第四章 第二話
俺が送還の儀を受けて逃げ出せるまでに要する日数は七日と聞いた。
そして……あれからまだ四日しか経ってない。
つまり、決戦とやらでサーズ族を滅ぼさずに、俺自身が生き延びなければ帰れないという訳である。
(~~~っ!
何なんだよ、この状況はっ!)
苛立ちまぎれに俺は近くの柱をぶん殴り、俺の拳は石で作られている柱を易々と破壊する。
だが……それで状況が何ら変わる訳でもない。
「ひっ、な、何かご不満でもっ?」
結局、俺の八つ当たりは、ただ近くの神官を脅えさせただけだった。
恐怖に脅える神官を無視しつつ、俺は自室に戻る。
「……はぁ、どうしたものかなぁ」
部屋で服を脱いだ俺は、先日斬られた傷をなぞりながらそう呟いていた。
斬られたのは皮一枚だったし、そんな傷はもうとっくに癒えてしまい、傷跡すら幽かに残っているかどうか。
(……だけど、なぁ)
それでも、俺が斬られて怪我したという事実は変わらないのだ。
──怪我はしたくない。
──だけど帰りたい。
──でも、帰るためには無傷じゃいられない。
その二律背反に俺は頭を悩ませていたのだった。
「っと。よしよし」
悩んでいる最中、ほぼ無意識の内に近くで中空を眺めていた少女を抱き寄せる。
……コイツはこう見えて抱き心地が良く、ここ数日の間、重宝していたりする。
ただ、相変わらずその視線は何処を見ているかも分からず、抱き寄せることに抵抗も何もない。
ついでに言えば、女性特有の香りよりも小便臭さが鼻に突く始末で、一発ヤるとかそういう気持ちは一切湧かない。
「……あ~あ。
やっぱりコイツじゃなくて、だな」
俺は少女の頭を撫でながらも、そう呟く。
……そんな俺の脳裏にあったのは、やはりあの白銀の戦巫女。
整った顔、凛とした声、引き締まった手足、そして何より先日見せてもらった小さくもなく大き過ぎず白く柔らかそうで滑らかで、中身の詰まって弾力と張りのある、あの素晴らしきおっぱい。
今触れている少女の、こんな膨らんでいるかどうか分からないような、真っ平らな胸じゃなくて。
しかもこうして触っても反応すらしない壊れた少女なんかじゃなくて……
「……アレを手に入れたいよな~」
記憶の中から三日前の映像を引っ張り出しつつ、俺は呟く。
斬られたのは確かに痛かった。
血も出たし正直怖かった……二度と斬られたくないとは思う。
……だけど。
──アレを手に入れずに帰るのは、もっと痛いんじゃないだろうか?
「帰ったら、二度と手に入れられないんだぞ?」
……そう。
あんな美少女……世界中探しても希少種である。
元の世界では彼女なんていたこともなく、もてる要素なんて欠片もない俺では……正直、声をかけるだけで憚られるような絶世の美少女なのだ。
そんな相手に好き勝手して良い。
──しかも何をしても警察に捕まらない。
元の世界の何処を探してもそんな場所、あるハズがないと断言できる。
「……そう、だよな」
そう考えると、覚悟は決まった。
──多少斬られようが、知ったことか。
欲しいモノが手に入るんだから、怪我に怯んでなんていられない。
怪我と言ってもちょっとカッターで斬られる程度なのだ。
……茨の藪へ飛び込むだけで女の子を口説けると思えば……その程度の怪我なんて、大したことじゃないだろう。
そう覚悟が決まると、後は簡単だった。
俺は膝に少女を侍らせながら、あの戦巫女に対抗する策を脳裏で練り始めたのである。