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【完結済】ンディアナガル殲記  作者: 馬頭鬼
第四章 ~惨劇の戦場~
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第四章 第四話



「エリーゼにトドメを刺さなかったことを感謝いたします、破壊の神よ」


「構わないさ。

 正直、下手に憎まれると調教が面倒だからな」


 馬上から舞い降りたセレスの言葉に、俺は下卑た笑いで答える。

 いや、正直、『調教』って言葉がアダルトなゲームみたいな響きを伴っていて、その自分の想像に酔っただけでしかないんだけど……。

 馬から飛び降りた時に白い足が太腿まで見えて役得だったし。

 ……早い話が、俺の脳みそはもう既にピンク色の期待で埋め尽くされていたのだ。


「相変わらず、ですわね」


「ふん。そう言うな。

 生憎とサーズ族は女不足なんでな」


「……英雄色を好むとは申しますが」


 俺の言葉に、以前に見せたような嫌悪感ではなく、何処となく「仕方ないな」という雰囲気で語るセレス。

 それは二度も手合わせを行った所為だろうか。

 彼女とは何故か……ちょっとだけお互いに分かり合えたような雰囲気があった。


「ま、お前が俺の下へと来るなら、今すぐの和平交渉にも応じてやるが?」


「──っ!」


 ……そう。


 ──俺たちは、分かり合えているのだ。

 ──彼女が俺のことを分かり始めているように、俺も何となく彼女のことが分かってきている。


 そんな、彼女の要求をある程度は叶えるだろう俺の声に、慌ててセレスは背後を見やる。

 その視線の先では、勢いづいたサーズ族の戦士と、その勢いに押されながらも、まだ何とか踏みとどまっているべリア族の戦士たちとが戦闘を続けていた。

 戦場の様子を見てまだ勝負は決していないと判断したのか、セレスは首を横に振り神剣を正眼に構える。


「……ちっ。ダメ、か」


「ええ。まだ私たちが負けると決まった訳ではありませんから」


 それを合図に、俺と彼女は見つめ合いながら、静かに一足の距離を保ちつつ円を描くように歩く。

 そうしている間にも、俺は戦巫女の身体に視線を這わせていた。

 純白のドレスに白銀の甲冑。

 その下にあるのは戦場にいるとは思えないほど白く綺麗な肌。

 身体は贅肉など一切なく、だけど女性的な膨らみは保つという理想的なスタイル。

 そのお蔭か剣を構える様や足運びの一つ一つまでもが美しい。

 ……そして。


(やっぱり、綺麗だな)


 何よりも俺を惹きつけるのはその強い意志を放つ碧い瞳。

 宝石よりも輝くその瞳と視線を交わらせることで、俺は戦う目的を思い出し……戦斧に力を込める。

 逸る気持ちを抑えきれない。


 ──彼女を自分のモノとするという、身体中を熱く焦がすこの欲望を。


「いくぞぉおおおっ!」


「はっ!」


 先手は俺の一撃だった。

 渾身の力で振り下ろした俺の戦斧を、セレスは横に跳んで避けると同時に横薙ぎに神剣を振う!


「ちぃっ!」


 慌てて避けたお蔭か、ラメラーアーマーの鉄板が一枚吹っ飛んだだけで済んだ。

 そのカウンターを狙おうと無理な体勢のままで戦斧を横薙ぎに払うが、既にセレスは戦斧の届かない位置まで一足跳びに退いてしまっている。


(……相変わらず、速い)


 まるで量子化して実体が存在していないかのような戦巫女の速度に、俺は内心で舌を巻いていた。


「今度はこちらから行きます!」


「来やがれっ!」


 叫びと同時に飛んできたセレスの兜割を戦斧で受け止める俺。

 戦斧がミリ単位で欠けるが、気にしてはいられない。

 そのまま押し返そうと手に力を込めた瞬間、彼女の重さがふっと消え、気付けば胴を薙ぎ払われ、同時に腕へと神剣が飛んできている!


「ってぇっ!」


 咄嗟に筋肉を締めたお蔭で、斬られたのは皮一枚で済んだ。

 しかし、相変わらず。


(……まともにやって勝てる気がしねぇ)


 振う武器の速度が違う。

 身のこなしが違う。

 技術が違う。

 反射速度が違う。

 読みの練度が違う。

 足場への慣れが違う。


 ──こちらの攻撃が全く当たる気がしない。


 俺は歯噛みしつつも戦斧に力を込め、セレスの碧い瞳を見つめる。

 彼女の目も、やはり不安で揺らいでいた。

 必殺のハズの神剣の一撃を喰らっても平然としている俺の耐久力と、一撃で勝負どころか命が消し飛ぶような戦斧の一撃は……彼女にとってもやはり脅威なのだろう。

 しかし、幾ら彼女が不安を感じていたところで、こちらの攻撃が当たらなければ勝てるハズもない。

 だけど……ちょっとやそっとの小細工で当てられるほど、このセレスという白銀の戦巫女は容易い存在ではなさそうだ。


 ──速度や技術を幾ら競ったところで、全く勝負にならないのが実情なのだから。


 だったら……相手に勝っている場所で勝負するしかない。


(ただ強く、更に強く)


 そうして、小指の先にまで渾身の力を込めて振う戦斧は、やはりまたしても空を切る。

 だが、今度はカウンターが飛んでこなかった。

 避けるだけで精一杯だったのか、息を整えているのか。


「ならっ!」


 勢いづいた俺は更に力を込めて戦斧を振おうと更に大振りの一撃をセレス目がけて振う。


「それっ!」


「ってぇええええっ!

 くそがっっ!」


 その大振りを狙っていたらしきカウンターを見事に頭頂部に喰らった俺は、思わず悲鳴を上げていた。

 慌てて俺は自分の頭部に手をやるが、血は出ているものの頭骨に異常はない。


 ──だったら……命に別状はないっ!


「邪魔だ、こんなものっ!」


 額に流れ落ちてきた血を拭うと、更に一撃を加えようと戦斧を振い、また避けられる。


 ……そうして俺が一方的に切り刻まれる戦いをどれほどの時間続けたことだろう。


 必死に急所にだけは喰らわないようにしていたものの、俺の身体は斬り傷だらけの血まみれになり、俺の口は獣のように荒い息を吐くのに精いっぱいで既に言葉もなく、セレスも攻撃と回避の度に胸を押さえて息を整えるのに必死になっていた。


 ──だが、収穫はあった。


 俺が力づくで戦斧を振り回す度に、彼女の技が、体術がそれらを全て防ぎ切る。

 それは……彼女が今まで必死に培ってきた戦いの技であり、彼女が人生全てをかけて築き上げた技術そのものである。

 例えば、彼女の振るう聖剣はその膂力の無さを補うように、つま先から膝腰背中腕指先まで全てを連動させて速度を増す使い方をされている。

 しかも、ご丁寧に斬撃が始まるまで予備動作がないものだから、先を読むのはほぼ不可能で……速度を重視した振りと予備動作を消すという二つの相反する技術を両立させるのに、一体彼女がどれほどの鍛練を積んだのだろう。

 避ける動作にしても、体軸がブレることなく最小限の動きで戦斧の暴風域から身を躱し、しかも隙あらばカウンターを狙い続けるその度胸は、一体どれだけの修羅場を潜り抜ければ身につくものなのか。


(……殺すには、惜しい)

(……打ち勝ってみせたい)


 そんな相反する思いが、徐々に強くなり続けていく。

 ……そう。


 ──俺は彼女から一刃を喰らう度、一撃を避けられる度、彼女に惹かれ続けていたのだ。


 いや、別に俺はマゾヒストという訳じゃない。

 現代社会の上辺っ面だけの会話や、顔も合わせないメールのやり取りなんかよりも遥かに濃厚で濃密な『殺し合い』という時間を俺たち二人は過ごしていたのである。


(……現実の戦場では、漫画やアニメみたいに分かり合える訳がないって思っていたけど)


 こうやって間違いなく通じ合い理解し合える関係も築けるのだと、時代が変わろうとも世界が変わろうとも、人種が変わろうとも……人は人であってそう変わりないのだと。

 俺は戦斧の重みを通じて感じ取っていた。


「まだまだっ!」


「なら、これはっ!」


 そうして俺たちはまた言葉よりも遥かに重い刃を振い合う。

 受ける振るう避けられる振るう斬られる斬られる斬られる避ける振るう殴る蹴る転がされる突かれる飛び起きる。

 振るう突く振るう避ける斬る避ける斬られる斬られる薙がれる避ける振るう。

 そんな、剣風の竜巻が荒れ狂う最中。


「……ん?」


 ふと気付くと、サーズ族とべリア族の戦争はいつの間にやら終わり、俺たち二人の一騎討ちを見守るようになっていた。


(ったく。人任せかよっ!)


 その集団に見守られる中、またしても俺は斬撃を喰らう。


「ぃてぇっ!」


 額の痛みに耐えながらも、俺が反撃にと戦斧を横薙ぎに振り回す。


 ──その、刹那。


 俺の戦斧を大きく避けたセレスの身体が、足元の砂に取られたのか、それとも疲労の所為か……

 ほんの一瞬だけ、傾ぐ。


「っ! 今だっ!」


 そこを俺は勝負時だと感じ、手元の戦斧を戦巫女目がけ……

 ……ただ『投げ渡していた』。


「えっ?」


 大振りの一撃でも蹴りや拳でもない、殺気の全く感じられない俺の挙動に、一瞬だけ戸惑ったのかセレスの動きが止まる。


「~~~~っ?」


 次の瞬間、その戦斧の尋常じゃない重さに気付いたのだろう。

 セレスは慌てて塩の砂漠へと身体を投げ出し、上手く戦斧の下敷きにならずに済んでいた。


 ──だけど。


「貰ったっ!」


「しまっっ!」


 ──俺が狙っていたのは、その緊急回避直後の硬直っ!


 身体ごと投げ出す形で何とか彼女の足首を掴むと、神剣での抵抗も意に介さず……そのまま彼女を持ち上げ……

 真下の地面へと叩き付ける!


「かっ! はっ!」


 叩き付けられた時の凄まじい衝撃と痛みを喰らってもその碧い瞳は負けるものかと必死に抵抗の光を放っていた。

 だが……幾ら彼女が戦意を失っていなくても、生憎と彼女の身体がもう動かないようだった。

 あれだけ見事な動きを見せていた彼女のは脚は、俺のたったの一撃でただ塩を蹴ることしか出来ず。

 あれだけ多彩な剣技を誇っていた彼女の腕は、俺のたった一撃でただ塩を掻くことしか出来なかった。

 まだ聖剣をこそ手放さないものの、俺の一撃を喰らった彼女の身体は……もはや立ち上がることすら叶わなかったのだ。

 そして負けを認めたのだろう。

 セレスの手から力が抜け……その手から聖剣が零れ落ちる。


「俺の、勝ちだっ!」


 そんな戦巫女を見下ろしながら、俺は頬に走る切り傷からの血を拭い、そう叫んでいた。

 達成感と優越感と安堵とを混ぜ合わせた感情が身体の奥からとめどなく溢れ出てくる。

 ……こみ上げてくるこの感情に名前を付けるなら、「勝利の味」と呼ぶのだろうか。


「俺の女になれ、セレス=ミシディア。

 なんだったら、べリア族との講和の席を設けても良い」


 その激情の所為だろう。

 気付けば俺は、何の算段もないままにそんなことを口走っていた。


「なっ。それはっ!」


「破壊神どのっ!

 幾らなんでもっ!」


 当然のことながら、「講和」という単語にサーズ族からは異論が上がる。

 ……だけど。


「黙れっ!

 俺に逆らうかっ!」


 勝利の熱に浮かされたままの俺は、そんな彼らを一喝して黙らせる。

 実際、気持ちでは「講和なんて冗談じゃない」と思っているサーズ族にしても……これ以上の戦いは無理だと分かっていたのだろう。

 セレスは俺の傷だらけの身体を見、サーズ族の悔しそうな、だけど納得を見せる表情を一瞥し……

そして傷ついてこれ以上の戦闘は不可能と明らかに分かるべリア族に視線を向けると、悔しそうな表情を浮かべていた。

 ……だけど。

 それもほんの一瞬のことで。


「~~~っ、くっ。

 ……分かりました。私は貴方に従います。

 ですが、べリア族の戦士たちを……」


 そしてようやくセレスの、金髪碧眼の美少女の艶やかな唇から、その肢体を俺に捧げるという降伏の言葉がついに囁かれる。


(やったっ!)


 その降伏の言葉に、俺は歓喜と同時に興奮を隠しきれなかった。


 ──だって、仕方ないだろう?

 ──この美少女を、これから好きにして良いというお墨付きを本人からもらった訳だぜ?


 ……好きにする。

 ……つまり、スカートをめくり、あの鋼鉄の貞操帯を剥いで、未だに見たことのないその奥を。

 いやいや、前に一度見たあの真っ白なおっぱいを好き放題するのも良いな。


 ──触る撫でる揉む吸う。

 ──どれにしようか悩んでしまう。


 それ以上に、あの綺麗な顔の、小さい桜色の唇に吸い付いても良いし、もっともっと凄いことを……子供が出来ちゃうようなことをしても良いという訳で。


「はぁっ、はぁっ、はぁぁぁぁぁぁっ」


 俺は興奮のためか、疲労のためか、荒い息を必死に整えようと必死に深呼吸を一つ。

 だけど……動機は全く収まらない。

 緊張からくる手の震えと、成すすべなく膝が笑っているが……疲労の所為か緊張の所為かよく分からない。

 ただ、このセレス=ミシディアという美少女が俺に屈したということだけは明らかな事実で……彼女も疲労の所為かそれとも将来を思い浮かべた所為か、顔を赤らめ目を潤ませ……


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