別人詐欺が通じる筈もない。

 そう慌てる俺だったが……


「ああ、あああああああ……」


「我らが、神よ。

 死と滅びの、救いの主よ……」


 顔を上げた彼女たちはそう告げて涙していて、俺を別人であると認識することはなく……運が良かったのか、別人詐欺計画が潰える心配はなくなった。

 ……だけど。


 ──この、二人?


 二人と顔を合わせた俺は……何というか、酷い不快感に襲われ始めていた。

 老化が止まっているのか、三十歳を遥かに超えている筈の彼女たちは十歳くらいにしか見えず……

 俺は少女をまたこの手にかけなければならない、その不快感に顔を顰める。


 ──いや、違う。


 この胸の奥から湧き上がってくる不快感は、もっと根源的な……あの砂漠で黒機師と顔を突き合わせた時のような、本能的な何かである。

 だけど、それだけじゃない。

 二人の顔を見た瞬間、理由も分からない既視感と……そして、身体の奥底から言い知れぬ不安感が湧き上がってきたのだ。


 ──こいつら、何処か、で?


 正直に言うと、二人の顔に覚えなんてない。

 ……いや、こんな氷に閉ざされた世界の子供と顔を合わせた記憶なんて、ある筈がない。

 だけど、俺の記憶は何故か、見覚えがない筈の二人をどこかで見たことがあるような気がし始めているのだ。


「……ぅ」


 その不安感に引っ張られるように、俺は記憶を辿る。

 だが、今まで顔を合わせた連中の中で、こんな少女なんて……


 ──そう言えば、どっかの事務所で、こんな双子を……

 ──あれ?


 そうして記憶を辿って行った俺が、何となく一つの回答へとたどり着こうとした。

 ……その瞬間だった。


「……ぁぺ」


 気付けば俺の左手が上がり……その無色にして万色に輝く小刀ほどにも伸びた四本の爪が、眼前で這いつくばったままの、片方の少女のその頭蓋を抉っていたのだ。

 頭蓋を砕かれた少女は、声にもならないそんな息を吐き出したかと思うと、伏したままびくんと跳ね……そのまま塩の塊へとその姿を変えていく。


 ──何が、起こった?


 俺は記憶を辿ろうとしていて、この少女を殺そうとは思っていなかった筈だ。

 だが、俺の左腕は本体の意思に反し、無慈悲にも少女の頭蓋を爪で抉り、その命を断った。

 それどころか……


「は、ははっ、ははははははっ!」


 俺の右足は眼前に転がる不愉快の元凶を視界から消すべく、その人の形をした塩の塊を蹴り砕き……ただの舞い散る塩の結晶へと変える。

 そうして二人の少女の片方が眼前から消えたのを確認した俺の口は、不安感から解放されて心が軽くなった所為か、自然と笑い声を上げていた。

 そうしてひとしきり笑い終えた時……俺は、自分の中にあった不安や不快感が完全に消え去っていることに気付く。


 ──ああ、何だ……

 ──俺は、この不安を消したかったのか。

 

 俺の身体は、別に勝手に動いた訳じゃない。

 ただ、半ば無意識の内にあの二人の少女を見て、不愉快な「何か」を理解するのを恐れ……目の前から消し去ったのだ。

 誰にだってよくある……赤点のテストを机の中に押し込んで隠したり、地面に落したお菓子を埋めて隠したり、殺人犯が死体を埋めたりバラバラにして排水溝に流したり。

 耳元で飛ぶ小五月蠅い蚊を知らず知らずの内に叩き潰したとか。

 そういう逃避行動を、つい勝手に取ってしまっただけで。


「……あ、ああああ。

 理子、先に、逝った、のね。

 ああ、次は、やっと、私の、番……」


 片割れを失った少女は、半分錯乱したかのような、ようやくの念願が叶ったかのような、歓喜と喪失の二つに戸惑っているような呟きを零していた。


「……まだ、一匹、残っている、のか」


 その声に俺が振り向いた先には……もう一つ、俺の不安感と不快感をかき立てるクソが見える。

 ……見えてしまう。

 ただ視界に入るだけで不快感が湧き上がり、不愉快な何かを連想するソレを、俺は直視しようとすら思わなかった。

 相手が守るべき少女の姿をしているとか、無防備に祈りを捧げているだけとか、俺を神だと崇拝しているなどという、本来の自分なら殺すのを躊躇うべき条件が並んでいることなんて、気にすらならない。

 ただこの身体の奥底から湧き上がる不快感を消すべく、ゆっくりとソレへと歩み寄り……彼女の片割れを抉り殺した左手の爪をゆっくりと振り上げ……


「……ぁあ、我らが、神よ。

 ようやく、御慈悲を……」


 少女がそんな祈りを俺に向けて捧げるのを目の当たりにしながらも、俺の左手の爪は一切の躊躇いもなく、少女の心臓部へと突き立ち……この世界に滅びをもたらしたという教団の最高幹部の命を奪い去る。

 そうして塩塊と変わっていく少女の死体へと右足を叩きつけることで粉砕した直後、ようやく不快感が消え去った俺は、静かに安堵の溜息を吐きだし……


「……ぁ?」


 不意に、気付く。


 ──待て。

 ──待て待て待て待て。


 さっきの攻撃衝動が、殺人衝動が不快感をかきたてる「何か」を消し去るため、だったなら。

 俺の殺意が、知りたくない「何か」からの逃避行動だとするならば……


 ──俺は、一体……

 ──何から、逃避しようとしたんだ?


 自分の脳内に生まれた不可思議な攻撃衝動の原因を探るべく、俺が脳内の記憶を思い返そうと思索を過去へと向けた、その時だった。


「あ、スズキくんっ!

 見~つけたっ!」


 そんな声とともにバルコニーの奥……何処かへ繋がっている通路の奥から顔を出したのは、何度も何度も何度も何度も目にして見慣れた異形の顔……つまりがアリサの頭部であり。


「あ、ホントだ、スズキくんだっ!」


「あ、お久しぶり~、げんきだった?」


 そんな声と共に、二人三人四人と全く同じ顔が……アリサが次から次へと顔を出す。


 ──相変わらず、慣れやしねぇ。

 

 全く同じ顔が幾つも並ぶその光景に俺はそう嘆息するものの……それと同時に、彼女たちの顔を眺めることで、「この地下世界へと帰ってきたんだなぁ」という実感が湧いたのも事実だった。


「……ただいま」


「うんっ、おかえり、スズキくんっ!」


 何となく照れくさい俺は、明後日の方角を向きながらも、そんな帰還の挨拶を口にし、アリサたちは無邪気な声でそう言葉を返す。

 こうして、アリサたちと俺は再び顔を合わせることとなったのだった。


2017/11/01 22:11現在


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